第404話 再会
ケビンは、ギャロザと共に被害者を助ける為に動く事を決意した。しかしながら、ケビンは自分一人では剣を振る事ぐらいしか出来ないと思い、村に帰った後、ハナーサを誘う事になる。彼女も盗賊に
そして、肝心のザレイン農場だが、知っていても何かする事は出来ず、今は作戦を立てているところ…という話だが、実際には、いくら作戦を立てたとしても、何か出来るようなスキルの持ち主は居ない為、絵に描いた餅。これは俺がそう思っているのではなく、ギャロザが言ったのだ。
ギャロザ自身が、何故こんな事をしているのか。これについては、救われたと言っていたように、理由が有るらしい。
何でも、ギャロザは昔、貴族の護衛のような仕事をしていたが、その仕えていた貴族というのがクソ野郎だったらしい。そんな奴に、金の為とはいえ使われ続けており、自分で自分が惨めになっていた時、二人の美女に出会ったそうだ。その二人がクソ野郎の貴族を殺し、自分は見逃してくれたらしい。
それから、自分を惨めに思うような生き方は止めようと思い、仕えていた貴族に囚われていた奴隷の女性達が逃げて来たところを助け出し、この場所に連れて来た。それがこの村で生活し、被害者達を助ける生活の始まりだったとの事。
さて、この話を聞くと、何やら思い出す話が有る。
そう。ハイネとピルテが話していた、フージという下衆貴族の事だ。
奴隷を殴りまくるクソ野郎で、ハイネとピルテ、そして今は亡き部下二人が殺した貴族だ。話では、奴隷の女性達は助け出したが、その後の事は彼女達自身に任せたという事だったが…もし、このギャロザが、その時に逃がした門兵の男二人の内の一人だとしたら、話が繋がってくる。
「もしかしてだが…その美女二人というのは、美男美女の部下と、奴隷化した冒険者を連れて来ていなかったか?」
「えっ?!な、なんでそれを?!」
おう。ビンゴ。
話の中で聞いた事から察するに、恐らくだが、ハイネ達を通そうと決めてくれた門兵の方だろう。
それにしても、まさかこんな所で会う事になろうとは…ハイネ達も、この事を知れば喜びそうだ。
「もしかしてあの方々をご存知なのですか?!」
「そうだな。知っているというか…」
「えっ?!ちょっと待って?!ギャロザが助けられたって人達と知り合いなの?!」
「待て待て。落ち着け。」
ギャロザとハナーサがかなり驚いている。
二度と会えないだろうと思っていただろうし、知り合いに会えたのは奇跡みたいなものだ。驚くのも無理は無い。
「知り合いというか、今は一緒に行動しているぞ。」
「はっ?!えっ?!ちょっと…えっ?!
カイドーさんとニルちゃんはずっと二人だったわよね?!」
「えーっと…まあ、色々と事情があってな。今からそれを説明するから。」
ここまで彼等の事が分かれば、信用しても問題無いだろう。
俺はハイネ達と共に居る事や、ハンディーマンやザレイン農場の事を探っている事を話す。
「何よ?!私達も試されていたって事?!」
「言い方が悪いな。信用出来るか探っていただけだ。そっちも同じだろう?」
「くっそー!してやられた感じがするわ!」
「まあまあ。俺達と同じで、簡単に自分達の状況を話せない立場なんだ。お互い様なんだし。」
ハナーサが悔しそうにして、それをギャロザが落ち着かせる。そして、そこから更に、ザレインや盗賊の件に、フヨルデが関与している事を話した。
「まさかジャノヤの領主様が?!」
「やはり知らなかったのか。」
「え、ええ…全然知らなかったわ。盗賊の討伐部隊を編成したり、ザレイン撲滅に対しても精力的な姿勢を見せていたから…」
「……蛙の子は蛙…か。」
「ん?どういう事だ?」
「ジャノヤの領主、ブードン-フヨルデは、俺が昔仕えていた、フージ-フヨルデ。その父親なんだ。」
「そこで繋がってくるのか…」
詳しく話を聞いてみると…
フージ-フヨルデは、ジャノヤ南西にある街、ポナタラに居を構えていた貴族であり、その父親はジャノヤの領主ブードン-フヨルデ。ブードンの実子は数人居て、その一人がフージらしい。ただ、フージは、話に聞いていたように頭が悪く、好き放題やっているような奴であった為、父親であるブードン-フヨルデから適当な理由でジャノヤを追い出され、ポナタラへと追いやられたらしい。
