アイアム・ユア・オッパイ①

本当に感極まったのか、ハナは両の眼に涙を一杯に浮かべて迫ってきた。

 お乳をしゃぶって下さい? 英語で言うと、プリーズ サック マイ オチチ。

 はて? 聞き間違いだろうか? 俺の事が大好きな娘がいきなり現れて「おっぱい触って下さい」ってならないかなと日頃妄想していたのが、遂に幻覚となったか?


「……もう一度言ってくれないか?」


「何度でも申します! ハナのお乳をしゃぶって下さいませ!」


 聞き間違いじゃなかったわ。これがあれか、嗜好は現実化するってヤツか。ナポレ◯ン・ヒルにごめんなさいするしかない。


「は、ハナだよな? え、なんで?」


「実はこのハナ、ムネヒト様に恩返しする機会を虎視眈々と狙っておりました! ふふふ、牛なのに虎とはコレ如何に。牛視眈々と言うべきでしょうか」


 言葉を遊ばせながら、牛娘のハナは鈴が鳴るような声で笑う。

 初めて聞く声の筈なのに、全く違和感がない。何年も前から聞いていたような親しみすらある。


「恩返し……?」


 もしかして、異世界初日に怪我を治したことか?


「はい。恐れながらハナに用意できるものなど、そう多くはありません。ですがムネヒト様は、常日頃からハナのお乳を直にお飲みしたいと仰っていました。僥倖といいましょうか、ハナにはムネヒト様に喜んでいただける物が備わっていたのです!」


 それがおっぱいか。

 改めて本人から確認されると恥ずかしい。しかも見た目は黒髪超乳美女。唐突な羞恥プレイかな?


「貴方様がお望みなら――と、本当は直ぐにでもお乳を差し上げたかったのですが、ハナは牛の身。卑しき雌牛のお乳に吸い付くムネヒト様が、傍からどう見えるかを考えないほど、ハナも常識知らずではありません」


 ならば人の身になれば……と、ハナは言う。

 ううむ、一理ある。確かに、牛のおっぱい直飲みする光景とか、ちょっとアレだもんな。

 とはいえ、牛から変身した牛娘のおっぱい吸うのもどうかと思う。


「そ、そうか……でも、どうやって人間に?」


「先程の『美人になるポーション』とやらが効いたのかと」


 プラシーボ効果ぱねぇ!?


「うふふふっ、冗談で御座います。ですがご懸念はごもっともです。お察しの通り、人の形をとった事で、我が自慢のお乳が幾ばくか縮んでしまいました……」


 いやソレは全く懸念してなかった。巨星ベテルギウスが、実は膨張と収縮を繰り返している天体というくらいピンと来ない。

 ハナは自分の胸を情けなそうに持ち上げているが、縮んでソレならレスティアが血の涙を流すぞ?


「しかしながら、お乳を作る機能に何ら陰りは御座いません! さぁ、何をご遠慮。タンとお召し上がりくださいませ!」


 たぅゆんと揺らしたバストから、ポタと頬に一滴垂れる雫がある。

 どう視線を逸らしたって周辺視野に入る巨大な乳肉からは、バニラのような薫りが立ち込めていた。

 中心は言うまでもない。桃に練乳が掛かったように、ハナの先端に白い雫が浮いていた。

 無意識の内に口をすぼめて居たが、ふと集中する視線を感じ慌てて首を振った。

 百人近い女の子に囲まれて牛娘のおっぱいチュッチュッとか、性癖歪むで。


「待て待てハナ! ほら、みんな見てるし、いま取り込み中だったし……ちょっと、は、恥ずかしい……」


 ハナパイの迫力に誘惑されながら説得を試みると、ハナは目尻をとろかせて微笑んだ。


「ああムネヒト様……何て奥ゆかしい……でもムネヒト様が恥ずかしながらハナのお乳をお吸いになるところも、見とう御座います」


 ちょっと誰だハナに変な嗜好を与えたの! いやコレ、容疑者は俺だな!?


「ちょ、ちょ、ちょっとコラァ! いきなり出てきてナニおっぱじめてんだし! あーし……らの男を横取りする気!?」


 硬直していた皆の中で、シンシアが一番早く再起動を果たした。

 ハナは四つん這いから体を起こし馬乗りの姿勢になる。グイの胸を張ったハナに気圧されたのか、シンシア達は一歩退いた。


「ふん。貴女達と口論する暇など御座いません。ムネヒト様はハナが頂戴いたします」


 そういうと、ハナは何処からか一枚の布切れを取り出した。端の方に刺繍が施されている。


(? 俺のハンカチ?)


 何で今それを? と、疑問を持つ前に、ハナは持っていた俺のハンカチを、ちょうど刺繍と乳首を擦り付けるようにしておっぱいに押し付けた。

 刺繍がハナのミルクに滲んだ瞬間、白く光った。


「……あ?」


 次の瞬間には、俺もハナもサンリッシュ牧場の牛舎に居た。


「は? え、嘘? 何故に?」


 何度見ても牧場の牛舎だった。正確にはD地区の牛舎であり、今は干し草の予備倉庫として使っている。俺とハナ以外に人影も牛影もない。

 もう何がなんだか分からない。今日一日で色々なことが起こりすぎたため、俺のキャパシティは遂に限界を越えてしまった。


「うふふ。ムネヒト様のお力を借りて、我らの牧場へと帰って参りました。お帰りなさいませ、ムネヒト様」


 いや俺の力じゃねえよ!? そんなワープみたいな事したことないけど!?

 絶賛当惑中の俺に、ハナは上から覆い被さり上半身を俺に押し付けてきた。切なそうに俺の名を呼びながら頬擦りしていたが、やがて四つん這いの姿勢に戻る。

 体勢を変えるたび、瑕一つないバストがユサユサと揺れた。先端は、ここ、ここと、俺を誘っている。


「さ、最早邪魔は入りません。ムネヒト様……お疲れでしょう? ハナのお乳で喉と心を潤して下さいませ。それとも――本当はハナのお乳など、要りませんか?」


 分かっているのは、ハナが俺におっぱいを触ってほしいと言うこと。

 既に色々な意味で限界だった俺に、断る理由など用意できるはずもなかった。

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