26:種明かししなさい

 顔面への蹴り。

 その攻撃は確かに有用。

 だが、今この状況において、顔面への攻撃はあまり有効ではない。


「堂上! 引け!」


 顔面の攻撃は有効だが、


「堂上くん」


 会長と距離を離さないと、


「ようこそ」


 やられる。


 堂上は微動だにしない会長からハグされる。

 そのハグは『高温』のハグ。

 炎に抱かれているのと同義。

 そんなことをされれば当然、


 シュッ


 堂上を転移させられた。


 ……『ランキング戦』はこれだから大嫌いだ。


 ルールが存在してしまっている。

 俺は堂上がやられたのを確認する前に会長と距離を取る。


「……はぁ。

 ようやく一人、か」


 会長は落ち着いた様子で話す。

 その様子からは、もう先ほどまでの楽しそうな感じはしない。


「最近挑まれてなかったからかな?

 なまってしまったようだね」


 その姿は、威風堂々。

 王者というのにふさわしい姿。


「でも、勘も戻ってきた。

 多分あともう少しで負けてしまいそうだが……」


 会長は俺と柊を一瞥して、


「間に合う」


 会長の姿が消える。

 それはさっきのスピードと同じくらいなのだが、身のこなしが断然に違う。

 その動きは最短を、最適を求められている動き。


 どこか、あのアホを想像させる動き。


「っ柊?!」


 すぐさま名前を叫ぶ。

 それは警告と共に、


 シュッ


 終わりを告げる合図だった。


「さ、覆瀬くん」


 会長は、柊のいた場所から、俺に問いかける。

 その様子に、思わず一段階を開放してしまいそうになる。

 だが、やめる。


「ほぅ、君はまだ使わないのだね」

「生憎、俺の能力は使えないのでね」

「……確かに君の能力は『ランキング戦』では使えないものだね」


 だけど、と会長は続ける。


「見てみたまえ。

 能力が使えなくても、今回君はこの戦いの中でついていけていた。

 自信を持っていいんだ」

「そうですね。

 でも、そもそもの話、ほかの二人がいなければ話になりませんでしたよ」


 会長は俺のその言葉を待っていたかのように、にこりと笑い、


「そうだね。

 確かに私も高々『ソロ』で一位を取ったくらいで学園最強だ。

 でも、『ランキング戦』はそれだけじゃない。

 『トリオ』だって、『カルテット』だって立派な『ランキング戦』だ。

 誰もが恐れることはない。

 能力がなかろうとも、挑戦はできる」


 会長は、構える。

 その言葉は、この学園の最強が口にするには少しまずい言葉ではないだろうか?

