残り35日―花蓮編―


「ねえ、なんでアゲハは健人君に怒っていたの?」


「うーん、男と男の秘密ってやつだね。直接アゲハに聞いてみてよ」


 笑いながら健人君は告げ、変な冗談を言って上手く誤魔化してきた。こういう場を和ませる能力も、数多の女の子からモテる理由なのだろうか。


 今日はアゲハだけでなく、いつもの食事場(屋上)に健人くんも付いてきた。どうやら二人の間で何か話し合いがあったらしい。初めは嫌悪感を丸出しした雰囲気で二人とも教室を出て行った―主にアゲハが怒ってい―けれど、屋上に来てみればすっかりといつもの仲良しコンビでご飯を食べていたのだ。そんなことが起きれば、内容を聞きたくなるのも当たり前だと思う。

 ちなみに、今はアゲハはいない。先ほど、放送で呼び出しをされ職員室に行ったからだ。また私が知らない間に何か変なことでもしたのだろう。もしくは、いつもより前回のテストが良かったからカンニングを怪しまれたのかもしれない。もしそうだとしたら、とんだ災難である。私から助け舟を出してあげてもいいかもしれない。

 それはそうと、せっかく再び健人くんと二人きりになる機会が訪れたので聞きたかった質問をしようと考えた。


「今日は健人君に相応しい質問があるの」


「えー、なになに?」


 ずっと心に引っかかってることがあるので、今回はそれを聞きたかった。これを聞くのならば、この人ほど相応しい人はいないだろう。


「人に恋している時って、どんな気持ちになるのかなって」


「ほう……それはねぇ」


 いま、自分がどういう感情をアゲハに対してもっているのか知りたい。

 なぜか、最近はずっとアゲハのことが頭から離れないのだ。しかしそれが恋なのか、友達として好きだから側にいたいのか、はたまた純粋に喧嘩して気まずいからなのか、正確な判断ができない。……そもそもアゲハに恋しているなんて考えたことも無かったけれど。

 も、もしかしてのことがあるかも、知れない。それをハッキリさせたかった。


「あのね花蓮さん、今から言うことを想像してほしい。きっと、そこに答えがあるはずだから」


 健人君は優しい笑みを浮かべながら、いくつかの問いを私に投げかけ、静かに去って行った。


 ――後にその答えが、私の人生を変えることになる。

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