フージに能力が有れば、ポナタラの領主として任命されていたかもしれないが、残念ながらそんな能力は無く、ただの金食い虫。ブードンとしては悩みの種的な扱いだった事だろう。しかし、実子であるが故に、手を出さないわけにもいかず、ポナタラに追いやる事しか出来なかった…という事になっているらしい。
あくまでも、
因みに、この世界における貴族という概念に関してだが、そもそも国という概念の無い世界において、貴族という階級がどのように決められているのか。そして、爵位等は誰が決めているのか。それについて触れておくと…
まず、爵位については、元の世界の西洋の概念と同じで、下から男爵、伯爵、侯爵等が有る。俺も詳しくは知らないが、準男爵とか子爵とか、色々と有るらしいが、よく分からない。爵位が上になる程、偉い人…くらいの感覚だ。
この爵位は、誰が決めているのか。これは一言で説明出来る。族王だ。
この世界の大きな街というのは、必ずどこかの族王の
あまり大きくない街や村の中には、そういった紐付けがなされていない場所も存在するが、そういった街や村には、貴族が居ない。テノルトはまさにその例だろう。
貴族なんて居なくても良いだろう?と思うかもしれないが、ここで貴族本来の役割が関係してくる事になる。それが領主、領土という概念だ。
爵位というのは、族王が庇護する街を、族王に代わって統治するという役割を与えられる地位であり、地位と共に領土を必ず賜る事になる。そして、預けられた領土は、その貴族が族王から任せられた土地という事になる為、上手く統治出来ず、滅びました…となれば、命は無い。つまり、貴族の役割としては、衛兵を雇い、領土を守る。これが最も重要な任務という事になる。
ということは、貴族の居ない街や村というのは、その役割を果たしてくれる人が居ないという事になる為、何か起きた時に逃げ込む場所が無い…という事に繋がる。これは住民としては非常に困った案件で、やられたらやられっぱなしになってしまう事もしばしばだとか。
故に、新しい村や街が出来た時は、どこかの貴族様の元へ行き、こっちも守って下さい。代わりに税を支払いますので。という交渉が必要になってくる。
すると、そういう村や街は、名目上、貴族が庇護する村や街になるのだが、領主不在となる。そんな小さな村や街に、族王がわざわざここはお前に任せる。こっちはお前だ。なんて指示が出来るはずが無い為、伯爵以上、つまり、侯爵や公爵と呼ばれる爵位を持った者が、独断で領主となる者に伯爵より下の爵位を授けて統治させる権利を持たされている。
なかなか難しい話だが、族王が任命した伯爵以上の者が一番デカい街に居て、そいつがそれより下の爵位の者を任命、周辺の中規模以下の街や村を統治する。といった感じだ。
しかし、爵位というのはどうにも穴が多く、爵位だけ授けて、領土は与えないという事や、領土は与えたが、村が盗賊の襲撃や自然災害等で消える事も有る。中には、名目上は領土を持っているが、そこには街も村も無い…なんて事も有るらしい。世間でドヤ顔をする為だけに爵位を授けて貰う為に金を積む奴も居て、それを認める伯爵以上の連中も居るという事だ。
そして、その最たる例が、このフヨルデ親子となる。
ブードン-フヨルデは、恐らく伯爵以上の爵位を持っており、自分の実子であるフージ-フヨルデに爵位を授けた。しかし、統治能力が無い為、領土は与えず、ポナタラへ。統治自体は別の者が行っており、フージ-フヨルデは奴隷を殴って悦に浸るだけのクズ野郎へと退化していったのだ。
一応、爵位を授かった者は、有事の際、招集に応じなければならないという責任を負うのだが…フージがそれを理解して爵位を受けたかどうかは甚だ疑問だ。
ここまで話を聞けば分かるが、クズの親はやはりクズで、親子共に害悪でしかないという事になる。
ただ、親であるブードンは、フージよりずっと頭の回るクソ野郎だったらしく、上手く人々を騙していたみたいだ。ギャロザはフージの一件から、ブードンの事も疑ってはいたみたいだが、証拠になるようなものは一切見付からず、親だけはしっかりしているのかもしれないと思っていたらしい。
