大学編 第70話
「……そんな、まさか」
蛍が俺に隠れて知らない野郎と逢い引きなんて、信じられない気持ちと目の当たりにしている現実とで俺は混乱した。
これから俺はどうすれば良い?そんな問いの答えを返してくれる人は誰もいない。
「……見なかったことにしたら……」
今日、この場で見たことを無かったことにする。そうしたら蛍と暫くは別れなくて済む、今のところ別れたいような素振りは見せていないのだから。でも、目の前のイケメンときちんと付き合い始めるつもりなら……俺は捨てられるのだろう。
「そ、それなら、あの野郎をこの場で二度と蛍に近付かないように脅せば」
俺が本気で本職仕込みの恫喝をすれば普通の奴なら二度と近寄らないだろう、でも……俺は蛍の前で暴力を振るいたくない、もし俺のそんな姿を見て脅える蛍の目を見たら俺はきっと壊れてしまうだろう。
「……やはり、蛍とあいつとが別れた後、あの野郎が一人になった時に脅せば……」
でもこれからすぐに別行動をするとは限らない、もしかしたら何処か二人っきりになれる場所に移動するかも……そんな最悪な想像をしてしまう。そんな場所に入ろうとする二人を見たらその場であの野郎に手が出てしまうだろう。
「……もう、いっそ蛍を部屋に閉じ込めて」
何処にも出さず、誰にも会わさなければ……そんな酷いことも考えて
「ははは、俺って奴は……」
自分って奴が嫌になった。蛍の為に真っ当な道を歩むと宣言したのに、こんな暴力や脅迫なんて手段がまず最初に浮かぶなんて!
「……そんな奴だからバチが当たったのかもしれないな」
改めて窓の向こうの男を見る、とても爽やかな、笑顔の眩しい、まるで少女漫画の王子様の様なイケメンだ。もしかしたら蛍はああいうタイプが好みなのかもしれない。
それに比べて窓に微かに映る俺の容姿と言えば、安っぽいラーメン屋のカウンターのテーブルの下に入っているようなオッサンしか読まないようなボロボロになった漫画雑誌のキャラクターみたいだ。
「……勝負にならないよな」
俺とあのイケメンなら向こうを選んで当然だ。俺に出来ることは、きちんと振られて蛍の前から去ることしかないのかもしれない。もういっそ学校も仕事も辞めてこの街から離れようか。
本当に好きな人の幸せを願うなら……
「……行くか」
きちんと蛍の口から話を聞こう。脚が震えそうだけど、この場から逃げても仕方ないんだと俺は喫茶店の扉を開いた。
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