第8話 猫パラダイス!

 結局四人で帰る事になり僕達は、並んで歩いていた。といっても隣にひなた、後ろにはるなさんとたけるが並んで歩いている。


 「ねえ、もう一回言って」


 僕の腕をつんつんと引っ張り上目遣いでひなたが言う。


 「ひなた……」


 すり。

 嬉しそうな顔をしたと思ったら僕の腕に顔をすりつけた。


 「わー。何やってるの。今、猫じゃないだろう。しかも下校中」


 僕は慌てて小声で言った。


 「えー。ソウくんにすりってするの好きなんだもん」


 「………」


 なんて事を言うんだ。人前じゃなかったらすりすりさせちゃうところだったよ!


 「ひ、人前ではダメ……」


 「え? この姿でも人前じゃなかったらいいの!?」


 「うん? え? あ、だめだ!」


 「今、いいって言った!」


 「そ、それは……」


 「うぎゃー!」


 うん? 言い合いをしていると悲鳴が聞こえ振り向けば、うずくまっている橋本の姿。そのすぐ傍に、たけるが立っている。


 「え? 何、どうしたの?」


 僕が驚いて橋本に話しかけたが、涙目だ。

 何があったんだろう?


 「こいつ、つけていた」


 「は? いやいや、下校中なんだから他の生徒だっているだろうに。後ろにいたからって……」


 「ここに隠れて見ていた」


 曲がり角の塀をたけるは指差した。

 歩道の横は、背丈ほどある塀になっていて、その上に家が建っている。なので、この塀に隠れて覗く事は可能だけど、俺達をつけていたのか?

 なんでそんな事を?


 「橋本、大丈夫か? って俺達をつけていたのかよ」


 「……ごめん。帰る!」


 「え? あ……」


 おなかを抑えながら反対側に歩いて行った。

 なんなんだ。橋本は一体何をしたかったんだ。

 もしかして、猫だと感づかれているとか? にしたって、いみふの行動だ。


 「大丈夫~。俺がついてる」


 って、たけるに言われてもな。僕は別に怖がっていないから。


 「私もついてる」


 すり。

 だからそれダメって言っただろう!


 「もう、ダメだってば」


 「だって、私達しかいないし」


 「へ? 本当だ」


 あぁ、だから隠れて見ていたのか。目立つもんな。理由はわからないけど。

 とりあえず、すりっとするのは家に帰ってからという事にした。



 「「「ただいま」」」


 三人が声を揃えて言うと、母親のミウさんが出迎えてくれた。

 そして、五人・・だと部屋じゃせまいだろうからと、猫カフェのスペースを使わせてもらう事になった。なぜかゆうきさんも加わる事になったようで、スペースの真ん中にどこからか持って来たテーブルにイス五つセッティングしてくれた。


 今日あった教科だけしか教科書がないけど、勉強を始める。なんか変な気分だ。今までは、猫の姿の四人と僕でこのスペースで過ごしたけど、今は人間同士。

 うん? いやこっちが普通だろう。

 でも猫と人間の姿のどっちが本来の姿なんだろう?


 「もしかして飽きた?」


 って、ひなただけじゃなく、全員で僕の顔を覗き込んで来た。どうやらボケーとしてしまったようだ。


 「あ、うん。休憩にしようか」


 「うん。じゃ……」


 ぱさ。ぱさ。ぱさ。ぱさ。


 にゃ~。にゃ~。にゃ~。にゃ~。

 「「撫でて」」


 うわ。とうとうひなただけじゃなく、全員目の前で猫に変身しちゃったよ!

 もぞもぞとイスの上に広がった制服から顔を出し、四人共テーブルの上にあがった。


 「僕、腕二本しかないから」


 にゃ~。

 「一番♪」


 ぴょんとひなたが僕の膝の上に乗っかった。


 にゃ~。

 「二番」


 次に、真っ白でふわふわの毛のはるなさんだ。

 二人の喉を撫でると、ごろごろと喉を鳴らす。かわいい。


 ぴょ~んと驚く事にトラ猫のたけるが僕の右肩に乗った。


 「ちょ……ひゃ」


 たけるは、嬉しそうに体を顔にすりつけてくる。


 にゃ~。

 「私も」


 そう言うと、ゆうきさんも僕の左肩に乗っかった。

 なんだこれは~。

 猫パラダイスすぎる~!


 うん? 足に誰かがすりすりしている。

 膝には、ひなたにはるなさん、肩には、たけるにゆうきさん。

 え? 誰?

 見れば、ひなたと同じ三毛猫だ。


 「も、もしかしてミウさん……」


 にゅあ~。

 「当たり」


 当たりって、僕って凄く信用されているんだな。

 でもここって猫カフェスペースで、休みの日だとはいえ窓があり覗かれたら驚くだろうな。

 椅子の上に脱ぎ捨てられた制服がある状態で、猫と戯れる僕。

 そう制服が脱ぎ捨てられていなければ問題ないんだけど……。


 にゃ~。

 「交代して!」


 にゃ~。にゃ~。

 「「まだ」」


 にゃ~。

 「ずるい」


 ぴょんと膝の上にたけるが降りてきた。

 でもって、僕の膝の上で、猫パンチを繰り出して喧嘩を始めたんだけど。

 痛いけど、これもかわいい。


 にゃあ~。

 「喧嘩しない!」


 普通に人間の親子みたいだ。


 「順番ね」


 そう言って僕がたけるを撫でると、ぴょんとミウさんも膝の上に……なので、ひなたとはるなさんは落ちた。


 にゃ~。にゃ~。

 「「ひど~い」」


 ごろごろごろ。

 僕に撫でられているミウさんは知らんぷり。いいのか母親として。

 そしていいのか、こんな状態に慣れて行く僕。

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秘密を握った僕の方が猫なで声で迫られています すみ 小桜 @sumitan

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