第77話 望まぬ再会

どうしたら良いのかと悩んでいるベルトニレイに声を掛ける。


「ベルトニレイ!俺とニルが境界線の外に出て何が起きているか確認してくる!その間に聖魂達と隠れてくれ!」


「え?」


「このままここが見付かれば聖魂達が危険になるだろう?!俺達なら見付かっても聖魂達には関係無い!

信用してくれ。必ず聖魂達の事は守ってみせる。」


「………分かりました。お願いします。」


「アロリアさんとバートを頼む!」


ベルトニレイが見ていた方角に向かって走り出す。

色とりどりの実がなる木々の間を抜け、デビルツリーを避けて進むと、久しぶりの浜辺へ出る。


「どこでしょうか…?」


「友好的な奴らだと良いが…」


暫く水平線を見ていると、こちらへと進んでくる大きな帆船が三隻見える。


「海賊では無さそうですね。」


「安心は出来ないぞ…」


少しずつ大きくなってくる帆船。直線的に進んでくるところを見るに、帆船は確実にここを目指して来ている。


「どうなっているんだ…?向こうからこっちは見えていないはずなのに……」


「おーい!こっちだー!」


大声に気が付いて浜辺を見渡すと、海岸沿いに立って大手を振っている男がいる。


ナイサールだ。


そして、その手には、何度か見た事のある魔具が握られている。


神聖騎士団の連中が持っていた、通信用の魔具。


声を繋げるだけの物だと思っていたが、もし通信相手の方角も分かる物だとしたら…


「くそっ!ぬかった!」


直ぐにナイサールに駆け寄り、手に持った魔具を取り上げる。


「な、なんであるか?!」


いくつもの魔石が取り付けられた魔具。その魔石の一つが、光っている。その魔石が光っている先には、帆船。


「くそっ!」


魔具を全力で海の彼方かなたへと投げ、風魔法で更に遠くへと押しやる。


「何をするであるか?!」


「それはこっちのセリフだクソ豚が!」


「ブヒィィ?!」


俺の剣幕けんまくに服をボロボロにしたナイサールが尻餅をつく。


神聖騎士団との繋がりがあると知っていながら、ここまで思い至らなかった。一応三人の身体検査はしたが、どこかに隠し持っていたのか、その後にどこかで拾ったのか…どちらにしても考えが甘かった。


「ダメです!進路が変わりません!」


あの魔具を使って呼んだのであれば、間違いなく相手は神聖騎士団。

この島に辿り着けば、当然この島を調べるだろう。ベルトニレイの作った境界線があったとしても、森を焼かれたら?魔法を大量に撃ち込まれたら?そうなった時も大丈夫とはとても思えない。

戦闘が起き、聖魂達の強さを知った神聖騎士団が、大陸に魔具を使い情報として流した場合、聖魂はアマゾネス同様に、狙われる立場になる。それだけは回避しなくてはならない。


ピコンッ!


【イベント発生!…神聖騎士団を追い返せ。

制限時間…三時間

達成条件…神聖騎士団を追い返す

報酬…薄明刀はくめいとう


受諾しますか?

はい。 いいえ。】


やはり相手は神聖騎士団か!邪魔だ!


俺は目の前に出たウィンドウが邪魔で払い除ける。


ピコンッ!


【イベントを受諾しました。】


偶然指がはい。のボタンを押したのか、受諾の通達が目の前に現れる。


「ニル!船を狙え!」


「はい!」


「なにぃ?!そんな事はさせないである!」


ナイサールは助かりたい一心であの船を呼んだだけだろう。別に間違った事はしていない。俺が逆の立場なら間違いなく神聖騎士団を呼んでいた。生きる為に足掻いただけの話だ。

もっと深く考えて行動するべきだった。完全に俺のミスだ。ナイサールに苛立ちをぶつけた所で事態は解決しない。が…


ドンッ!

