第六四話 冗談はほどほどに
――四月三〇日。
神戸
集会場の壁に設置されているモニターにはニュースが流れていた。
『―――損傷が激しく、人為的によるものと推定されています。死傷者は――』
ニュースは
能力開発部の拠点だった『D.A.Lab』は本島から離れた所にある人工島『スモールアイランド』に位置していた為、表向きは研究所として機能している事になっていた。情報統制部に所属している感応系能力者達による働きのおかげである。感応系能力者は人の感情や行動に干渉又は操作等が出来る。
現在、『D.A.Lab』は東京本部能力所の人達が現場を保存し調査していた。
「風成、調子はどうだ?」
神戸
「そうですね……いや、なんて言うんですか。高揚感? 俺が最強と言われてる能力者を倒してしまった。その事実に震えています」
「うっざ、それにあんた、あれ以来。あの時使ってた能力使えてないよね」
「プラズマだっけ? 多分、ピンチになったら髪の毛が白くなって出来る感じだろ。敵に追い詰められて目覚める謎の力。正直、痺れた」
「うっざ」
調子に乗り出した風成に
「ははっ、大丈夫そうだな」
と瞬也は言うと、彼と相席していた副所長。
「四聖獣を宿している訳でもないのになんで体が再生したんだ?」
「さぁ?」
「さぁってお前な……少しは気にしろよ」
「それ以前に、四聖獣飼ってたら傷が治るんですね」
「飼うって……ペットじゃないんだから。傷が治るといっても瞬間的には治らないぞ。少しずつ治るんだ」
「蜥蜴の尻尾みたい」
「なんか言ったか?」
「いえ、なんでも」
瑠那はしょうがない奴だなと思って会話を切り上げた。
「ふーせい! ほら口開けてよ」
楓は切られた林檎にフォークを刺して風成の口に運ぼうとしていた。
「よーく狙って入れろよ。あむあむあむあむあむあむ―――」
風成は高速で口を閉じたり開いたりと何度もパクパクしていた。しかも、肉体強化の能力を行使していたので、常軌を逸した速さだった。
「ちょっとっ、あはは、入れられないよー」
楓は愉快そうに言う。
「っ!」
啓子は風成の口の動きの速さを見て吹き出しそうになって口を押えた。
「啓子ねえ、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」
風成は楓の様子を見て、
(楓……出会った頃より随分明るくなったな。多分、最初は人見知りしてただけで、これが本来の性格なんだろうな。啓子の事もお姉ちゃんから啓子ねえって呼ぶようになってるし)
と思っていたら、
「ほら、ちゃんと口開けて」
楓は横から膝の上に座ったのである。当然、右手にはりんごが刺さったフォークがあった。
「え、ちょっと恥ずかしいんだけど」
「いいから、いいから。はい、あーん」
風成は仕方なく口を開けて林檎を食べた。そんな様子を怖い目で啓子は見ていた。
「……嬉しそうね……年下好きなんだ?」
「なんでそうなるんだよ、不可抗力だよ」
「啓子ねえも座る?」
「すすす、座らぬ」
啓子は楓の思わぬ台詞に慌て答えると変な口調になってしまった。
「啓子さん、武士なの? なんなの? 言い間違え?」
「……」
「座らぬって言ってたよな。 某! そんな所には座らぬ! みたいな」
「もうっ嫌い!」
啓子は風成におちょくられると食器を持ってキッチンへと向かって行った。
楓が「あらら……」と言うと瑠那は
「楓は何も悪くないからな、こいつが悪い」
と風成に向けて指差した。
啓子はキッチンに向かっていると
その際、茂が啓子に声を掛けると、
「どうしたんだぁ啓子っち? もしかして機嫌が悪いんかぁ?」
「ウホホ、そーいう時は体を鍛えてストレスを発散ぞ!」
と修が口を挟さんだ。すると啓子は立ち止まる。
「……二人とも、何時になったら働くんですか?」
「え……いや……あっしら、能力者としての仕事がある」
と修が冷や汗を掻きながら答えると茂も「そそ、そうだぁ、そうだぁ」と慌てて同調した。
「……奈良能力所の所長は六〇歳ですけど、表向きはお坊さんとして仕事しています。青森能力所の副所長も同年齢で農家を営んでいますけど……なんで役職がない二人は無職なんですか?」
「「…………」」
二人は精神的ダメージを受け、啓子は言いたい事だけ言ってキッチンへ食器を片付けに行った。
「機嫌が悪い時の啓子っちに話掛けるのはやめような」
「うむ……思わぬ飛び火が喰らってしまったぞ……」
茂の言葉に修は激しく同意した。
モニターに映っていたニュースからローカル番組に切り替わっていた。瞬也がチャンネルを変えたのである。
『商業地区『ロイヤルパーク』は来年リニューアルする為に絶賛閉店セール中です! それと誠に残念ですが南にある遊園地『ロイヤルガーデン』は営業終了となってしまいます! いやぁ、ほんと残念で―――――』
モニターを見ている風成は、
(二階堂がぶっ壊したせいなのに、謎の罪悪感感じてしまうな。まぁ、気にしないでおこう)
と思っていると啓子が横を通り過ぎて集会所を出て行った。風成は立ち上がって声を掛ける。
「啓子、ちょっと待てよ」
啓子は背後に居る風成の方を向くが「ふんっ」と言ってそのまま出て行った。
「風成少年。失態やな」
「……謝りに行かないの?」
「うーん。ちょっと怖いんで、少し時間置いてから行こうかなと」
風成は正直に言った。しかし、それが裏目に出る。
「君終わっとるな」
「……最低」
「そこまで言われるとは思ってなかった」
彼は思わぬ批判を受けた。普段、罵倒されない人に罵倒されるのは若干、精神的に堪えたのであった。
「……あれ行けば?」
黒菜はモニターを指差す。モニターは未だに商業地区『ロイヤルパーク』の閉店セールについて説明していた。
「えぇ。そんなんで機嫌治るかな? とりあえず行ってくる」
風成は啓子の後を追いかけ、才華は疑問に思う。
「黒菜ちゃん。どういう事や?」
「……プレゼントあげたらいいかなと」
「なるほどなー」
しかし風成は、
(えっと……『ロイヤルパーク』がリニューアルで閉まるから一緒に行こう…………って言ったらいいんだな。能力開発部の企みを阻止した褒賞として滅茶苦茶お金貰ったし、奢りまくってやるか! よくよく考えたら女の子と二人で出かけた事ないな、少し恥ずかしくなってきた……過去の記憶が無いからなんともいえないけどな)
と違う解釈をしていたのであった。
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