大学編 第72話
私は大学四年生になりながらも就職活動をしていない、学生でありながらもう既に漫画家でもあるからだ。
両親にも就職活動せずに漫画家になることを報告した。一体なんのために大学に行かせたんだと怒られるかもしれないと少し怯えていたけれど、私の話を聞いた両親は
「……幼稚園の頃から漫画家になりたいって言ってたからねぇ、良いんじゃないかな?」
随分と理解のある両親で助かった。それにしても私はそんな昔から漫画家になりたいって言っていたのか、流石に覚えてなかった。
大学生活を頑張っていたお陰か、四年生にて履修する科目は少なくて漫画を描くのに助かっている。
今日も漫画のネームを考えているのだが、何故か上手くいかない。悩みながら考えていたら恋人から連絡があった。
『今夜、流星群が見られるらしい、一緒に迷子のお星様を探しに行かないか?』
……なんだろう?今日の先輩はちょっとメルヘンだ。疲れてるのかなぁ。
先輩は石井さんの会社を円満退社した。教員採用試験に合格してきちんと教員になることが決まったからだ。高校教師として教員生活一年生の先輩、頑張って欲しいけど周囲に若い女子高生がいるというのが不安でもあるがそこは信じてあげないとね。
そんな先輩が夜中に出掛けようと誘ってきた。漫画を描かなくちゃなぁとも思いつつ、今日は何故か筆が進まないので気分転換も必要だなと
「行きます」
と返事をした。
夜になって、迎えにきた先輩を出迎えたら
「ふふ、可愛いな」
私の格好を見てそんなことを言うが、冬の夜中に出掛けると聞いて準備した格好、寒くないようにぶくぶくに厚着しているのでどう考えても可愛くないと思う。どちらかと言えば雪だるま的な可愛さのはずだ。
「歩いていくのですか?」
「いや、車をレンタルしてきた」
先輩の運転でお出かけする、いつの間にか免許を取っていた先輩は自分の車を持っていないのに何故かベテランの様に運転が上手い、そんな所がいつも不思議だ。
街外れの寂しい公園の駐車場に停めて車外に出ると肌寒さを感じるが見上げると満天の星空が綺麗だった。
「蛍、こっちにおいで」
先輩はいつの間にか敷いたビニールシートの上に座布団を敷いて座る、私の分は?と思ったら
「蛍の座布団はここだ」
そう言って胡座をかく先輩の太ももの上に座らされた、いつもの体勢である。私を包むような先輩を更に毛布のようなもので包んで温もりを分け合った。
「星空が綺麗ですね」
「……そうだな、でも流れ星は見えないな……」
特別な会話もなく、先輩が水筒に用意してくれていた温かい紅茶を飲みながら、ただ、満天の星空の下に私達だけがいた。まるでこの世界に二人だけが取り残されたような寂しさと、背中から感じるとても頼もしい温もりと、美しい天然のプラネタリウム。今日、ここに来て良かったなと思わせてくれる体験だった。
「先輩はそんなに流れ星を見たかったのですか?」
「……そうだな、ちょっと勇気を貰おうと思っただけなんだ。ほら、あの有名なゲームでも星を取ったら無敵になるだろ?」
「勇気ですか?何の為に?」
「……ま、それは良いじゃないか」
何か言いづらい理由でもあるのかな?何故か誤魔化した先輩は冬の星座を指し示して教えてくれる。
そうして暫く待っていたのだけれど先輩が待ち望んでいる流れ星はなかなか落ちてこなかった。
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