22:その顔面に、キツーイ一発を食らわせたくなる

 ランキング戦参加の用紙を記入した日の放課後。


 俺は校長室にいた。


 校長室には主である校長はいない。

 俺が追い出した。

 食えない爺さんだけど、しっかりこちらの要件は呑んでくれるときも多い。


 ま、その代わりに書類仕事とか厄介ごとの手伝いを押し付けられたけど……。

 それでも、この空間を作ることができたのは嬉しい。


 学校の中というものは案外人が多いもので、ランキング戦が一年生に開放になったとあらば、その初日は当然学校は人で賑わうわけで、


「失礼します」


 誰かが入ってくる。

 その声は今日の朝にも聞いたあの声。


「……ってあれ?

 校長先生はどうしたんだい? 覆瀬君」


 校長室に入ってきたのは会長。

 呼び出したのは校長だが、用事があるのは俺。


「あぁ、校長に頼んで呼んでもらいました。

 校長は無理言って外出してもらっています」

「……まさか校長先生もグルだったとはね。

 なんとなく納得したよ」


 一方の会長は、少し驚きつつも、現状から俺が校長とつながっていることを察する。


 流石に俺も会長も時間が無限にあるわけではないので、早速本題に移るとする。


「会長。

 俺のこと、どうやって知りました?」


 まずは、俺の身元が早く割れすぎたことの確認。

 もしかしたら俺の知らない内通者の可能性もあるので、仲間割れは阻止したい。


「あぁ、それなら安藤さんから聞いたよ」

「……安藤って、あいつのことですか?」

「ははは。

 全世界でも安藤さんを”あいつ”呼ばわりするのは君たちだけだろうね」


 安藤と言われて思い出すのは、あのアホ面しかいない。

 俺のそんな表情に苦笑いを浮かべつつも、


「そう、日本『ソロ』ランキング一位。

 世界『ソロ』ランキング3位の、あの安藤さんさ」

「あぁ、たぶんそれなら俺の知っているやつも同じだ。

 それで、あいつと面識があるのか?」


 アホとは思って入るものの、なかなかに有名だし忙しい安藤に学生の知り合いがいることは想像がつかない。


「私の師匠的な人だ。

 そこでつながりがある」

「へー、師匠ねぇ」


 あのアホ安藤が師匠かぁ……

 なにやら感慨深くなると同時に、少し心配になる。

 流石にあのアホ安藤でも、俺の立場や仕事を理解してはいると思うから、俺のことを話すことはないはず……。


「ちなみに、安藤さんは別に悪いことはしていない。

 私はカマをかけただけだ」

「……なんてカマをかけた?」

「私の攻撃が一切通じない。

 反撃で殺されそうになった人間がいる。

 しかも同世代、って話したら、納得した声出してたよ」


 ……アホすぎる。

 流石に大人なんだからそういうリアクションはやめとけよ……。


 今度あったらアイアンクロー確定な安藤のことを考えていると、


「そこからは適当に話を振って、分かったことといえば、

 『無体』という組織がある。

 ランキング戦に出ていない無名の人間でそこまでの力を持っている人間はそこにしかいない。

 それで私の受けきったってことはたぶんそいつ私のこと知っているよ、ということだ」


 アイアンクローからサバ折りに確定した。

 そこまで話されると流石にカマをかけられたでは済まない。

 それにしてもなんでこんなに話してくれるんだ? と思っていると、


「後、この話は本人にしないでくれ、とも頼まれた」

「いい度胸じゃぁん? 安藤ちゃんよぉ」


 昔少しいい勝負したからって調子に乗ってるのでは? なんて考えるが、


「……自分の師匠を売るような真似していいのか?

 もしかしたら消されるかもだぞ?」

「ははは。

 それだったらこの時点で私がここに立っているのが何よりの消されない証明だ。

 私も流石に安藤さんのあのリアクションにはどうかと思っていたんだ。

 今度制裁してやってほしい」

「弟子からそう言われるとは、師匠してるんですか?」


 苦笑いする会長。

 その姿を見て、もしやこいつ教える(実践教育)だな? と思いつく。

 確かにあいつは難しいことを考えることはできない。


「それで、俺に関しては安藤はなんて?」

「無駄なことはしないほうがいい。

 『無体』は『無体』にしか止められない」

「……そうか」


 少し、寂しく感じる。

 でも、と続ける会長は、


「悪いやつではない、そう言っていたよ」

「今度話す機械があったら言っておいてくれ。

 何様だよこのヒョロヒョロ女、って」


 会長の苦笑いが炸裂したところで、話は終わる。


 まず、会長の俺の正体を知っていたことは半ば必然なのかもしれない。

 安藤は割と裏を知っている表側の人間だから、その場所に人が増えてくれるのは嬉しい。


 しかも微量とはいえ戦力にはなる。

 鍛えることとか今後の伸びしろを考えると決して損ではない。


「それで、次は俺を嵌めた話だけど」

「嵌めた?

