いらっしゃいませ、おっぱい王国民様!
三日月の女神、別名『クレセント・アルテミス』は非公認ギルドの一つだ。
冒険者組合公認ギルドが表だとするなら、非公認ギルドは裏。その数も冒険者に依頼する仕事内容も表のソレとは違う。
表ギルドは王都支部として一箇所しか無いが、非公認ギルドの数は優に二桁に達している。
依頼人や仕事内容の秘匿性に優れており、公には出来ない依頼や犯罪スレスレの仕事も金さえ支払えばを引き受けるという、ややグレーな組織体系をしていた。
しかし非公認ギルドと言ってもその有り方は多種多様であり、戦闘に特化したギルド、魔術に特化したギルド、素材集めに特化したギルドなど、個性特色に富んでいる。
一部ではその専門性の高さから、表ギルドを上回る成果をもたらす事もある程だ。
この『クレセント・アルテミス』は、言ってしまえば性風俗的ギルドの一つだ。
やってきた依頼主が、所属している冒険者に
素材集めやモンスター討伐などを依頼する者が皆無というワケでは無いが、そういった者はやはり少ない。たまに居たとしても、美女達をパーティメンバーとしてフィールドを闊歩したいというピクニック気分の冒険者ぐらいだ。
ただし娼館とは違い、金さえ払えば……とは行かない。
この禁則事項を乗り越える方法はただ一つ、彼女達を口説き落とすこと。
容姿、将来性、財力、話術など、欲しい女をモノにするため依頼主が自己の持てる魅力を総動員する場が此処だ。
最後に個別依頼を成功か否かを選択するのは『クレセント・アルテミス』の女達だ。
やってきた依頼人は女を選ぶ権利が与えられるが、彼女達もまた自分たちで男を選ぶ権利が与えられていた。少なくとも、この『クレセント・アルテミス』はそうだ。
異性を落とす駆け引きを愉しむ社交の場、それが基本的な裏ギルドのあり方になっている。
王都には他にも「おしりギルド」「おみ足ギルド」「二の腕ギルド」などが存在しているが、この『クレセント・アルテミス』は非公認性風俗ギルドの中でも最大級の勢力を持っている。
『クレセント・アルテミス』は特に、女性の魅力の中でも特に乳房を強調していることから『おっぱいギルド』と親しまれていた。
ちなみに、18歳未満の立ち入りは禁止である。
・
「「いらっしゃいませ、ご依頼主様!」」
「ぅ、おぉぉう……」
目のくらむ心地だった。
城のような(城に行った事無いけども)巨大なドアが館の内側に向かって開けられると、二十~三十前後の女性達が際どい格好で俺達を迎えた。
団体客を接待するホテルマンのように整列し、一斉に頭を下げている。
何故か、そのお辞儀の角度はバラバラだった。規則正しく並んでいるだけに少し気になったが、直ぐにその疑問は氷解する。
俺に対して、おっぱいが最も見えるように腰を曲げていたのだ。
巨乳で上背のある女性は深く、最敬礼ほどに腰を曲げおっぱいをユサと地面に垂らす。深い谷間がIの字になり、おっぱいの上半分を堂々と見せつけてきた。
巨乳で小柄の女性は浅く、会釈程度のお辞儀をして俺のほぼ眼下におっぱいを持ってくる。
慎ましやかな乳を女の子達もまた、それぞれの体型にあったお辞儀をした。
明らかにブラをしておらず、服を浮かせて乳房の形を俺に確かめてみろと言ってくるようだった。浅い半球形の向こうにみえる腹部までの暗黒が、洞窟へ向かうような冒険心を駆り立てる。
しかも、ほんの僅かに乳首が見えない位置で停止する技術が素晴らしい。あと三センチも上体を折れば、先端がコンニチワしてしまうだろう。衣服の影すらも、ふとすれば乳輪に空目してしまう。
それぞれのバストサイズ、身長、衣服。また俺の身長や立ち位置からの距離で、最適ギリギリの魅せ方をしてくるのだ。
(凄ぇ……! 一体どれだけの研鑽を積んで来たんだ……!?)
自他共に認めるおっぱい王国民な俺には分かる。
彼女達の一挙一動には理があり、歴史があり、またおっぱいに対する自負があった。
これがおっぱいギルド『クレセント・アルテミス』か。とても一介の童貞に戦える相手じゃない。
井の中の蛙、大乳(巨乳の事ではない)を知らず。俺はまさにそれだ。
俺が山脈のようなおっぱい達に慄いていると、モーゼ何某の奇跡のように彼女達が分かれ、中心から一人の女性が歩み寄ってくる。
「お待ちしておりんした、ゴロシュ様、ドラワット様……そして初めてまして、ハイヤ・ムネヒト様」
小さく挨拶したのは、ただ美しいだけの女性ではなかった。
歩く姿にも、その微笑にも、頭の上から爪先まで男の目を惹きつけて離さない魔力を感じさせる。
気品、高貴さ、そして薫り立つような色気。視界に収めているだけで、血の行き先が迷子になりそうな妖艶さが彼女にはあった。
薄い水色の髪は真夜中に輝く月を、アメジスト色の瞳は妖しさに染まった月を思わせる。
真紅の薄いドレスとフワフワした毛皮のボレロは、彼女の為にあつらえられたというくらいに似合っていた。
切り込みすぎでは? とコッチが心配なるスカートのスリットからは長い脚が晒されている。ウエストまで達するスリットからは、肌より他に見える布が無い。明らかにショーツを穿いてように見える。
いや、俺がそう感じるだけで実は穿いているのか? どっちだ? 童貞には鑑定力が足りませんわい。
そうして大きなおっぱいです。
チャイナドレスのように布で胸の全てを覆い隠しているが、露出の全てがセクシーの全てではないと俺は知っているはず。
大きく前に突き出した膨らみはミルシェにこそ及ばないが、彼女を除けば今まで見た中での最大級だろう。
間違いない。彼女がこの『おっぱいギルド』のギルドマスターだ。
「ようこそいらっしゃって下さいんした。わっちは、この『クレセント・アルテミス』のギルドマスター、ディミトラーシャという者でありんす。どうか今夜はごゆるりと、お楽しみくんなまし」
「ひゃ、ひゃい! どうもこちらきょそ……」
合いも変わらず俺の呂律は童貞だった。バッドジョブマイ舌。
(ん……?)
