大学編 第67話


 穂積さんの部屋の中にある積み重ねられた大人のお宝を片付ける。どうしても持っていきたいものは取って置き、もう売れなそうなものは処分するが、まだ売れそうなものは売って少しでもお金にしたいという穂積さん。

 俺はすべて捨ててしまえと思うんだけどな。


 そんな感じで仕分けしていたら


 「……これは」


 とある女優さんのビデオを手にしたら何かの記憶の扉が開きそうになった。


 「何だ?睦月が気になったビデオがあれば持っていって良いぞ」


 そんなことを穂積さんが言うが俺は遠慮して『処分』と書かれた箱の方に入れた。少しフリーズしたのは死に戻る前の人生で、とあるお店で相手してもらったことのある女性が出演していたからだ、あの女性はこっち系の女優さんだったんだな。

 少しだけ懐かしさを覚え、興味が湧いたがこんなものを所持していると知られたら蛍に何て言われるかと恐ろしくなったのできっぱりと処分の箱に放り込んだ。きっと元カノの写真などを処分する感情に近いものだと思う……元カノいたことないけど。


 そんな風に二人で頑張って片付けていたら渡貫さんがジュースが入ったビニール袋を手に、この部屋にやって来た。


 「……」


 「渡貫さん、手伝いに来てくれたのですか?」


 「……」


 「そういや、渡貫はどうするんだ?もう一年頑張るのか?」


 渡貫さんの司法試験は駄目だったらしい、また来年頑張るのかなって思っていたら


 「……」


 「え、就職するって?」


 「バイトで勤めていた探偵社に?確かに、それは天職かもしれないなぁ」


 渡貫さんも就職が決まったようで


 「え!?渡貫さんもこのアパートから出ていくんですか?」


 「そうか、俺と一緒に卒業だな」


 いきなりこの『草壁荘』の濃い三人が居なくなってしまうとは、少し寂しさもあるが仕方ないことでもある。


 「それじゃ、卒業祝い兼就職祝いの飲み会でもしますか」


 「……そうだな、宇佐川の奴は居ないが」


 「……」


 「またこの面子でいつか飲み会しましょうよ。その時は宇佐川さんも一緒に」


 「そうだな」


 貧乏アパートで安酒と乾きものだけの飲み会だったけど、恐らく男の青春の味とはこういうものだったといつか思う日が来るのだろう。


 

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