第76話 製作者に覚えが
ゴゴゴ――ゴゴ―ゴゴゴゴ――
ハクヤの元へ近付く俺だが後ろで大きな音が鳴った事により振り向く。
「……ん?そういやさっき、階段が消えたとかどうとか言ってたよな?」
「あ、はい。見てください!この通り私達が降りてきた階段が……あれ?」
エルスが振り向くとそこには疑う余地の無い、まごうこと無き階段が。
「え、ちょ、ちょっと待って下さい!本当なんです!ワタルさんも見ましたよね!?」
「揺らすな揺らすな!」
消えたり出て来たりしている階段に驚きを隠せないのかエルスは俺の肩を掴んでグイグイと揺らしてくる。
それに気付いたイブが俺の背中を支えてくれているがまるで意味がない。
「それは見たけどな…。何か条件でもあるんじゃないか?」
「心の清い者しか入れない……みたいな感じですかね?」
ならお前入れねえじゃん。
「トラップ部屋だね」
俺がエルスと取っ組み合いの喧嘩をする中何か心当たりがあったのか、落ち着きを取り戻したハクヤが口を開いた。
「トラップ部屋ってあれか?ボスモンスターを倒さないと出られないみたいな……」
「その解釈であってるよ。恐らくあのメルトスライムがボスだったんだろうね。だから今になって階段が出現したのさ」
なるほど、そりゃ危ないな…。もし俺一人で来てたらどうにもならなかった。その辺は流石ダンジョンなだけある。
「で、これから帰るんですか?」
「いや、それは……」
ボスは一応倒した。だが、イブの事や戦力を考えたら一旦引くべきなのかもしれない。
それにこんな事があったのだ。この階層を降りても同じ事がある可能性だって否定は出来ない。
「うーん…、俺は一旦帰るべきだと思うんだがお前らはどうだ?」
「先へ行きましょう!まだワタルさんが罠に引っ掛かってる様子を見てません!」
「勇者が後退……。つまり世界の終わり。僕が帰る理由は無いね」
「お宝見つけて良い物いっぱい買うの!」
ハクヤは置いといてエルスだけは仕留めておくべきかもしれない。
だが、この様子を見る限り案外ビビってるのは俺だけなのかもしれない。考えてみればそれもそうだ、こいつらは実力に脳が追い付いてないだけ。そう、つまりその脳の部分を俺が引き受け………てたまるかよ。
「よく考えろ?いま俺達はメルトスライムに苦戦してたんだぞ?それなのにこの先もっと強いモンスターが出て来たとき対処出来ると思うか?」
「あ、相性が悪く無ければ……でも、確かに下層へ降りたら罠とかもあってそれと合わせると若干厳しい気も…」
「だろ?今もイブが押そうとしてるボタンが罠に見えて仕方が……ッ!?おいそこ、ストップッ!!!」
「呼んだかい?」
失せろ。
「ぽちなの!」
「あッ!?」
僅かながら俺の声は届かなかった。
「イブ!今、何押した!?」
詰め寄る俺だが当の本人は一切悪びれた顔はしていない。むしろ楽しみにしているかの様子で、
「このボタンなの!」
イブの指が指す方向には明らかに罠の匂いが醸し出されている台座に赤いボタン。台座にはご丁寧に『絶対に押すなよ!』と書かれている。
「……文字が…読めなかったのか…?」
「ち、違うの!ハクヤが押すなは押せの合図って言ってたの!」
途端にハクヤがその場をそっと去ろうとするが捕まえてチョップを食らわせる。
「押すなと言われて押すやつがどこにいんだよッ!」
「ま、待ちたまえ、これも一つの策略さ」
「策略?」
なんとまあ、これまた胡散臭い…。
「ああ、僕にはこのダンジョンの製作者に覚えがある。それを確かめるまでにボタンについて教えたまでさ」
「覚えって……知り合いなのか?」
「いや、あくまでも同郷…の可能性があると言うだけさ。そして僕の考えが正しいのならばボタンを押して発動する罠は――」
そう言いかけた時だ、急に辺りに地響きの様な音が響く。だが地震では無い。
なんというか、何かが近づいて来るような振動……?
その音を聞き、ハクヤは笑う。対して問い詰めようとする俺だが次の瞬間、それは姿を表した。
天上がばっくり開き、激突すればヒトなどぺちゃんこになってしまう様な大きさの丸い岩が転がってくる
「ゔぇッ!?え、ばッ!?ちょ、おいっ!」
「ひとまず向こうの窪みまで走るべきだね。僕に着いてきたまえ」
こんな時だけ調子に乗るハクヤは地面を蹴り、窪みまでの道を印して行く。
「くっそ、とにかくそれが一番か。よし、俺達も行くぞ!」
「ワタルさん!」
「何だよ、早く――」
「壁画の隣のライオンみたいなオブジェの口に手を入れたら抜けなくなりました…」
ぎゃあああああああああああッ!!!!
「バカッ!何余計な事……抜けねえし!」
「いや〜興味には逆らえませんでした」
犯罪者みたいな事言ってんな。
「って、ほらッ!すぐそこッ!」
俺とイブがエルスを引っ張る間も岩は近付くばかり。遂には数十メートル先へと目視出来るように……。
「いやああああああああああッ!!」
「あ、安心して下さい!私達程度なら恐らくギリギリ天国行きだと思います!」
「解決になってねえッ!!!」
「イブも一緒なの!」
「それも駄目だあああああああああッ!!」
情けない悲鳴を上げる俺だが今回ばかりは許して欲しい。死ぬ一歩手前。これだけの体験は初めてだ。
そんな俺達なため、当然間に合うはずも無く纏めて岩に潰され――
「……ん?」
「ナイン・ブラスターッ!!!」
目の前に九つの光線が降り注ぐ。威力は少し遠くにいる俺達まで伝わって来ており、とても目を開いてはいられない。
そして数秒後、目を開いた俺はある光景を目にする事となる。
「君達大丈夫かな?」
そこに立っていたのは同い年だろうか?茶髪の青年だった。
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