鳴海 燕という女子大生


 数日間、娘の燕と息子の創が、妻の両親の所に遊びに行っていた。その間は久しぶりに妻の蛍と二人っきりだった……普段は子ども達の眼があるから家の中ではそんなにベタベタとはしていなかったのだが、二人っきりということで結婚する前や、新婚の頃のように蛍に接していった。最初は、少し恥ずかしそうに「……もう、子供達がいないからってダメですよ」と言っていた蛍も俺が懲りもせず抱き締めながら愛の言葉を囁き続けたら……顔を赤らめて、昔のように頭をコテンと俺の胸板に押しつけてきた。後は、若い頃のような激しい愛ではなく、ゆったりとした落ち着いた愛の時間を過ごした。


 そんな数日を過ごしてしまったせいだろう、燕と創が帰って来た当日、俺と蛍の部屋のダブルベッドの布団に隠れた人型の膨らみを蛍だと思ってしまい……


 「……蛍、もう寝たのか?」


 と俺も布団に潜り込み、微かに見えた後ろ姿、その後ろ姿の背中から包み込むように抱き締めてしまった。そうしたら


 「キャッ!」


 と明らかに蛍とは違う声がしたので布団を捲り、明かりを点けたら……娘の燕がそこにはいた。


 「……燕、なんでこのベッドに?」


 と聞いたら、その質問には答えず。


 「……お父さん、抱きしめ方がいやらしかった……胸を触るように抱きしめてくるんだもん」


 と顔を赤くしながら言う、確かに柔らかい感触はあったが……てっきりお腹かと思ったとは絶対に言えない。燕は何処がとは言わないがスレンダーなのだ。


 「……いや、なんでこのベッドに寝てたのか聞いてるんだけど」


 と改めて尋ねたら


 「へへ、たまにはお父さんと一緒に寝たくって」


 と言う、もう燕は二十歳を越えているのに……


 「……燕、もう大学生なんだから……」


 と言いかけたら、燕は口先を尖らして


 「……ダメって言ったら、お母さんに言いつけちゃうから!お父さんに胸を揉まれたって……」


 と言う、さすがにそれは困る。きちんと話せば蛍もわかってくれるとは思うけど、わざわざ波風を立てるのも面倒だ。


 「……仕方ない、今日だけだぞ?」


 と俺が渋々言ったら、燕は嬉しそうに


 「やった!だから、お父さん大好き!」


 と言って、俺の腕枕を所望する。仕方なく右腕を差し出すと、飛び込むように抱きついてきて、右腕を枕にする。


 「ふふ、お父さん……私達が居なかった間、寂しかった?」


 と聞いてくるので「そうだな」と肯定したら


 「……でも、お母さんとラブラブしてたでしょ?」


 と言うので「……いつも通りだぞ?」と答えたら


 「……そういうのは女の勘でわかるんですぅ」


 と燕が拗ねるように言う、やはり、蛍と仲良くした後は雰囲気で伝わってしまうのだろうか?


 「……お父さん、お母さんと一緒にお風呂に入った?」


 ……なんでわかるんだ?勿論、そんなことを素直に白状するわけがないので「…… 一緒になんて入らないぞ」と答えたにも関わらず


 「……ふうーん、入ったんだ……」


 と燕が更に拗ねるように言う、もしかして燕はエスパーなのだろうか?


 「……お父さん、罰として今度、私とも一緒にお風呂に入ること!」


 と言い出したが、罰って何だ?それに


 「……燕、もう大学生の娘と一緒にお風呂に入ったらおかしいだろう?」


 と言ったのに、燕は「変じゃないもん!」と反論してきたのだが、ふと燕が何かに気付いたように顔を赤らめ恥ずかしそうに


 「……お父さん、お父さんが私の裸を見て……『反応』しちゃったとしても、私は軽蔑したりしないから気にしないでね!」


 とか言い出した!娘の裸で『反応』する訳ないだろうが!!


 「……勘弁してくれ」


 と俺が力なく言ったら


 「……それじゃ、旅行で温泉とか行った時に家族風呂に一緒に入ろうよ!お母さんも一緒でいいから!思い出作りだよ!」


 と、言い出したが……家族風呂?それは娘と入って良いものなのか?わからないが……


 「……家族風呂なら創も一緒じゃないのか?」


 と燕に確認したら


 「えーっ!?嫌よ、創と一緒にお風呂に入るなんて!恥ずかしいよ!」


 とか言う。創と一緒は恥ずかしいのに、何で俺とは入ろうとするんだ?さっぱりわからん。


 「……燕、とりあえず寝ようか……」


 不毛な議論だと匙を投げ、燕にもっと端に寄るように伝える。


 「なんでベッドの真ん中じゃ駄目なの?」


 と燕が尋ねるので


 「……このベッドで燕と二人で寝たら、お母さんの寝る場所がなくなっちゃうだろ?俺の右腕は燕が使って良いから、左腕はお母さんの為の腕枕だ」


 と言ったら「ふふ、両手に花だね」とか燕が言う。両手に花かもしれないが……明日の朝は両腕が痺れているだろうと覚悟した。


 

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