残り53日
「はあ、明日から学校か。憂鬱になるぜ」
『ええまったく。休みが長いと終わりが寂しくなるわ』
本日は8月23日(日曜日)。夏休みの最終日だ。明日からは普通の登校日ではなく、再び課外授業という名の短縮授業が始まる。まだ一日長い授業じゃなくてありがたいが、登校日が始まって嬉しいことはない。早く次の長期休みである冬休みが来てほしい。
『そういえば、課題テストの勉強は進んでるの? 私に勝つって言ってから勉強している素振りがないのだけれど』
「甘いな花蓮。景兄からばっちりと訓練を受けているさ、もう、それは厳しい、厳しい勉強方法を強いられ--」
「ごめん、もう聞かないから元気だしてちょうだい」
景兄は頭が良いが、それゆえに出来ない俺を厳しく特訓する。そこまでしないと勉強できない俺も問題があるが、もう少し優しくされたいものだ。
よく景兄から「護衛術とか、処世術や語学の勉強は熱心に取り組むのに……あの熱をどうして学校の勉強に当てられないのか」と言われるが、好きなものには頑張れる心があることを知ってもらいたい。他の人にもこんな経験はあると思う。例えば、ゲームには何時間も熱中するほどの集中力があるのに他のことは集中できないとか。神様も、もう少し人間の構造を上手くしてほしかった。希望はヤル気スイッチの追加だ。
『まあでも、いつもの夏休みより満喫した自信があるわ』
「そうか? 別に普通だろ」
去年は健人と遊んだり景兄と出かけたりした。なんなら、県外どころか海外まで飛んでいったが、今年はそういうイベントもなかったので普通と思ったのだ。
ちなみに、今は花蓮と電話している。どうやら姫乃と遊んでいたらしく、仲が良さそうだ。正直、俺という仲介人がいなければ接点がまったくない二人なので、二人も遊んでて新鮮な気持ちになるのかもしれない。
『貴方がそうでも、私はそうじゃないのよ』
電話越しでも分かるくらいに花蓮は嬉しそうだった。鼻歌でも歌ってそうなテンションだな。
『こんな夏、いままで一度も体験してないもの。何度も、夏は来たのに』
いったい今までどんな夏を過ごしてきたのか。確かに人生において夏は何度も来ているが、友達と遊ぶ夏くらい一度はあっただろうに。
「これくらいなら、いつでも付き合ってやるよ」
「つ、付き合う!?」
なぜか花蓮が動揺している。つくづく訳が分からない奴だ。
「次の冬休みも、来年の夏も、都合が合うたびに遊んでやるよ。明日、地球が滅びるわけでもあるまいし」
「ほんと!? それは楽しみだわ。姫乃と健人君も呼んで来年も……うん、来年も」
急に元気が無くなり、耳が付いていたら垂れ下がっている様子が視える。どうしたのか。
「なんだ、来年に都合が悪く引っ越しでもあんのかよ?」
実は親の都合で転校とか隠しているのか。
「いえ、何でも無いわ。ほんと、楽しみ」
それからは、次の長期休暇は何をしたいかを話し合った。誰を呼ぶとか、どこに行きたいとか、未来の楽しいことを。人生、普通に事故も病気もなく生きていればまだ長いので生き急ぐこともないが、高校の長期休暇というものは数えるほどしかない。将来「あれをしてけばよかった」と後悔しないように過ごしたいのだ。
数十分話した後、明日が学校ということもあり電話は切ることにした。
「まあ、また明日な。昼休みに」
『え、ええ。……おやすみ』
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