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そして、案の定、奏は直ぐに失速した。奈月の方はまだ余裕があるのだが念のため速度を合わせる。
「ほらー、慣れないことするから。」
「いや、さ、しか、たない、よね!」
息を切らしながら何とか返事をしてくる。しかしながら、当初の速さはどこへやら、もう既に殆ど歩いているのと変わらないところまで来ていた。
「まだ半分も来てないよ?」
「んにゃ、そろそろ、ある、はず!あった!」
奏はそう言ってもう限界とばかりに足を止めて、前を指差した。見ると車で来た人たち用に作られた駐車場が見えた。その入り口にある自動販売機の灯りに誘われて虫たちが集っているのがわかり、奈月は少しテンションが下がった。
「あー、なるほど。なんか飲むの?」
「喉、乾かない、の?」
「それより虫のキモさが勝つ、かな。」
「私、は、ちょっと限界。」
「それなら少し休もっか、丁度ここからの見晴らしを楽しめるよーにベンチもあるし。」
「ごめ、んね」
奏は凄く申し訳なさそうに謝ると、ふらふらとした、足取りで自動販売機に向かっていく。先にベンチに座って待っていると、首に冷たいものが当たり、驚いて振り返った。
「んっふっふ、驚いた?」
「もう、止めてよ、そう言うの。」
「ごめんて、それあげる、付き合わせたお礼。」
市販品のオレンジジュースを貰った。奏のこう言う気遣いの出きるところは素直に尊敬してしまう。
「別に、良かったのに。」
「いやー、流石に悪いでしょ。補導のリスク背負わせてるわけだし」
「そのリスクの見返りがオレンジジュース?」
「それは言いっこなしで。」
あはは、と二人で笑いあった。こんなやり取りができるのも、お互いの仲の良さを再確認するようで、嬉しくもあり、楽しかった。
オレンジジュースを飲みながら辺りを見てみると、車は一台も止まっておらず、見晴らしがよく思えた。観光客用の大型バスなんかも乗り入れるので、かなり広いのは知っていたが、遮蔽物が全く無いと、自分の知っている以上に感じるものだなと思った。
「一台も止まってないね。」
奏も自分と同じように感じたのか、そう小さく溢した。
「そうだね、急ぐ必要なかったんじゃない?」
「うん。」
奈月としては、茶化すような口振りで話したつもりだったのだが、奏は真剣そうに何かを考えているかのような表情でただ、返事をしただけだった。無理に会話を続ける必要もないのは明白で、奈月もその後は特に何を言うでもなく、駐車場の奥を眺めていた。
「でも、珍しいね。車内でいちゃつくカップルの溜まり場って噂もあるくらいの場所なのに。」
ふと気が付いたように奏が言う。
「まぁ、でも、毎夜毎夜人がいるもんでもないでしょ、偶々だよ、たぶん。」
それもそうね、と言って奏は立ち上がった。
「何だかずっと此処で話し込んじゃいそうだから、そろそろ行こっか!」
「もう平気なの?」
「めっちゃ元気!」
そう言って奏は力こぶを見せるようなポーズを見せた。もちろん、そんなたくましいものは彼女の腕には付いていなかった。
はぁー、と軽いため息を付いて、奈月も立ち上がった。
奏が、いつもと同じように振る舞おうとしているのが奈月には理解できた。それでも彼女の表情はまだ強張っている。疑問に思ったものの、聞いてもおそらくはぐらかされて終わりだろうとも思う。だから、あえて奈月は聞きはしなかった。話したければ、いずれ、彼女の方から話してくるだろう。そう思いながら彼女の後を追った。
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