後日談②


 うちの旦那様は何を考えているのかよくわからない人だ。

 今日はソファーに寝転んで漫画の単行本を読んで笑っている……皆が恐れ敬う、男の中の男と呼ばれる人なのに……


 旦那様との馴れ初めは……街でチンピラに絡まれていた私を助けてくれたのが運命の出会い、一目で惚れてしまった私が旦那様の家にお礼をしたいと無理矢理押しかけて……あの頃は料理なんてできなかったのになんとか振り向いてもらいたくて……あんなものを食べさせて……いま思い出しても恥ずかしくて穴に入りたい。

 旦那様になら何をされても良いと覚悟を決めてお部屋にお邪魔したのに……


 「……暇なのか?それなら……」


 旦那様はそう言ってファ○コンのツーコントローラーを渡してきて


 「……俺は『く○政』使うから、お前は『つ○松』な」


 時代劇のアクションゲームをやらされた、その時は私はそんなに魅力ないのかなぁと少し落ち込んだ。それでもめげずにアタックし続けて……漸く彼女になれた時は号泣した。


 ……恋人になったと言っても内心は不安で一杯だった。私の家は一般的な家庭ではない、姉と私はヤクザの親分の娘だった。そんな私達は父親にとってただの政略結婚の駒だった。

 姉はヤクザの家が嫌いで、私は好きでもない男に嫁がされるのが嫌だった。だから


 「……このままじゃ好きでもない男と結婚させられます……一緒にどこか遠くに逃げてくれませんか?」


 堅気の彼にそんな身勝手なお願いをした、一緒に逃げてくれたら例え取り押さえられ家に連れ戻されて望まぬ結婚をしてもその時の想い出だけで生きて行けると思ったし、もし駆け落ちの約束の場所に彼が現れなかったら……男なんてそんなもんだと諦めて死んだように生きていたと思う。


 そんな風に私は考えていたのに……旦那様は規格外だった。


 「……ちょっと出かけてくる、心配せず待ってろ」


 って暫く街を離れて……戻ってきた時には堂々と私の父親も結婚相手として納得するヤクザの立場の人間になっていた……訳がわからなかった、下っぱになったというならわかるが、よその格上の親分さんから彼を私の婿にと推薦されるなんて……

 一度「一体、どうやったの?」と尋ねたことがあるがその時は


 「……ロッ○マンと一緒だ、最初はカッ○マンからみたいに順番通り、そして倒したボスの武器を使って次のボスを倒すことの繰り返しをしただけだ……」


 そんな風に言われたがよくわからなかった、だから他の人にも具体的な話を聞いてなんとなくわかったのは……


 最初はよその組の名の知れた武闘派の若い男とタイマンの喧嘩をして勝って認めさせ兄弟分になって、次はその男の知り合いの所へと……それを繰り返し若い武闘派の男連中の中で「凄い男がいる」と認められたら、次はその男達に上役を紹介してもらい、今度は知力でその上役達に利益をもたらし「使える男だ」と認めさせた。

 そんなことを短期間で成し遂げて……晴れて私の婿になった。旦那様が婿養子となることで姉もヤクザな家から解放され、私も好きな人と堂々と結ばれた。


 ……勿論これでハッピーエンドなんてことは無かった。私の為にヤクザ者になってしまった彼は実のお姉さんと疎遠になってしまった。そして彼と結婚したが……私の方に原因があって……子どもは作れなかった。


 「……他所に女を作って、子どもを産ませても文句を言いません……」


 旦那様くらいの立場なら愛人の一人や二人いてもおかしくない……私はそう言ったのだが


 「……俺はお前だけが傍に居てくれたら良いんだ」


 旦那様はそう言って私が泣き止むまで抱き締めてくれた。そしてその言葉通り他所に女を作ることも無かった。


 その様に夫婦仲良く過ごしていた時に旦那様のお姉さんから連絡があり……お姉さんの余命が残り少ないことを伝えられ、残される一人息子のことをお願いされた。


 私達には子どもがいないのでうちの子どもとして迎えたいと旦那様に言ったのだが


 「……うちに連れてきたら俺の跡継ぎという言葉に縛られるだろう……できれば姉の希望通りここじゃ無いところで生きて欲しい」


 そう言われては反対もできなかった、そうしてお姉さんの死後、甥っ子は私達の金銭的な支援で一人暮らしをすることになった。


 「……お前もこれを読むか?」


 旦那様が渡してきたのは少女漫画……この街を離れた甥っ子の恋人の蛍ちゃんが描いた作品だ。


 「……ありがとうございます、読ませていただきますね」


 既に蛍ちゃんから聞いていて全巻持ってるとは言わず、初めて見たという風に装って手にする。


 ……ヒロインの相手役の男の子が若い頃の旦那様にそっくりなのでこっそりと自室にて、にやけ顔で読んでいることは旦那様にも内緒です。

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