 何を言ってるんだい?

 私はあくまで君に手を差し伸べただけだよ?」


 会長はあくまでまだ自身を正義だと言いはる。

 その様子に、俺は質問を変える。


「それじゃあ、堂上と柊とはいつ打ち合わせした?」

「いや、してない」

「……じゃあ誰と?」

「被瀬さんだよ」


 そういうことか……。

 ようやっと今朝の状況が読めてきた俺は、後頭部を掻く。


「被瀬さんは、喜んでいたよ。

 今朝の状況にすることができて」

「そりゃどうも。

 たしかにあのやり方であれば逆らえば俺は一気に学園の爪弾きもの。

 俺はあくまで温い生活を望んでいるから、断れないな」


 そう、俺はあくまで楽に学園生活を送りたい。

 だからわざわざ全校生徒に嫌われる真似をするよりかだったら、戦う方を選ぶ。


「私は朝の状況を作れば君と対決できるということを教えてもらっただけ。

 恐らくあんなにスムーズに君を陥れることができたのは、事前に被瀬さんが手回しをしていたおかげだろう」


 被瀬は、きっと話していたのだ。

 俺のいないところで、俺がランキング戦にでないのがおかしい、と。


「エキシビジョンマッチに関しては、その場のノリと勢いで設定した。

 悪くはないだろう?」

「確かにオレ一人だったら完全にボロ負けしてやろうかと思っていたよ」


 そうして俺はあえなくランキング戦恐怖症にでもなった、と嘘を付けば、今後関わる機会は減っていく。


「……ちなみに、堂上くんと真冬さんは?」

「『訓練』に関しては試合まで延期だ。

 流石に『訓練』最中に会長と当てるのは可愛そうですし」


 体のほぐし方や、戦闘前の体作りに関しては伝えてある。

 本人たちもやる気はあったので、従ってはくれるだろう。


「それで思ったんですけど、なんで俺とエキシビジョンを組んだんですか?

 会長である必要はないわけなのに」


 そう、別に会長が戦う理由はない。

 しっかり考えるならば、『生徒会』のメンツが一番いい。

 実力、超能力共にしっかりとした物を持っているため、会長よりも効率がいいし、他の生徒への発破にもなる。


「私としては、キミと戦いたいのだが、安藤さんのこともあって控えておこうとは考えている。

 しかし、それと嫌がらせをするのとでは話が違うだろう?」

「私怨かよ……」

「そうだよ?

 この試合が終わったらキミに正式に弟子入りでもしようかな?」

「……安藤と同じ立ち位置になるのが嫌なので断ります」

「分かっているとは思うけど、日本一位だからね……?」


 それは知ったこっちゃない。

 俺が知っているのはアホ面で猪突猛進なアホ女だけだ。


「覆瀬君」

「なんですか?」


 会長が、少し真面目な雰囲気で俺に質問してくる。

 それにいつもどおりに返すと、


「君と師匠……安藤さんはどちらが強いんだい?」

「そりゃランキング戦では負けますよ」


 俺はそう言い放つ。

 会話はもう終わり、言外にそう伝える。

 そのタイミングで、会長は


「じゃあ、純粋な『勝負』だったら?」

「……」

「被瀬くんの能力に関してはまだ知らないことが多いが、もし彼女の能力が『再現』系の能力だとしたら……」

「会長」


 俺は考え込む会長を止める。

 会長の視線がこっちに向く。


「それは、俺に聞くより師匠に聞いたほうがいいんじゃないですか?」

「…………ほんと、ムカつくくらいに『強い』な。

 彼らの言っていることも分かるよ。

 その顔面に、キツーイ一発を食らわせたくなる」


 会長は校長室を去る。

 扉が閉まりそうなところで、会長が顔だけ出す。


「あ、そうだ。

 『訓練』にはエキシビジョンマッチが終わってから参加させてもらうよ。

 私用のメニューを考えておいてねー」


 結構根に持つタイプなのね、と感想を抱いていると、校長室のドアは閉まった。

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