 能力がなくても。

 その言葉は、今の能力社会を否定しているかのような意見だ。


 俺は会長がこの先どう続けるのかわからないまま、構える。


 しかし、その構えはあくまで受けのための構え。

 決して抜刀術の構えではない。


「だが、そのためには……」


 会長の姿が消える。

 それは先ほどの最適化された動き。

 対応するが、やられる。


 それは理解していたため、あくまで受けに回る。


 だが、


「弛まぬ努力と、己との対話」


 殺気。

 しっかりとした殺気。

 反応する。

 一段階の開放はせずに、現状できる最適な対処と対応。


 そして、


「それだけあれば良い」


 俺の咄嗟の拳は、会長の額にぶつかる。

 ……いや、額にぶつけさせられた。


 あえて受けたか。


「君の技は見れなかったが、どうだい?」


 会長はそのまま自然と、まるで挨拶をするかのように、


「少しは本気にさせることができたかい?」


 俺を抱きしめた。



☆☆☆☆☆



「いい勝負じゃない」


 試合が終わり、俺、柊木、堂上が荷物をまとめて帰ろうとしていた。

 そこに声をかけられる。


 試合終了後は面倒だった。

 堂上曰く、三人とはいえ、会長の追い詰められた姿、本気の戦いは珍しいらしく、正大に祝われた。

 耳道さんも試合終了後にいい試合だったと声をかけてくれた。


 そうしてある程度もみくちゃにされたあと、俺らは試合の後の着替えや後処理のために少し残っていた。



「ユイちゃんありがとねー。

 試合しっかりみてくれた?」

「バッチリ見るに決まってるじゃない。

 真冬が出てるもの」


 柊が声をかけてきた被瀬に返事を返す。

 俺はその様子に坦々と帰る準備を終わらせる。


「堂上もすごいじゃない。

 あの会長に二発くれてやったわね」

「二発目に関しては失敗だったっすけどね……」


 よし、忘れ物もないし、帰るか。

 俺は荷物を持ち上げ、帰ろうとすると、


「ちょっと待ちなさい」

「なんだよ」


 被瀬から指を刺される。

 明らかに面倒くさい気配がするため、早く帰りたいのだが、俺は一応返事をする。


「種明かししなさい」

「種明かし?」


 俺は被瀬の言い方に違和感を持つ。

 種明かしも何も、特別なことはしていない。

 俺は堂上と柊木の方を見て足す絵を求めるが、


「その何もしてないですよ自分、見合いな顔はやめたほうがいいっすよ……」

「私たちも結構今回のことは驚いているから、説明してあげなよ……」


 見捨てられた。


「そうよ。

 あんたのことを知ってる連中は、もしかしてあんたにさらに能力があるんじゃないか、とか疑ってるわよ」

「え? どういうこと?」

「あんたたちが起こしたことが誰も理解できなかったから説明を求めてるのよ!」


 被瀬がイライラしているのか、頭を掻いている。

 その様子に俺はようやっと被瀬の言いたいことを知る。


「あぁ、能力の応用の話か」

「そうっすよ……。

 逆になんの話だと思ったっすか?」


 堂上から心配される視線を喰らう。

 失敬な視線に睨み返しながら、


「わかったよ。

 別に特別なことをしているわけじゃないから、簡単に教えてやるよ」


 帰ろうと持っていた鞄を机に下ろし、椅子に腰掛ける。

 ほか三人も、話を聞くために適当な席に座る。


「まず、何から話せばいいんだ?」

「真冬の気配が消えたことね。

 能力知っている奴は驚いてたわよ」


 あぁ、柊のやつか。

 俺は前に本人にした話を繰り返すように話す。


「あれは三つの要素を使った。

 未使用時の反転性。

 拡大使用。

 超能力の完全な未使用、だ」

「……あんた、そういうのどこで知ってくるのよ……」

「それは教えられない。

 で、まずは未使用時の反転性。

 これは簡単。

 被瀬だったらわかると思うが、能力を使用した後って解除すると体が重く感じないか?」

「そりゃもちろん。

 能力で身体能力を強化しているから、解除したら体は重く感じるものでしょう?」


 未使用時の反転性。

 それは案外簡単なもので、みんなが体験していることだ。

 強化したあとは体が弱く感じるし、炎を操ったあとは寒く感じる


「それと同じだ。

 体感に過ぎないけど、能力を使用した後は、少なからず能力とは逆のことが起きているように錯覚する」

「……それであんなに見つからないものなの?」


 そう、あくまで錯覚。

 実際にそうなっているわけじゃない。


「だから、ほかの要素を重ねたんだ。

 で、次が拡大使用。

 これは実際ただの高出力だ」

「高出力って、超能力の?」

「そう、全力で使うだけ」

「……それがなんでこの話に繋がるのよ」


 俺の話そうとしていることの先を聞いてくる被瀬。

 ……わかってて聞いてるって言われても驚かないぞ……


「柊の能力は『人目を引きつける』能力。

 それは自身を中心に発動している。

 で、意外に知らない奴が多いんだけど、死ぬほど頑張ると、他人にもかけれる」


 元々他人に作用する能力なのに、自分にしか効果がないってのはおかしい。

 現に堂上の能力は多人数にも指定した人だけにもかけること自体はできる。

 これは能力の特徴でもあるが、できないということはない。


「……すごい……けどいつ使ってたの?」

「試合の始まる前」

「試合の始まる前?」


 俺の言葉を鸚鵡返しする被瀬。

 その様子に少し面白さを感じてしまうが、


「そうだ。

 試合の始まる前に能力を俺ら全員に使う。

 そして、試合が始まり次第、能力解除。

 さっきの未使用時の反転性で、被瀬は影が薄くなる。

 しかも、俺が開幕一番に殴りかかれば、観衆の目は俺に釘付け」

「……だから堂上も存在感が薄くなっていたのね」

「そうっすよ。

 これ最初聞かされた時は理解できなかったっすけど、うまくいってよかったっす」


 堂上お前半信半疑だったのか……。

 

「そうだね……

 確かに最初聞いた時は全く意味わからなかったよ……。

 それに拡大使用とか死ぬかと思ったよ……」


 柊まで……。

 意外に二人が理解できていなかったことに今さらながら驚く。

 ……あと拡大使用に関しては申し訳ない。

 結構きついんだよ、あれ……


「それで最後。

 能力の完全な未使用だが、そのまんまの意味」

「完全な未使用って……別にいつも使っているわけじゃないでしょ?」

「確かにそうかもしれない。

 けど案外そうでもないんだこれが……」


 俺は少しこれの説明が難しいな、と思いながら、


「超能力ってのは意外にいつも発動してるんだ。

 もし目に見えるといたら、人間の皮膚みたいにずーっとまとわりついているみたいな感じに。

 つか『腕輪』もその仕組みで『抜け道』してるだろ?」

「そうね」

「ま、よくある話だと、精神干渉系は割と周りに人がよってくるってのは、少しだけ発動していて周りにいると心地よく感じる、だったりする。

 あとは身体強化系は人より鍛えるのが早かったりする」

「確かにそう言われてみればわからないことはないわね」


 被瀬も心当たりがあるのか、理解したようだ。


「それで、これを意図的に完全に閉じることができる」

「……どうやって?」

「『心のチカラ』不足になる」

「へ?」


 被瀬は呆然としている。

 柊木の方を見ると、こちらも呆然としている。


「『心のチカラ』不足の時は、どうにも回復に専念するみたいで、自動的に発動しないんだよ。

 だから、試合が始まる前に、ある分全部使い切ってもらう」

「……ってことは、真冬は『心のチカラ』不足で試合してたってこと?」

「ちなみに堂上もだぞ」


 その言葉に被瀬が固まったのを感じた。

 俺はその様子に不思議がっていると、


「…………あんた、強いとかそれ以前に頭のネジぶっ飛んでるんじゃなの?」

「失敬すぎないか?」


 おいこら残りの二人、頷くな。

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