121 『世界の隙間』戦い?2

 亜香里と詩織は国宝建造物の中に入り『世界の隙間』の入口を探し始める。

 入口で感じる空気の揺らぎを探して歩きながら、インターカムで話をする。

『京都御所に行った時のことを思い出したけど、『世界の隙間』の入口って、すごくピンポイントにあるのね。ミッションの時、本居先輩に細かく位置を指示されたから。今更だけど、霧島神宮の境内をもっと丁寧に探したら『世界の隙間』の入口を見つけられたのかも知れない』

『亜香里ぃ、ほんとにそれは『今更』よ。でも私が香取先輩と行ったダイヤモンドヘッドでは、スキャナー無しに入口を見つけることが出来たのよ。2人で十分以上その辺を歩き回ったけど』

『それはラッキーだったとしか言えないんじゃないの? でもその前に急に入ってしまった『世界の隙間』のドールプランテーションにあるはずの入口は見つけられなかったのでしょう?』

『あの時は『世界の隙間』の入口から出て来て直ぐに、機銃掃射から逃げたりして最初に出てきた場所が分からなくなったからね。じっくり探せば見つかったのかもだけど… あの広いサトウキビ畑の中を探す気にはなれなかったよ。この神社の方が探すのが簡単。そんなに広くないし』

 亜香里は、拝殿の周りを一通り回り、足元に気を付けながら中に入ってみるが、『世界の隙間』の入口に特有の空気の揺らぎは、感じられなかった。

『ハロハロ詩織さん、聞こえますか?(詩織『聞こえるよ』)今、拝殿の周りと中をひと通り確認してみましたが、入口っぽいところはありませんね。そちらはどうですか?』

『こっちは本殿と廊をひと通り回ってみたけど、亜香里に同じく何処にも空気の揺らぎは感じられませんでした。さっき亜香里に言われたから、ゆっくりと丁寧に歩き回ったのだけどね。これから幣殿を回ってみます』

『了解です。こちらはこれから楼門を調べに行きます。この神社に来た時から、ここが一番怪しいんじゃないかと思っているんだ。二階部分のところが『いかにも』って、感じがするでしょう? 神社全体のバランスを見てもこの門は少し大き過ぎだと思わない?』

『優衣です。亜香里さん、門の近くはお侍さんがウロウロしているので気を付けてください。今、門の外から神社にたくさんのお侍さんが向かって来ています』

『了解、慎重に移動します』

 亜香里は拝殿から楼門に向かい、境内にいる侍に近づかない様に端を歩きながら門に近づいた。

(門の入口はさっき通ったとき、何も感じられなかったよね? 二階にはどうやって登るのかな? 階段とか無さそうだし)

 亜香里が楼門の周りを改めて確認すると、奥の方にはしご階段を見つけた。

(チョット急だけど登るところがあるじゃない)そう思いながら、周りを注意して登り始める。

 もう少しで二階に手が届く、というところで二階から侍が一人、はしご階段を降りようとしている。

(チョット、チョット! 階段は登り優先でしょう? アッ! お侍さんからはコッチが見えていないんだ!)

 亜香里は慌てて梯子階段を降りようとするが、巫女装束で降りにくく、二階から降りて来る侍は、はしご階段を使い慣れているのかサッサと降りてきた。

(アッ! 危ない!)

 降りて来る侍が、はしご階段に手を掛けている亜香里の右手を踏んで足が滑り、亜香里と一緒に地面まで落下した。

 突然、楼門の前に現れた横たわる巫女。

 階段から落ちた亜香里は、上から一緒に落ちてきた侍の重みも加わり、運悪く頭を打って気を失い、パーソナルシールドの光学迷彩が解除された。

 事前に優衣が注意を促していた、外から神社に入って来た大勢の侍たちの前に突如、巫女が現れたため侍たちは大騒ぎ。

 政府側の間者だと疑う侍もいる。

 門の外で待機していた優衣は、門の中から聞こえて来る『巫女! 巫女が!』という侍たちの騒ぎ声に気がつき(亜香里さんが、何かやらかしたんだ!)、マジックカーペットのシールド機能を解除し光学迷彩モードのみにし、パーソナルシールドを光学迷彩モードにして門に向かって走った。

