残り41日
「まさか俺の方が上手いとはなぁ」
「そ、そんなことないし!!」
「いやいや、あれを人間と言う人がこの世に何人いるのか……」
昨日の美術の時間、とりあえず時間内に課題を終わらせることはできたのだが、花蓮の絵の問題は今日までも引きずるくらい面白かった。いや、笑ってはいけない。人には向き不向きがあるものだ。
「それにしても、アゲハって意外に器用なのね」
「いや、俺は別に上手いわけでないぞ。たぶん普通じゃないのか」
この世には絵が上手い人は死ぬほどいるわけで、俺の絵を上手いというならば、全人類の大半の人は上手いと言われるほど平均値が下がる。たぶんだが、姫乃は上手い気がする。昔から、そういう器用なことは何でもこなせるような奴だったから。
「それと、モデルが綺麗だったから書きやすかったんだよ」
ご飯を口に頬張りながら率直な感想を告げて数秒後、自分がとんでもない告白をしてしまったことに気がついた。何かの間違いで聞き逃してないかなと、恐る恐る顔を上げて花蓮を見たが――
「……え、」
箸を膝の上に落とし、顔をリンゴのように真っ赤にした花蓮がこちらを凝視していた。どうやら、何かの間違いは起きなかったようだ。どうしよ、俺までも恥ずかしくなってきた。
「あー、いや、なんだ、か、髪だ! そうだ髪がいつもは下ろしているけれど、昨日は後ろに束ねてくれただろ!? それで綺麗に顔が見えて書きやすかったんだよ!!」
我ながら苦しい言い訳で逃れようとしている自覚はある。しかしそうでもしないと、ここから逃げたくなるくらいに顔をまともに見られなくなりそうだった。
「そ、そうね、そうだわ、髪を束ねたらもちろん綺麗に顔が見えるわ。まったく、紛らわしいこと言わないでくれる?」
「すまんすまん、気をつけるよ」
どうにか言い逃れできたようでホッとした。
でもどうして恥ずかしいと思うのか。別にホントのことだから正直に言っても問題ないはずなのに……。客観的に見て美人の姫乃には、恐らく目を見て言っても何も感じないはずだ。彼女は気持ち悪いくらいクネクネしながら「そんなことないです~」って嬉しそうに悶そうだけど。
「……この根性なし」
「え、何か言ったか?」
「何もないわ。早く教室に戻りましょ」
なんにせよ、これからは少し気をつけて発言することにしよう。
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