26 19分の1の信頼
怪鳥(ウチ曰くガーディアンと言うらしい)は、ターゲットを俺から完全にサニィへと切り替えたらしい。
そりゃあそうだろう。アレの目的は神器を手に入れた者の排除。
ただ腰に下げてアクセサリー代わりにしているだけの俺と、実際に使いこなしているサニィのどちらを狙うべきかということは、鳥頭でも理解できたようだ。
レイン、サンドラ、そしてスノウの3人に守られながら、度々矢で牽制を入れるサニィは何かを狙っているように見える。
矢に威力が乗っていないように思えるのはそれが原因だろう。彼女は何かを待っている。敵が隙を見せる瞬間か、それとも――
「ギェエエエエエエエエエ!!」
「うぐ……!」
高周波の鳴き声が不快に響く。
実際に対峙していればアドレナリンだかなんだかが出て気にならないんだろうけれど、残念ながら今の俺は傍観者だ。ここはサニィに任せると決めた。
彼女の成長の成果をしっかりと見届けさせてもらうと。
『落ち着いている、デス』
「ああ、とても集中してる」
『彼女も、デスが』
どうやらウチは俺のことを言っているらしい。つい先ほど、ガーディアンの鳴き声に圧されて泉の淵からずり落ちそうになった俺に。
どこが落ち着いているんだとツッコミたいところだが、おそらくウチが言っているのはそういうことじゃない。むしろ、気圧されながらも戦闘態勢を取らずのんびりしていることを言いたいのだろう。ある種、責めていると言ってもいいかもしれない。
「俺は信頼しているからな。アイツを……いや、アイツらを」
『モノグサンは、そういう使命の元、生まれた、デスか』
「使命? そんな大層なもんじゃないよ」
ウチの言い方に俺はついおかしく感じ、笑ってしまう。
「俺が生まれ、育ったのは、決して彼らと共に歩むためじゃない。俺は今までずっと、それこそ1年近く前までは、ここにいる誰のことも知らなかったんだからな」
『1年……』
人間より遥かに寿命の短いウチに、その時間がどれだけ大きなものか、俺には実感が持てない。
俺が19回積み重ねてきた中の1回分。そう思うとストームブレイカーのみんなと過ごした時間は短いものだろう。
人間の寿命が平均80年くらいだとすると余計にちっぽけに思える。冒険者となればその平均もグッと下がるので、1年という時間の重さはやはり人それぞれになってしまうのだけれど。
でも時間は関係ない。
俺は自分が何を願われて生まれたのか知らない。親の顔なんか見たこともないからな。そもそも望まれていたものなのかどうかさえ分からないし、物心ついた時から親元を離れていたという事実から、きっとあまり良いものではないのだろうと想像はついている。
そして、俺が育てられた理由だが、これは明らかだ。しかし、口にしたくはない。ストームブレイカーの誰にも語ったことがない程度には。
もしも俺がその育てられた理由――使命と言い換えてもいいかもしれないそれを俺がまっとうしていれば、きっとレイン達に出会うことはなかっただろう。
「自分の生み出された使命が見えていたとして、それに殉ずることだけが幸せじゃないさ。少なくとも俺は誰かに与えられたわけでもなく、自分でアイツらに……レインに、スノウに、サンドラに、そしてサニィに出会えた。これは俺の人生の中で最も誇らしいことさ」
『使命に、殉ずるだけじゃない、デス……』
「そして、それが正しかったと、俺だけじゃない。アイツらみんなと、もしかしたらこれから先仲間になるかもしれない奴らも含めて、全員が証明してくれると思ってる。自分一人じゃ心許ないけれど、信じた仲間たちが一緒なら、こんなに心強いこともない」
そして今、また一つ。
彼女が証明してくれる。俺の選んだ道が間違いじゃなかったと。
「頑張れ、サニィ」
まぁ、それが俺の手柄だと言い張るつもりも無いけれど。
なぜなら、彼女は出会った時からずっと、太陽のように輝かしく暖かい素養をその身に宿していたのだから。
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