残り27日


「もしかして、景兄さんも昔のアゲハと同じ境遇だったの?」


「いや、俺もそう思ったんだが、違った」


 俺もそのことに関して不思議に思ったことがあるので聞いたことがある。……相応の労働という名の対価を払って。景兄は基本的に何かお願いされる時は「なら何か働いてもらおうかな」と俺にやたら働きを求めてくるのだ。……基本的に家の家事は全般俺がしているのにも関わらず。まあ家賃は払ってもらっているし、小遣いも十分なほど貰っているから文句は何一つ言えないのだが。


「景兄のお爺さんが原因らしい。その爺さんはすごく真面目な人間で、生きている間はずっと仕事一筋で会社に尽くすほどの貢献人だったんだ。それに尊敬していたらしいんだけど、ある日、病気で倒れてしまったらしい。その死に際、景兄に一言だけ告げて、この世を去ったんだけど……その言葉が衝撃で今でも俺の胸に響いている」


「……なんて言ったの?」


 今の俺のポリシーを生み出した言葉を、大事に紡いだ。



『もっと、自分に正直に、自由に、生きたかった』



 目を見開いて、予想外の言葉に驚く花蓮。俺も、初めて聞いた時はそんな顔をしていたに違いない。


「もっと、自分に正直に……」


 俺と同じものを感じ取ったのか、何度も口に出していた。まるで自分に言い聞かせるように。


「仕事に一筋の人が、結果的に死に際に放った言葉はそれだったから、景兄は人生の結論として自由を求めているらしい。それに俺も影響されたってことだ」


「そっか。だからアゲハも『自由に生きる』っていつも言うのね」


「まあ俺はお爺さんの言葉より、景兄の生き方に憧れたというべきだけどな。結果的には、その認識で問題ないけど」


 すると花蓮は、急に立ち上がるやいなや、俺に向かって大声で発した。


「アゲハ。なら私も自分に正直に生きることにしたわ!!」


「おお、そ、そうか」


 花蓮は大きく深呼吸して告げる。


「だから明日、遊びに行くわよ。でもただの遊びじゃないわ」


「だったら何の遊びだよ」


 遊びに名称なんてあるのか分からないが、一応聞いてみる。すると、思いも寄らない衝撃の発言を聞くことになった。


「そんなの決まってるわ。『デート』よ!!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る