「ブギィィ!」


俺達を止めようとするナイサールの腹に蹴りを入れると、波打ち際を転がっていく。


帆船がこちらに気が付いていない段階で大打撃を与えておきたい。まだ帆船までは距離がある。


俺は魔法陣を描き、水崖を発動させる。


帆船の船首付近の水面がズズズッと持ち上がり、帆船が大きく後方へと傾く。

数秒後、帆船の真上から大量の海水が降り注ぎ、水面がこれでもかと荒れ狂う。

帆は大きく避け、帆船のあちこちの木材が剥がれ落ちていくところが見える。

一隻の帆船は前半分が潰れて沈んだ。確実に全ての帆船を潰したと思っていたが、傷を受けたものの、二隻はまだ水面を進んでいた。


「ご主人様の魔法を耐えたのですか?!」


よく見ると、先頭を走る帆船の周りを水滴が旋回している。


「魔法で威力を殺されたんだ。」


帆船を囲うように風が旋回しており、水崖による威力を大きく削がれた。間違いなく上級の風魔法だ。あの船にはそれを簡単にやってのける程の強者が乗っている。


「ニル!出来る限り数を減らすぞ!」


「はい!」


ニルの描いた魔法陣からアクアスピアが飛んでいくと、帆船の横っ腹に当たるが、船の周囲を回っている風に威力を殺されて、大した損傷にはなっていない。


ニルが魔法を撃ち込んでいる間に、最速で描き上げた魔法陣が白く光る。


落光らくこう。上級の光魔法で、対象の上空から太く大きな光の柱が落ちてくる魔法だ。威力も高く、簡単には防げない。


帆船の真上の雲が、明るく光り出した瞬間に、帆船を包み込む程の光の柱が落ちてくる。


ズゴゴゴゴゴゴゴッ!


海の水を蒸発させ、一瞬にして帆船は水蒸気と光の中へと消えていく。


風に吹かれて水蒸気が斜め上へと流れていく。


「…………」


完全に吹き飛ばせていたら良いが……


水蒸気の中に目を凝らしていると、ブワッと水蒸気を掻き分けながら船首が現れる。


風魔法の力でほとんど無理矢理に進んでくる帆船。

帆船の上部には大量の海水。あれで光魔法の威力を殺したのだろう。

ただ、全ては吸収しきれなかったのか、帆船自体は半壊している。船体の一部は破壊され、中が完全に見えている。


船体からは何人か、信者服を着た者達が、海に落ちていくところが見える。


「もう一度……っ?!」


再度上級魔法を撃ち込まんと指を動かそうとした時、船体から一つの影が風魔法を利用してこちらへと向かって大跳躍してくるのが見える。


「この距離を?!」


「ニル!下がれ!」


ズガンッ!!


波打ち際に着地した反動で、付近の砂と海水が大きく跳ねる。

地面に着地した黒い刺繍の入った服の上から、黒い鎧を着た者。その足元の抉れた砂浜に、打ち返した海水がジャボジャボと音を立てて入っていく。


聖騎士の一人…それは間違いない。


風魔法で保たれていた船が力を失って、海の中へと沈んでいく。


片膝をついていた黒い鎧の男は、その場に立ち上がる。


茶髪長髪の人族の男。黒い瞳を持ち、体格がかなり良い。背中には、身の丈より大きな大盾が背負われている。


その顔を見た時。俺の頭には混乱が渦巻いていた。


「………ん?どっかで見た顔だな?」


男が口を開き、太めの声を発すると、心臓が強く跳ね回り、口の中が一瞬でカラカラに乾いていく。

息は荒くなり、手足が痺れた様な感覚に陥る。


「……いや。気のせいか。なんて皆同じ様な顔をしているからな。」


そう言って背中の盾を取り出した男の顔は、どこからどう見ても……だった。

喋り方も、仕草も、俺はよく知っている。俺をイジメ続けた男の一人。榎本 竜也。あいつが操っていたキャラクターだ。忘れるわけがない。

それに、という単語……


「ご、ご主人様…?」


背後から聞こえるニルの声が、何かのまくに遮られているかのように聞こえて、頭に入ってこない。


「バカスカ上級魔法なんか撃ち込みやがって。船がボロボロじゃねぇかよ。」


大盾を水平に構えられると、下部の部分は鋭く尖っていて、刃の様になっている事に気が付く。

それでも、パニックになっている俺は、自分の体を思う様に動かせない。


「なんだ…?やる気ねぇのか?まあ良いか。」


バンッ!!


