大学編 第69話


 テクテクと目的地に向かって歩く蛍を後ろから気付かれないように眺める、出会った頃の蛍は自分に自信がなく、猫背になって俯いて歩くような地味な女の子だったが、今はきちんとお洒落をして背を伸ばし歩いている。


 「……誰が見ても可愛いと思うだろうな」


 俺と蛍は学校で過ごす時間帯が違う、俺は昼間は仕事をして夜間の大学に通っている。忙しい毎日を過ごしていたら自然と恋人の蛍と過ごす時間は削られてしまう。そんな俺と会えない時間に蛍がどう過ごしているかは窺い知ることができない。


 「……そんな俺が傍にいない時に蛍に近寄ってくる野郎がいるかもしれない……」


 そんな野郎がいたらと考えるだけで不安になる。そんな不安を抱く度に「俺も変わってしまった、もしかしたら弱くなったのかもしれない」とは思う。あの頃の俺は暴力を振るっても暴力を受けても裏切っても裏切られても痛みを感じていなかった。もしかしたら心が死んでいたのかもしれない。


 このまま蛍を尾行なんてしないで引き返した方が幸せなのでは、真実なぞ知らない方が幸せなのではなんて考えも浮かんでくる。蛍を信じているはずなのに……


 結局、引き返すこともできずに尾行を続け、蛍の目的地だと思われる所までやって来た。


 「喫茶店?なんでこんな所に?」


 迷わず入店する蛍を窓の外から確認したら、ある席に座る人物が手をあげて蛍を迎える、笑顔がとてもさわやかなイケメンだった。蛍も笑顔を返しペコリと頭を下げて向かい合わせに着席した。

 俺は自分の足元が崩れてしまったのではと思うくらい動揺してしまった。


 

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