ふと彼女のおっぱいを見て気付いたことがあるが、それを尋ねるような真似はしない。
【ディミトラーシャ】
『クレセント・アルテミス ギルドマスター』
トップ ――㎝ ( )
アンダー 65㎝
サイズ 3.7㎝
28年4ヶ月11日物
『乳治癒』で確認し、やはりかと思う。そして同時に、彼女の秘密を知ってしまった罪悪感を覚える。
誰にだって知られたくない事情はある。レスティアと初対面のときにした失敗は、もうするまい。
こっそり問うにしても、彼女と信頼関係を築いてからだ。
「予約していたトネールソンだ。今日は愉しませてやってくれ」
トネールソンが双子騎士の姓らしい。そしてゴロシュの言い方に俺は違和感を覚えた。
「ええ~!? ゴロさんもドラさんも、遊んでいってくんないの~!?」
その違和感が形になる前に、ギルド所属の娘の一人がゴロシュとドラワットに甘えるような非難を口にした。
「わりぃわりぃ、俺達はオマケだ。ソイツも先輩が居たんじゃ思い切り愉しめないだろうからな。俺とアニキは今日は帰るわ」
「じゃあなムネヒト。支払いは俺達が明日の朝に済ませておいてやるから、のんびり遊んで行け」
「えっ!? お、俺独りでか!?」
連れてってやるって言ったのに、置いてけぼり!? 心細いよぉ!
「なんだよその顔は。お前はベッドの上にまで手引き書を持ち込むのか? いつかは独り立ちしなきゃならねぇんだ。それが今だったって話よ」
「いきなりそんなこと言われても心の準備が……! まずがシャワーと歯磨きを希望します! その後、一時間ほど瞑想させて下さい!」
「どっちもここにあるから大丈夫だ。着替えもレンタルして良いぞ? でも瞑想は知らん。十秒で済ませろ」
そんなぁ……!
「んじゃまぁ、そう云う事で」
言って二人は、不安な俺を置き去りにして再び開かれたドアから出て行く。
「「待っててね~! カナリアちゅわ~ん!」」
そのまま気色の悪い猫なで声で走り去ってしまった。
どうやら今日は違う店の気分だったらしい。サンダーブラザーズちょっと薄情じゃない?
「さーさー! そんな所に立ってないで、早く座りましょうよ!」
スルンと、俺の腕を一人が掴んだ。いや掴んだというよりは絡み付いてきた。更にその腕を、つきたての餅みたいなおっぱいに抱え込む。それだけで俺の全身は岩のように固くなってしまった。
俺の筋肉はカチカチなのに、アッチはプニプにフワフワ。アカンですよコレ。
「今日は上の階に一名予約客が居るだけで、他にご依頼主様は居ません! ほとんど貴方の貸切なんですから、ゆっくり愉しんでくださいね!」
「わ、ちょ……は!? 貸切!?」
なんてこったい! 近くの客から、振る舞いやら作法や何やらを盗み見る俺のカンニング作戦が!?
「一名様、酒場コーナーにごあんなーい! じ~っくり好みの
「わぁ、意外に腕かたーい! 胸板逞しー! 騎士サマって、やっぱり男らしいんですねぇ!」
「黒髪黒目なんて珍しいです! ねね、もっとよく見せて下さいよ!」
「彼女さん居るんですかぁ? 居ないならー、立候補しちゃおうかなぁ? キャーッ!」
ひょえええええええええ!?
わらわら女の子に囲まれて、もうどうすれば良いか分からねえ! イソギンチャクの触手に捕まった小魚の気分だ! そして竜巻のように俺を巻き込んだまま、大勢で座れるであろうソファーへと運ばれていく。
全身がマシュマロ、餅、豆腐、パン生地など形容できそうで形容できないおっぱいの感触に包まれる。
あー! 止めて止めて! 微妙にシャツを脱がして素肌にノーブラドレスおっぱいを押し当てて来ないで!
E、F、E、D、G、G、C、D、F、F、A、B、B……おっぱいの絨毯爆撃や! だんちゃーく! 今!
(こんな場所に来ちまって、俺は無事に帰れるのか……!?)
それは神のみぞ……いや、乳のみぞ知るところだった。
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