俺達も、ハイネとピルテが血の記憶を辿ってくれなければ、ブードンが盗賊に手を貸している事は知り得ない事だったのだし、ギャロザ達は奴隷を…言うなれば違法に匿っている状態で、あまり外には出られない状況にあるし、詳しく調べられなくても仕方の無い事だ。
この隠れ村は、昔の日本で言うところの駆け込み寺のような存在ではあるが、駆け込み寺とは違い、後ろ盾が無い。下手に知られれば全滅の可能性が有るし、慎重にならざるを得ないのだろう。
「しかし、それなら話が繋がる。ここまで討伐部隊が動いていたのに、盗賊達が捕まらなかったのは、ブードンが情報を流していたからなのだな。それは見付からないわけだ。
それに、ポナタラを中心にザレインが流れ出ている事も。」
「ポナタラにザレイン農場が在るんだよな?」
「ああ。フージが死んだ後、ブードン自らが街の統治に対して指示を出していると聞いた。つまり、ブードンのやりたい様に出来る街なんだ。」
「ザレインを育てるのも、それを流すのも簡単に出来るのか。」
「くそっ…もっと早く気付いていれば…」
ギャロザは手を組んでギュッと握る。
「早く気付けたとしても、私達にはどうする事も出来なかったわ。」
「被害者を減らす事が出来たかもしれないだろう!」
ギャロザが立ち上がり、怒鳴る。
「俺はあの時決めたんだ。目の前に居る、苦しんでいる人達を一人でも多く減らそうって…」
「減らせているはずよ。少なくとも、この村に住んでいる皆は、ギャロザのお陰で苦しみから解放されたのよ。」
「………………」
ギャロザに落ち着くよう、ハナーサが優しく言うと、悔しそうにしながらも、ギャロザは座り直す。
「取り乱してすまない…」
「見ず知らずの人の為に、そこまで怒れるのは、本当に羨ましいと思うぞ。」
「…確かに見ず知らずの人ではあるが、それは俺を逃がしてくれたあの二人にとっても同じ事だ。受けた恩を直接返す事は出来なかったが、受けた恩は恩だ。」
恩を別の人に返す…か。人は変わろうと思えば、ここまで変われるものなのかと感心してしまう。いや、ギャロザの場合、元々そういう素質が有ったのだろう。
「そ、それで…」
ギャロザが緊張しながら聞いてくる。ハイネとピルテに会えるか聞きたいんだろう。
「ギャロザが許してくれるなら、ここを拠点にしても良いかもしれないな。俺達なら出入りもそこまで難しくはないし。」
「勿論大歓迎さ!」
「あー、後、もう一人連れ合いが居るんだが。」
「全然構わないさ!いつ来られるんだ?!」
かなりの食い付き。余程ハイネ達に礼を言いたいのだろう。
「そうだな…今から戻ってとなると…今夜には戻って来られると思うぞ。」
「本当か?!こうしてはいられないな!直ぐに受け入れの準備をしなければ!」
「それじゃあ、俺達は一度戻るぞ。」
「ああ!」
嬉しそうなギャロザが立ち上がり、準備の為に動き出す。
「何か色々とあって疲れちゃったわ…」
それとは真逆で、机に頬を置いて脱力するハナーサ。
「帰りの馬車でゆっくり休むと良いさ。」
「心の方が疲れたのよ…」
心労に
「おー。戻ったかー。」
呑気に門番でグダグダしているケビンが、戻った俺達を見て声を掛ける。
「くっ…あの顔を見ると腹が立つわ…」
「え?なんだって?」
「はあ…後で話が有るわ。
カイドーさん達は行って。こっちの事は私が上手くやっておくわ。」
「助かるよ。」
疲れた様子でヒラヒラと手を振るハナーサ。何が起きているのか分からないといった様子のケビンを引っ張って村の中へと消えていく。
馬車を置いて、俺達はスラたん達の待っている拠点へ戻る。
「おかえり。どうだったかしら?」
帰って早々、既に動き出す準備を完了しているハイネが、状況を聞いてくる。
「色々と驚きの事実が発覚したぞ。」
「驚きの事実?」
俺はギャロザについて話をする。
「えっ?!あの門兵が村の長だったの?!」
「す、凄い偶然ですね…」
「知り合い?」
スラたんはハイネ達の過去を知らない為、誰?という状況だ。
「昔、クソ野郎を成敗した時に、門兵をやっていた男なのよ。その時に、私達が門を通る事を見逃してくれたの。あんな男の門兵にしておくには勿体ない男だとは思っていたけれど…そう。あの男が長なら納得出来るわね。」
