草壁荘同窓会②


 「「「乾杯!」」」


 渡貫が宇佐川は遅れてくるから先に始めていようというので乾杯して飲み始めた。今日は店内すべてを貸し切りにしたようで、ママさんも離れた席でこちらの乾杯に合わせて少し飲んでいるようだ。


 「水割りに乾きもの……はは、昔を思い出すな。金がなかったから安酒ばかりのんでいたな。それでも旨かったのはなんでだったんだろうな」


 「はは、そうですね」


 「……」


 「あの頃は若かったからな。そう言えばナムの奴は国に帰ったんだっけ?」


 「そうですよ、ナムさんは卒業して帰国しました。穂積さんは大学卒業してからどうでしたか?」


 「まぁ、仕事は大変だったな……患者を何人も救えなくて、自分の無力感に苛まれたりしてな。それでもなんとかやってきたさ」


 「奥さんとはいつ出会われたのですか?」


 「あぁ、うちはお見合いだ。田舎だから若者が少なくてな」


 「……」


 「子どもは男が二人だ。うちの診療所を継ぐかはわからんよ。あまりデキが良くなくてな」


 「……」


 「ははは、それはそうだ!俺にデキがどうとかいう資格はないな!あれだけ親に散々迷惑かけたんだからな!」


 「……」


 「……まぁな。本人がこの道を選ぶなら応援するだけさ。その時はこっちに進学するかもしれん。その時は宜しくな」


 穂積が田舎の暮らしを話せば、睦月は教師生活を、渡貫が探偵として話せる範囲の面白い出来事を話せば、穂積は面白い患者の話をする。懐かしい話から近況まで話題はつきない。話を肴に杯を重ねていたら穂積は急に以前と違う点に気づいた。


 「あれ?渡貫……お前、飲んでも脱がなくなったのか?」


 「……」


 「ははは、そうだな。今やったら洒落にならないもんな」


 そんな風に三人で話していたら、離れて座っていたママさんが近寄ってきて


 「お連れさんはまだいらっしゃらないようですねぇ」


 ママさんの問いに渡貫と睦月が返事をしなかったので穂積が


 「すみません。あいつはマイペースな奴ですから、何処かでのんびりしてるのかもしれません」


 そう謝罪をした。ママさんは笑いながら


 「大丈夫ですよ。貸しきりですからゆっくりしてください」


 「すみません」


 「ふふっ、のんびりなお連れさんもご友人なんですよね?その方はどんなお人だったんですか?」


 「いい奴ですよ。俺達のムードメーカーみたいな奴でした。純粋な人柄だったから悪い奴に利用されないか心配もしてたんですがね」


 「……そうですか」


 「まぁ、不思議と逞しさがあったからなんとかやっているだろうとは思ってましたけどね」


 「……そう。ふふっ、面白そうな方なんですね」


 「はは、面白い奴ですよ」


 宇佐川の話を聞いた店のママは


 「睦月さん、それでは戸締まりだけお願いしますね?皆さま、ごゆっくり」


 「……はい。ありがとうございます」


 「あれ?睦月。ママさんは帰るのか?」


 「ええ、そういうことになってます。つまみに飽きたら河岸を変えるつもりなんで」


 「……そうか。ママさん美人さんだったな」


 そう穂積が言ったら、睦月と渡貫は笑いながら「そうですね」と答えた。


 「それにしても宇佐川の奴は遅いな、迷ってるんじゃないのか?電話してみたらどうだ?」


 「……そうですね。もうちょっと待ってから……」


 そう睦月が答えたと同時に店の入り口の扉が開き


 「ごめんねー、遅くなったー」


 昔と変わらず細身のまま年を重ねた宇佐川がアロハシャツ姿で現れた。


 「おう、宇佐川!遅いぞ!まったく……久しぶりだなぁ。元気だったか?」


 「ふふっ、なんとかね。穂積さんも元気だったー?」


 「あぁ、元気さ。さっきも話したんだが、お互いの近況を話そうか?」


 「ふふっ、当ててあげようか?穂積さんはひょっとして……結婚してお子さんは二人?」


 「……あぁ、そうだ」


 「ズバリ、二人とも男の子でしょー?」


 「……そうだけど、なんでわかった?」


 「ふふっ、なんでだろうね?」


 「それはそうと宇佐川の方は何の仕事をしてるんだ?」


 「それじゃ、当ててみてよ!」


 「……普通のサラリーマンじゃないのか?」


 「ブッブー!ハズレ、残念ー」


 「いや、ヒントでもないと無理だろう?分かるわけない……」


 「えー、ヒントはもう充分に出てるよ?何で睦月君が今日はこのお店に来ても奥さんに怒られないか……とか」


 「なんだそりゃ……まったくわからんぞ?そう言えば宇佐川、ここに来るときに美人さんとスレ違わなかったか?ここのママさんらしいんだが……」


 そう穂積が言うと睦月も渡貫も我慢できなくなったように笑いだした。宇佐川も「ははは、穂積さん最高っ!ありがとうー」と笑いだして


 「一体何なんだ?お前ら……」


 穂積はわけわからんと思いつつも若い頃と変わらないノリに懐かしさを覚えたのだった。

 

 

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