残り32日


「とはいえ、何をどうしたらかいいのか全く分からないわ。今までこんな夏は訪れなかったもの。毎回毎回、同じ日々を過ごしていたわね」


 宣戦布告から翌日、家のベッドでゴロゴロしながら、アゲハ攻略のために眉間にシワを作りながら思考を巡らせる。こんなことも健人くんや姫乃に聞いたほうが手っ取り早いことは分かっている。でも恥ずかしすぎて聞けるわけがなかった。まあ、彼らは言われなくても私の気持ちなんて知っているだろうけれど。


「たぶん……私に残された時間は残り32日ってところかしら。」



 そう、私は――




 ――同じ数ヶ月を永遠と繰り返している。


 ――そして私は、決まって100日後に死ぬ。


 なぜこうなったのか私にも分からない。

 この廻り続けた負の運命が何度訪れたのか、数えるのは途中で放棄した。

 初めは訳も分からずに気が狂いそうだった。いや、きっと狂っていた。学校に登校拒否をする時もあったし、もう全てが嫌になって自殺したこともあった。しかし目が覚めると必ずあの日に戻ってくるのだ。

 何度かこの日々を繰り返していくうちに、私は適応していった。人間が一番優れている能力は『慣れ』であると誰か有名な学者が言っていた気がしたが、その通りだと思わずにいられなくなった。冷静に考えれば無限の命を手に入れたに等しいわけで、多くの人からしたら喉から手が出るほど欲しいに違いない。でも私は生に全く執着がないので割りかしどうでも良かった。良かったことと言えば、高校の授業範囲で覚える学問は完璧に理解したことと、図書館に置いてある本を全て制覇できるくらいに読めることくらいだ。


 最終的に死に方はそれぞれだが、何をしても、この運命から逃れることは出来なかった。


「でも、確実に、少しづつ、変わってる」


 例えば学校のイベント、ニュースの内容などは既に違う世界だと分かる。特に先日の、災害を起こすほどの大雨が訪れる日もズレていた時は驚いた。あの時、いつもと違う世界だと確信した。

 あの日、本当に気まぐれで、まったく関わりのないアゲハに適当なことを言ってみて正解だった。普段は絶対に自分がしないことをしれば少しは変わるかもしれないと思いアゲハに目をつけたのだが……まさかこんなことになるとは。人生、何が起きるか分からないものだ。


「でも今回は……生きる理由ができたわ。絶対に死んでたまるもんですか」


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