「あの時、ハイネ達がどうする事も出来なくて逃げるままにした奴隷達も集めて、今の村を作ったらしいぞ。」
「ふふふ。あの時、変な忠誠心で戦う事にならなくて本当に良かったわ。」
「奴隷だった女性達も、救われたと知れて、本当に嬉しいですね。」
「ええ。」
ハイネもピルテも、本当に嬉しそうに喜んでいる。何も出来ずに奴隷達を放置して来たのが、気がかりだったのだろう。
「それで、ギャロザが、その村を拠点にしてくれて良いと言ってくれていてな。折角なら、そこを拠点に動こうと思う。
今回の依頼書の男に関する事や、ハンディーマンについての詳しい話は、まだ聞いていなくてな。どうせならハイネ達も一緒に話を聞いた方が良いだろうと、一先ず戻って来たんだ。」
「私とピルテは構わないわ。有難いくらいね。」
「僕も問題無いよー。研究はどこでも出来るからね。」
「よし。それなら早速移動しようか。」
ハナーサとケビンは、村に居るとの事で、今回は俺達五人で村に向かう。馬車は有るし、全員身体能力は高い。獣道もさっさと通り抜け、日が暮れる前に村に辿り着く。
「おお!これは!」
俺達が到着すると直ぐに、ギャロザと、恐らくだがフージを成敗した時に助けたであろう奴隷の女性達が走ってくる。
「お久しぶりです!」
「あの時の門兵さんね?」
「はい!」
ギャロザと奴隷の女性達が、ハイネとピルテに礼を言って、頭をペコペコ下げている。彼等にとって、二人は英雄なのだ。
「あ、あの…一緒に居た御二方は?」
「…………亡くなったわ。」
「「「「っ?!」」」」
部下の二人の事だ。ギャロザも、女性達も、顔を真っ青にしている。
「そうでしたか…申し訳ございません。」
「いいえ。謝る必要は無いわ。」
少し空気が重くなってしまったが、ハイネがそれを切り替える。
「ふふふ。それにしても、こんな村まで作って、随分と立派になったわね?表情も明るくなって、随分と見違えたわ。」
「いや…あの時は、どうかしていました。金の為に働いていましたが、食べる物だけなら、こうして山に入るだけで手に入りますし、何を
「それも若気の至りと言うのかしらね?」
「そんなに可愛いものじゃありませんがね。」
「あら。別に貴方が悪さをしていたわけでもなければ、加担もしていなかったのでしょう?それなら何も関係無いじゃない。」
「黙って見ていたという事が、加担みたいなものですから…」
「真面目ね…世界中の者達が、貴方のような考え方なら、もっとマシな世界になりそうなのに、そうはいかないからままならないわよね。」
「そう言って頂けると、嬉しいですね。」
「それにしても、何故そんな喋り方なの?あの時はもっとこう…フランクに話していなかったかしら?」
「そ、それこそ若気の至りというやつです…お恥ずかしい…」
「別に私達は構わないのに。」
「い、いえいえ!」
多少の遠慮は有るものの、基本的にはハイネ達に会えた事が嬉しいらしく、イケメンが爽やかに笑って、更にイケメンになっている。
「それより、ギャロザ…だったかしら?」
「あ、申し遅れました。この村の長のようなものをやっているギャロザです。」
「私はハイネ、こっちはピルテで、後ろがスラタンよ。それより…長のようなものって、曖昧な言い方ね?」
「うっ…」
「自分はそんなに偉くないからとの事だぞ。」
「偉い偉くないの問題ではないでしょう?」
「え、えーっと…」
「煮え切らないわね。これからは長をしっかり名乗りなさい。そうしないと村の人達が安心出来ないわ。」
「は、はい!」
「それで良いのよ。」
ギャロザにとって、ハイネとピルテは尊敬に値する上官的な存在なのか、元気に返事をして、ピシッと気を付けをする。
「それで、まだ色々と聞きたい事が有るのだけれど、良いかしら?」
「はい!何でも聞いて下さい!」
「ふふふ。それじゃあ聞くけれど、ギャロザは、何でハンディーマンの事について、詳しい情報を入手出来たのかしら?」
「それは御二人のお陰です。」
「私とピルテの?」
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