第85話 ジャンプアップ
チラシを見た俺達はすぐにギルド内へ突っ込んでいき、掲示板近くの職員を問いただした。
「あのっ!このチラシなんですけど!」
「は、はい…?ああ、それはですね――」
結果から言えば当たり前の事だった。昨日ルイ達と別れたあと、他の冒険者がハクヤのスキルで出来た穴を見つけたそうだ。
現在は難易度不明と言う事で新米冒険者が危険な目に合わないよう一時的に立ち入りが禁止されているらしい。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「大きなため息ですね。幸せが走って逃げて行きましたよ。」
手遅れじゃん。
現在、やる事の無くなってしまった俺達はギルド内のテーブルで緊急会議中だ。
「頼みの綱のお宝がなあ…。勇者祭まで残りの期間は?」
「あと一週間程かと」
「……もう真面目に依頼達成していって地道に借金返すか?」
「嫌です」「嫌なの」「嫌だね」
こんな時だけ気の合う3人。だが否定ばかりで話はなかなか進まない。
本来はダンジョンで稼いだお金で屋台をレンタル、運が良ければそのまま城の修繕費に当てる予定だったがそれが丸々潰された状況に陥ってしまっている。
「……手っ取り早く金を稼ぐ方法」
「身体を売るのが早いのでは?」
「……直球だが話を聞こう。誰がかだけ聞いてもいいか?」
「ハクヤさんです」
「ままままままま待ちたまえ。そ、その案で最初に僕に行き着くのは流石に無理が無いだろうか?」
急なエルスのトンデモ発言に椅子を倒す勢いで距離を取るハクヤ。そして俺の膝の上で意味を理解することが出来ず雌豚を触っているイブ。
「まあまあ…理由はありますよ!」
「話せ」
「ワタルは止めてくれたまえ!」
ハクヤの声に俺が聞こえないふりをしているとエルスは話し始めた。
「まず、ハクヤさんは普通に顔が良いです」
悔しいがこればかりは納得だ。黒髪黒目で珍しいものの顔立ちはイケメン…と言っても過言では無い。
「そして、冒険者なのでもちろん身体も鍛えてあります」
宿で風呂に入ったとき見えたが筋肉はそこそこ付いていた。これも間違えでは無い。
「つまりですね、口を釘かなんかで開かなくしておけば完璧なハクヤさんが出来上がります」
物騒なジャンプアップやめろ。
「はあ、でも犯罪ごとは御免だしな。その案は却下の方向で……」
「犯罪繰り返して来たワタルさんがそれ言いますか?」
お前だけには言われたくねえ。
安心したのかハクヤはテーブルに戻って来て手の甲に顎をのせつつ何かを考えている。
そんな時だ、俺の膝の上にいたイブがふと口を開いた。
「隠し部屋にいけばいいと思うの」
「あのなイブ、それが出来なくな―――っては無いな。物理的には入れる……あ」
考えた事は皆同じ。互いに顔を見合わせると同じタイミングでうなずく。
そう、黙って侵入だ。
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「……見えたぞ!衛兵らしきやつらが穴の前に立ってるな」
「強行突破かい?」
「バレてはいけないので気付かれないようにですかね……」
覚悟を決め、ダンジョンの隠し部屋へ繋がる穴付近へやってきた俺達は木陰に隠れて機を伺う。
正規の入口はもちろん、ハクヤが貫いた穴の前にも衛兵がいて入れないと言う状況だ。
「……眠らせるスキルとか無いか?」
「あったらこれまでで使ってますよ!」
そりゃそうだ。確かハクヤが透明になるスキルを持っていたはずだが、あれは目を閉じている間だけの不良スキル。もはや頼れそうなスキルは無い。
「ふむ、ならば気を引いた隙に侵入するのが正解ではないのかい?」
「そんな上手くいくか?」
「ワタル、女装して向こうへ歩いて行ってくれたまへ」
俺は囮なのかよ。
「バカッ!俺が捕まったら意味ないだろ!」
「ワタルさん!声がっ!気付かれます!」
何か騒がしい事に気が付いたのか衛兵の一人がこちらへ向かってくる。すぐに黙る俺とハクヤだが衛兵の足は止まらない。
「……どうする?」
「のこのこやって来たとこを捕縛します」
もうそれ盗賊だよ。
だがこうなってしまった以上それ以外に選択肢は見つからない。覚悟を決め、身を潜めて待つ。
ザク……ザク……と草を踏みつける音が段々と近くなるにつれて俺の心臓の鼓動も早くなっていく。
だが、突然その音は止まった。
「……気のせいか」
気の抜けた声で確認した衛兵はそのまま回れ右をして元の立ち位置へ帰っていく。
「助かりましたかね?」
「……いや、今がチャンスだ。エルス、あの衛兵にハイリスクアップかけてくれ」
「今ですか!?えっと…いきます、ハイリスクアップ!」
エルスが唱えたのは確か一定期間スピードを上げてくれるバフスキル。
バフを受けた衛兵は歩いているので効果に気がついていない様子。
「バフなんかかけてどうするんだい?」
「まったく…忘れたのかよ。ハイリスクアップは効果が切れると動けなくなるんだろ?」
「は、はぁ…ワタルさんにも以前かけたことがありますよね」
俺達の持つスキルにはデメリットが多く付いている。だが、どうだろうか?それは誰もが対象である。
俺が使えば俺に、ハクヤが使えばハクヤにデメリットが降りかかる。ならばそれを相手に押し付けることも可能だ。
「つまりだ、デメリットも使いようによっては武器になる」
そう、これはデメリットだらけのスキルを持つ俺達の特権だ。
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