ライルが地面を蹴った瞬間に、付近の砂や海水が吹き飛び、ライル自身の体は一瞬で俺の目の前まで迫ってくる。


盾の尖った先端が、俺の首に向かって突き出されているのに、俺の体は硬直して動かない。


「ご主人様!!!」


ガンッ!!バキンッ!!


目の前に現れた白銀の髪。鈍い音と鋭い音が同時にして体が後方へと吹き飛ぶ。


ザザザッ…


砂浜に背をつけたまま吹き飛び、痛みでやっと我を取り戻す。


「ぐっ……」


自分の腕の中で横になったままうずくまるニル。


「ニル?!」


「…だ…大丈夫…です…」


ニルの腹部に血が滲んでいく。大丈夫には見えない。盾と、先に掛けておいたホーリーシールドで威力を殺したが、それでも受け切れず、腹部に軽い一撃を貰ったらしい…


「へぇ。やるなぁ。どうやったか分からねぇが、反撃までしてきたか。」


ライルはその場に盾を突き刺して、ニヤニヤと笑い、鎧に入った傷を指で辿る。戦闘を楽しんでいるのだ。


「ご主人様…どうされたのですか……?」


「…あれは、前に話したライルという男だ。」


「っ?!」


「ニルはここで治療していろ。」


「私も戦いぅっ!!」


起き上がろうとしたニルが再度腹を抑えて蹲る。


「俺が情けないからニルに傷を負わせてしまった……すまない。だがもう大丈夫だ。頼むからここで治療していてくれ。」


ニルをそっと横に退かし、立ち上がる。


「女に守られて、情けない奴だな。」


嬉しそうにニヤニヤと笑い、盾を持つライル。


ただ似ただけのキャラクターでは無い。まごうことなきライルだ。中身が竜也かどうかは分からないが…今はそんな事を分析している場合ではない。


カチャッ…


俺が腰に差した刀に手をやって、鯉口を切ると、ライルが盾を構える。


こいつがライルなのか、竜也なのか、それは関係無い。今俺がしなければならないことは、全力でこいつを斬る。それだけだ。


断斬刀の柄を持つ手に力が入る。


相手は全身を隠す程の大盾使い。盾が武器にもなっていて、下手な突撃をすれば、逆に真っ二つにされる。正面から崩すのはまず不可能だ。


ならばやれる事は限られてくる。


バンッ!


砂浜に敷き詰められた砂を蹴り、一気にライルに近付く。


「速いな。」


キンッ!


焦った様子も無く、大盾の後ろから俺の動きを見ているライル。突き出した切っ先が大盾を突き、軽い音が鳴る。


「だが、俺には関係無い。」


ゴウッ!


大盾が地面と垂直を保ったまま、俺の方へと迫ってくる。


バンッ!!


俺はもう一歩足を前に出し、地面へと強く打ち付ける。


周囲の砂が吹き飛び、舞い上がる。


突如足場が悪くなった事で、ライルの体勢が崩れ、大盾がグラりと揺れる。


「うぉっ?!」


大盾がライルの顔を遮ったタイミングで、素早く背後に回り込み、断斬刀を全力で振り抜く。


ガギギッ!!


大量の火花が散り、ライルの大きな体が持ち上がる。


首を狙ったのに、ギリギリで大盾を間に挟まれた。

しかし、このまま振り抜く。


ガリガリッ!


大盾と断斬刀が擦れ合う音を聞きながら、全身の力をフルに使ってライルの体を海の方へと向かって吹き飛ばす。


バンッバンッと音と水飛沫を上げながら、海面を水切りで投げた石の様に跳ねていくライル。


全身が物凄いスピード回転していて、玩具の様に見える。


ザパァーーン!!


