第四十二話 ヒロイン(笑)の奥の手
「なんなのよあの女!」
「わおぉぉおおおおおおおおんんっ!??」
ユリアナは声を荒げながら、仰向けに寝転がる男に踵を振り下ろす。苛立ちを紛らわすための道具に成り下がっている男は、むしろ彼女の暴力に喜びの悲鳴を上げた。
「それにあの男……なにが『あたしらみたいなクズが幸せになれると思ってるんで?』よ! あたしをあんたらみたいなクズと一緒にするなっていうのよ!」
「わうっ!? わんわんわふぅぅぅぅううんっっ!??」
ユリアナは、実に恐ろしいことに、自分のやっている事を『みんなやってること』と思っているのだ。
人間は誰だって他人を犠牲にして幸せを得ている。自分だってその社会の仕組みに従っているだけだ、と。
だが、結果的に見知らぬ誰かを犠牲にして幸せ得ているにしても、その犠牲者を減らしダメージを軽減する為のシステムが『社会』なのだ。犠牲は結果であって過程ではない。犠牲を幸せの過程として愉しむなど、本末転倒もはなはだしい。
ユリアナは自分がクズだと気付いていなかった。
「ふぅ、ふぅ……まぁ、いいわ。暗殺は所詮手っ取り早く始末するための次善の策。本命の策はこれからなんだから。ねぇ? あなたもそう思うでしょ?」
「わおん! ばうばう!!」
「ふふっ、そうよね。それじゃあお願いするわね、グランディア公爵様? あの女を絶望に叩き込みましょうか」
くくく、とユリアナが嘲笑う。
自分以外の誰かが苦しみのたうつ姿を思い浮かべて悦に入る……それはどう見ても、人間のクズの笑みだった。
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