 優衣が向かった門の先には多くの侍に取り囲まれ、巫女装束が乱れ横たわっている亜香里がいた。

 額から顎にかけて、血が流れているのが見える。

「アァーッ!! 亜香里さーん!」

 優衣は周りに大勢の侍がいることも忘れて、大きな叫び声を上げた。

 侍たちは女性の叫び声が聞こえても、姿が見えないので周りを見回して声の主を探している。

 亜香里は、優衣の叫び声にも反応しない。

「亜香里さんを殺めるなんてー! 許しませんー!」

 優衣はコメカミに青筋を立て、両手で周りの侍たちを突き刺す様な姿勢を取り、念をぶつけた。

 優衣の念をぶつけられた侍たちは次々と「ウッ!」と唸うなったり、「アァーッ!」と叫んだりしながら、ある者は血を吐きながら突っ伏し、ある者は白目を剥むいて引っくり返り、全員が雪崩れる様に地面に倒れていった。

 優衣は「亜香里さーん!」と叫びながら涙を浮かべ、倒れたままの亜香里のところへ走り寄ろうとしたところで、優衣自身も崩れ落ちる様に倒れてしまった。

 幣殿の奥で『世界の隙間』の入口を探してた詩織は、門の方から女性の叫び声が聞こえ、幣殿の近くにいた侍がバタバタと倒れていくのを見て(これはヤバイ!)と気がつき急いで境内に駆けつけた。

 詩織の目の前には境内に倒れている大勢の侍たちと、巫女装束のまま倒れている亜香里と優衣がいて、境内に立っているのは詩織一人だけだった。

(いったい、何があったの?)

 詩織はまず、頭から血を流している亜香里の脈を取り(生きてる)、呼吸を確認して(息もしている)、顔の血を拭き取り、袂から手拭を取り出して頭を縛り、ほっぺをペシペシしてみた。

「亜香里、大丈夫?」

「んーっ、痛ーぃ。あれ? 詩織? はしご階段から落っこちたんだ。頭を打って脳振動でも起こしたのかな?」

「頭痛だけ? 打ったところは陥没してなさそうだし、もうタンコブが腫れ始めているからひどい怪我ではないね? とりあえず縛っておいたから、あとでマジックカーペットに置いてきた救急セットで応急処置をしようよ」

「そんなに高いところから落っこちたわけじゃないから、たぶん大丈夫。打ちどころが悪かっただけだと思う。(周りを見回して)お侍さんたち、どうしたの? 詩織が何かをしたの?」

「私は何もしていないよ。幣殿から境内に出てきたらこの状態。チョット優衣を見て来る」

 詩織は優衣の横に来て、亜香里と同じ様にバイタルのチェックをする。

 外傷もなく異常も無さそうなので、ほっぺをペシペシしてみる。

「優衣ぃ、大丈夫かぁー」

 様子を見守るが、優衣の反応はなかった。

 亜香里も横に来て、大声で優衣に呼びかけるが反応はない。

「脈と呼吸は異常なし、触った感じ平熱の様だし、優衣はどうしちゃったんだろう? 亜香里は倒れる前の優衣を見なかったの?」

「私はさっきインターカムで言った通り、楼門の二階を調べようとしてはしご階段を登っていたら、降りて来るお侍さんと鉢合わせになって一緒に落っこちて気を失ったみたい。それからのことは詩織に起こされるまで分かりません」

「そっかー、私は幣殿の奥にいる時に女の人の叫び声、たぶん優衣だと思うのだけど声を聞いて、周りにいたお侍さんたちがバタバタと倒れたから、急いで表に出てみたらこの状況だったのよね。どうしよう? 『世界の隙間』で急患が出ると対応出来ないし、お医者さんも居ないから」

「ここから出れば良いのよね? さっき行きかけた楼門の二階に行ってみる。優衣をお願い」

「わかった、またはしご階段から落っこちない様にね」

 詩織が頭を縛ってくれた手拭が、ジワッと続く出血で日の丸鉢巻状態になった亜香里は、楼門の裏にあるはしご階段を慎重に登り二階に上がった。

 亜香里は二階の中を歩き回り、しばらくしてから二階の表に顔を出し、大声で境内にいる詩織に叫んだ。

「見つけたよ!『世界の隙間』の入口。入ってみたらGPSは使えるし、スマートフォンのカレンダーが二〇二〇年六月になったよ!」

「亜香里! やったねー! 直ぐに二〇二〇年に戻ろう! 優衣をなんとかしないと」

 亜香里と詩織は門の外に置きっぱなしにしていたマジックカーペットと荷物一式をまとめて、詩織は意識の無い優衣を背負い、楼門二階にある『世界の隙間』の入口から二〇二〇年へと戻って行った。

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