数百メートル飛んだ所で、跳ねるのを止め、大量の水飛沫を上げる。


「今の一撃で決めたかったな…」


吹き飛ぶ寸前。盾の内側に緑色の光が見えた。先に大盾の裏で描いていた魔法陣の光だろう。水面に衝突する時には全身を覆う様に風を纏っていた。見た目よりダメージは少ないはずだ。


そろそろ他の神聖騎士団員達も海底を進んで、現れる頃だ。


「ご主人様。」


「ニル。まだ休んでろ。」


「大丈夫です。傷薬も塗って、白布も巻きました。」


切れた服の下に、所々赤く染まった白布が見える。

傷薬を塗ったからと言って、直ぐに治るわけではない。傷口はそんなに簡単には塞がらない。

額に浮かんでいる脂汗あぶらあせが良い証拠だ。


「聖騎士の男は無理ですが……他の者達は私が相手をしておきます…」


ニルの言っている事は正しい。間違いなくライルは強い。そんなのを相手にしながら、他の連中まで相手にしていられない。


「無理はしないでくれ。」


「分かっています。」


ニルは俺から離れると、魔法陣を描き出す。


正面の海の中からは、ゾロゾロといくつもの影が現れる。


「こっちです!」


ニルの発動したアクアスピアが、そのうちの一人の首元に突き刺さり、絶命させる。周囲に居た者達は、ニルに矛先を向ける。


次々と現れる神聖騎士団員の中には、俺の方へと向かってくる者達も居たが、ライルに比べてしまうと、大した相手ではない。断斬刀の一振りで、兜を被った頭を数個同時に潰すと、二の足を踏んで近寄って来なくなる。


「邪魔だ。退け。」


波打つ海面から出てきたのはライル。先程までの笑みは消えて、怒りに満ちた顔をしている。


「は、はい…しゅ聖騎士様。」


どうやら、ライルは守聖騎士というらしい。怒りに満ちた顔は守と言うよりは攻だと思うが。


「痛ぇじゃねぇか。」


「………」


「てめぇに言ってんだよ!!」


バンッ!


地面を蹴り、盾を水平にして横薙に振るう。大盾とは思えないスピードだ。


バキバキバリンッ!!


一撃で全てのホーリーシールドが吹き飛び、なおも止まらない勢いで、俺の首を落としに来る大盾。


ギャリ!


断斬刀で受け止めるが、正直に受け止めて、受け止め切れるパワーではない。


軽々と持ち上がった俺の体は、海岸線沿いに吹き飛ばされる。


しかし、俺の体を包み込む様に細い木が現れて、衝撃から守ってくれる。

中級木魔法のウッドスフィア。攻撃されると発動する魔法で、自分を中心として、球状に細い木が幾重にも重なって現れる。攻撃自体は防いでくれないが、その後の衝撃からは身を守ってくれる。


ライルと同じ様に、神聖騎士団員達を相手にしながら描き上げていたこの魔法が無ければ、これで決着していたかもしれない。


バキバキッ!


勢いが無くなったタイミングでウッドスフィアがバラバラに崩れ去る。


「行くぞオラァ!!」


破壊された木の破片の向こうで、ライルの手元が緑色に光る。


ズバッ!


俺との間にある砂に切れ目が入り、それがこちらへ向かって進んでくる。風魔法を追い討ちとして発動させたのだろう。ライル自身もこちらへと向かって走ってきている。


ウッドスフィアの中で描いていた魔法を発動させる。


ガガッ!!


砂浜に持ち上がるウォールロック。


ズガガガガガッ!!


風の刃がウォールロックを削る音が何度も聞こえてくる。


「ウォラァァァ!!」


バガッ!!


ウォールロックを発泡スチロールかのように楽々と破壊し、大盾を構えたライルが突撃してくる。それに呼応こおうする様に俺も断斬刀を握り締めて走り出す。


「オラァァァァ!」

「うおぉぉぉぉ!」


ライルが大盾を水平に持ち上げ、そのまま真っ直ぐに突き出してくる。極めて単純な攻撃だが、速く、力強く、何より一切の躊躇いが無い。


正面から受けてしまえば打ち負ける事は必至ひっし。俺は上半身を出来る限り横へと逸らし、大盾の側面に頭を避ける。


大盾の刃部分が頬を僅かに掠め、鋭い痛みを感じる。だが俺の頭はまだ繋がっている。


盾の攻撃は躱した。次は俺の番だ。


断斬刀をその体勢のままライルの胴体へと振るが、鎧の隙間を狙う程の余裕が無い。


ガギッ!


