第三一話 実力差

 強力修ごうりきおさむかなで義安ぎあんに向けて右手を引いて斧が縦回転になる様に投げつける。修の狙い通り、義安は結界を展開しようとした。


「【戦斧回転せんぷかいてん】」

「【大結界展開だいけっかいてんかい】」


 修は斧を投げた瞬間、目前に展開されるであろう結界を回りこむ様に走る。長髪茂ちょうはつしげるもまた、一〇刀のダガーナイフを浮かして結界を回りこむ様に射出しようとする。二人は挟撃を狙った。


「ふふっ、残念ね」


 義安の後方に居た、赤塚あかづか音流ねるが呟くと同時に希望が断たれた。


「ウホっ!」

「冗談だろぉ!」


 修と茂の目前に大人一人が入れる大きさの結界が展開されると思っていた。しかし、義安が走りながら展開した結界は横一〇メートル、縦五メートルに拡がっていた。


 義安が走ると結界も動く。修と茂は結界が動いた事を視認し、結界は義安から前方に一定距離を保って存在している事を把握した。


「さらばだ」


 義安は相手に向かって走る事で結界をぶつけようとしていた。


 修は回りこむ様に走っていた為、体側面に結界が衝突する。


「ぐうっっっ!」

「修っち! 【十刀射出じゅっとうしゃしゅつ】!」


 修は地面に頭を打って倒れる。茂はダガーナイフを上方に向けて射出する事で結界を飛び越えて義安に攻撃しようとしたが


 カランッカランッカランッ!


 と上方に射出したはずのダガーナイフが突風で茂の周囲に落ちた。


「なっ、なんだとぉ!」


 茂は上空六メートルに浮いている音流が居た。彼女は風力を操作し自身の体を浮かしたのである。


 音流は腕を組んで余裕の笑みを浮かべる。


「じゃあね、もう会わないかも知れないけどさ」

「ちくしょう! 【一刀回転いっとうかいてん】!」

「【風斬ふうざん】」


 茂は地面に落ちたダガーナイフを一刀操って音流目掛けて飛ばす。ダガーナイフはドリル回転していた。これは相手に致命的な一撃を加える為の回転である。一方、音流は腕を上から下に振り下ろすと、細長い風の斬撃が茂に向かっていった。


 ダガーナイフと風の斬撃は双方に向かっていき、


「うぐっ! ぁ……あ」


 茂は痛みで声を漏らした。ダガーナイフが音流に到達するより先に風の斬撃が茂の体に到達し、茂の右肩から真下の腰の辺りまで切り裂かれて血を流したからである。ダメージを負った事でダガーナイフの操作に集中できなくなる。ダガーナイフは地面に向かって落下した。


「はぁ……はぁ、これが東京……十長じゅっちょう


 息を切らした茂は右肩を左手のひらで押さえ仰向けに倒れた。


 頭を打って倒れた修は立ち上がって茂の元に向かおうとしたが、突如、視界が揺れた。


「うぐおっ!」

「諦めろ」


 義安は修の顎に向かって右足を振り抜いた。


 修は脳震盪を起こし、ふらつく。


(こ、こやつ足にも何かを!)


 義安は皮手袋の下同様、ブーツのつま先部分に鉄を仕込んでいた。


「終わりだ」

「‼ がっ!」


 義安は左拳を修の顔に向けて放った。義安が身に着けている皮手袋の下には鉄が仕込まれており、攻撃を受けた修は再び倒れて頭から血を流していた。


「終わりね、どうする?」


 音流は宙から義安の居る所に舞い降りた。


「神戸特区の正確な場所を知りたい。痛めつけて吐かす」

「私、拷問はやらないからね」

「待って!」


 という声が聞こえたので義安と音流は声がする方向を見ると、倉庫の扉からホムンクルスの少女が現れた。茂は倒れながら叫ぶ。


「来るんじゃねぇ!」

「私がいなくなればみんな、きずつかないから……安心して」

「そういう……事を言ってるんじゃねぇ……うぐっ」

 

 茂は傷の痛みに耐えきれず、少女を制止したくても制止できなかった。


 少女は自ら義安と音流の元に行った。自分のせいで他者が傷つくのが耐えきれなくなったのである。


 義安は少女に背中を向けて歩き出す。


「来い」

「あなたが作られた人間なの? へぇー、作られた風には見えないね」


 音流は少女の顔をマジマジと見て言うが少女は何も答えず俯いたまま義安について行った。 


(なんか可哀想に見えてきたけど、依頼された仕事の一環なんだからさ、しっかりしとこ)


 音流は人の都合で生み出された少女に同情しかけたが所詮、仕事の一環であると割り切る。


 そして三人は倉庫街を離れて海がある東方向に向かって歩いて行った。

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