第二二話 海際の決着

 十月とおつき風成ふうせいは『グリーンパーク』で最も最南端にある海際の芝生の広場に近づくと桐宮きりみやセツが立ち上がっているのに気付いた。

 

「追いかける手間が省けた」


 セツは風成が近づいてくるのを確認して言った。


 彼女の声を聞いた風成はある程度距離を保って立ち止まる。


「なに言ってんだ。追いかけさせない為に来たんだ」

「君は、その年でタガが外れている……なんせあたしを本気でやろうとしてた」

「……」

「危険な存在だ。ここで始末する」

「嫌がる女の子を追い掛け回す人に言われたくないな」

「言っただろ、あれは――」


 風成はセツが喋り終わる前に口を挟む。


「ホムンクルスなんだろ! だからなんなんだ」

「理解出来ないな、今日会った作り物になんでそこまで感情移入ができる⁉」

「俺の意地だ! お前の好きにはさせない」

「クソ偽善者が!」


 両者は構えて、最後の攻撃を繰り出そうとしていた。


 桐宮セツは左手の爪が使えなくなり右手の爪も3本しか使えない状態だが、


「【三連鉄爪さんれんてっせん】」


 と右手の使える爪を鉄化させて風成に向けて一本ずつ伸ばした。


 風成は相手の攻撃の狙いに気付く。


(! また時間差攻撃! いやでも三本なら避けれる! このまま突っ込む!)


 左の前腕に穴、右手のひらには浅くない切り傷から赤い液体を流してるものの風成は気にせず相手に向かって走る。


 「うおおおおっ!」


 風成は走りながら一本目の鉄化された爪を上体を右に捻って避ける。更に二本目の攻撃も地面に手をついてしゃがんで避けた。

 

 セツは焦る。


「っ! クソ当たれ!」


 風成は三本目の攻撃を走りながら、左に回転して体一つ分横に移動し避けた。


「間に合え……間に合え」


 セツは念じる様に呟き、風成には『間に合え』という言葉の意味が分からなかった。


(何を考えてるのか分からないけど、もう手の届く距離だ!)


 風成は右腕を引いて殴る体制を整えるが、


「きた! 【鉄爪てっせん】!」

「なっ! ぐっぁ!」


 風成が壊したはずの左手の小指の爪が鉄化されて伸びてきたので、彼はとっさに左手のひらで受け止めた。

 

(なんで! 確かにぶっ壊したはずだ!)


 風成は左手のひらに刺さった鉄の痛みで歩みを止めてしまった。


 セツはほくそ笑む。


「ふふ、残念だったな。あたしは爪の再生が速いんだ、時期に他の爪も元に戻る」

「っ! だああああ‼」

「ああ! こいつ‼」


 風成は左手のひらに鉄化された爪が刺さったまま前進した。当然、刺さっている鉄は左手のひらを貫き続ける。それでも彼は前進した。


 相手の行動にセツは驚愕よりも畏怖の念が大きかった。


「や、やめろ!」

「はぁ……捉えたぞ」


 風成が左手でセツの左手を強く握る。


 セツの畏怖の念が増大した。


(こ、こいつイカれてる!)


 風成は自身の右拳を強く握る。


「や、やめろ! ひ、人殺し! わ、あたしを倒した所で意味はないぞ!」

「……これが俺の選択だ。俺が選んだ道だ‼」

「ひぃぃ! いやっ! うぶぁば‼」


 風成は右拳を下から上へと振り抜いてセツの顎を打ち抜いた。彼女は風成から見て遥か前方に飛んでいき、


 ドボンッ!


 と海に着水した。


「……勝った」


 と言って風成は、仰向けに倒れた。


(さすがに歩いて能力所まで帰れないな)


 ホムンクルスの少女が風成に近づく。


「お兄ちゃん! しっかりして」


 少女は膝をついて彼の体に触れる。


「いや、マジでやばい、死ぬかもしれん」

「そっ、そんな……ぅ……ぅ」


 少女が泣きそうになるのを見て風成は慌てて、


「冗談だ」

「馬鹿ぁ!」

「ぐふっ」


 少女は風成の体を拳で叩いた。


「いや俺、怪我人だよ! それは死ぬって!」

「でも生きてて良かったよ」

「俺もそう思う……あ、まずい」


 風成の意識は薄れていった。彼は少女を泣かせない為に『冗談だ』と言っただけである。実際、左手のひらと左腕が鉄で貫かれた後でもあり、軽い怪我では済まない状態だった。


「これ……能力所、の電話番号……頼む」

「え……お兄ちゃん!」


 風成は電話番号が書いてあるメモを女の子に渡して意識を失った。

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