鎧を直接捉えてしまった刃は虚しく金属音をかなでる。しかし、衝撃は与えられる。


ズザザザッ!


ライルが後ろへと押しやられ、砂浜に二本のわだちが出来上がる。


「ぐはっ!」


さすがに衝撃までは殺せなかったのか、苦しそうに息を吐いたライル。


ザンッ!!


俺の追撃を警戒して、垂直にした盾を砂浜に突き立てる。


「クソ痛ぇ。許せねぇ。」


ライルは血管を浮き上がらせた顔で、俺を睨んでくる。


「さっさと死ねやぁ!!」


怒りが増すに連れて、動きが単調になるタイプなのか、盾を構えたまま、ただただ一直線に突っ込んでくる。


「オラァァァ!!」


ブンッ!ブンッ!!


大盾を力の限り振り回し、俺を殺そうと躍起やっきになっている。ライルが怒り狂った事で、俺はむしろ冷静になれた。


振り回される大盾をしっかりと見れば、避けられる。

大盾が地面に当たり砂を撒き散らしても、慌てたりはしない。


「避けるんじゃねぇ!!」


ブンッ!ブンッ!


「クソがぁぁぁ!!」


バンッ!!


地面を打つように盾を振り下ろし、砂を巻き上げるライル。


「なんてな。」


視界が切れた瞬間に、それまでで一番鋭く、速い一撃が舞い上がった砂の向こうから放たれる。

キレた振りをして、単調な攻撃を行い、相手の油断を誘う。


この攻撃で、中身が竜也だと確信した。


高校時代からそうだった。


竜也は誰よりも冷静に周りを見ていて、怒りで我を忘れる事は絶対に無かった。俺をイジメている最中でも、周りをいつも見ていた。


そんな竜也を、俺はいつも見ていた。


この世界に来た時から、何度か考えた事がある。この世界に来た、俺と同じ境遇きょうぐうの奴が居るのではないかと。

まさかそれがピンポイントで俺をイジメていた竜也だとは思わなくて、取り乱したが、ニルのお陰で冷静になれた俺は、中身が竜也その人である可能性を考えていた。


もし中身が竜也であるならば、怒りに身を任せていたのは演技であり、その先に狙いがある。そう考えていて正解だった。


巻き上げられた砂で視界を奪われたのは、俺だけでなく、ライルも同じだ。


俺は砂が巻き上げられた時点で、その場から離れ、ライルの側面に回り込んでいた。


ニヤついていた顔が、俺の姿を見付けると、驚きの顔へと変わっていく。


「なにっ?!」


完全に大盾を振り抜いた姿勢。俺の刃はもうすぐライルの首へと届く。その光景を冷静に見ていた。


ザンッ!


「……ごふっ……」


俺の突き出した断斬刀は、ライルではなく、神聖騎士団員の一人、金騎士の胸部を貫いていた。


ライルとの戦闘に集中し過ぎて、横から割り込んで来た金騎士に気が付けなかった。


ズズズッ…


「…ぐふっ……守聖騎士様……今です……」


俺の持った断斬刀に、自分の体を深く刺し込み、両手で柄を握る俺の手を掴む金騎士。逃がさない、引き抜かせないとでも言いたげだ。振りほどこうとするが、金騎士は全力で踏ん張っている。


「……くっ…ははは!よくやった!!」


金騎士の犠牲を見て笑うライル。

金騎士の後ろから大盾を振り上げる。


仲間であるはずの金騎士ごと、大盾で俺を貫くつもりらしい。


「せめて楽に逝かせてやるよ!!」


ブンッ!!


ライルが力を込めて手に持った大盾を振り下ろす。

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