大学編 第52話
水無瀬さんの入院している病院にお見舞いに俺と蛍の二人はやって来た。水無瀬さんの部屋は個室で、部屋の前には執事の真木さんがいた。
「睦月様、鳴海様ありがとうございます」
丁寧に挨拶する真木さんにこちらも挨拶をして、水無瀬さんの個室にお邪魔する。水無瀬さんは大きな病院の立派な病室のベッドに身体を起こした状態で静かに座っていた。
「水無瀬さん、大丈夫か?」
「ふふ、睦月君、ありがとう。そして蛍ちゃん……」
「つ、つばめちゃん!ご、ごめんなさい!」
「……蛍ちゃん。何について謝ってるの?」
「全部です……楽しみにしていた遊園地を台無しにしたこと、あんな計画を実行したこと、そして、やっぱり先輩は譲れないって言わなくちゃいけないこと……」
「……そう。ねぇ、睦月君。蛍ちゃんと二人だけでお話したいからちょっと外してもらって良いかな?」
「あ、あぁ。その……お手柔らかにな?」
「だ、大丈夫です!つばめちゃん、おもいっきりビンタしてください!」
蛍はビンタされる覚悟を決めてきたのか目をつぶってぶるぶる震えている、まるで生まれたての小鹿だ。そんな蛍の姿を見て水無瀬さんは声に出さず笑っていた。
「もう、大丈夫だから。睦月君」
「わかった」
俺はおとなしく部屋の外に出る。きっと二人だけで話したいことがあるんだろう。俺は少し離れた長椅子に座っていたら、執事の真木さんがペットボトルの飲み物を渡してくれた。
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそお嬢様のお見舞いにいらしていただいてありがとうございます」
「……もう一度、遊園地に行けそうですか?」
「……わかりません。でもお嬢様の希望は叶えて差し上げたいです」
「……そうですね」
しばらく真木さんとお互いに無言で過ごしていたら
「先輩」
小声で俺を呼ぶ蛍の声が聞こえたので水無瀬さんの部屋に再びお邪魔する。二人でどんな話をしたのだろうと思っていたら水無瀬さんが
「ふふ、蛍ちゃんととっても良い約束をしたんだ。それには睦月君の手助けが必要なんだけど、睦月君、頑張ってくれる?」
そんなことを聞いてきたので
「よく分からないが、俺にできることなら何でも全力で頑張るぞ」
俺がそう答えたら蛍は「も、もう!先輩のエッチ!」とか言い出すし、水無瀬さんは大笑いしていた。何だったんだ?
「……結局、何を約束したんだ?」
「ふふ、それは内緒。ねー、蛍ちゃん」
「そ、そうですね。まだ内緒です」
どうやら仲間外れのようだ。女の子同士の話なのだろう、仕方ない。しばらくたわいもない話を三人でしていたが、そろそろ俺達は失礼しようかとなった頃に俺は水無瀬さんに申し出た。
「……なぁ、水無瀬さん。もう一度、遊園地に行こう」
「……うん、行きたいね」
「……行きましょう、つばめちゃん」
「……うん、行こう」
急遽予定を決めたが来週末、もう一度遊園地に、今度は三人で。
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