第98話


 これは夢だと自分でもわかっている夢、明晰夢を見ている。夢の中で俺が立っているのは暗闇の中、闇に紛れる装いをした敵対者と対峙している場面だ。


 俺にとって一番の急場……俺が殺された場面を追想している。


 夜中の雑居ビルの谷間にて俺はいきなり襲われた。刃物による一撃が俺を襲ったが、直感としか言えない感覚で避け左腕を切られるだけで済んだ。


 「誰だ、テメエは!!」


 と言う台詞に返事があるはずもなく


 「……チッ」


 刃物を持つ相手は逆にその動きが斬るか突くか投げるかに縛られるだろうとこちらから攻め寄ったら……


 「ぐっ!?」


 まさか空いた片手から指弾で何かを飛ばして俺の左目を潰すとは……


 逃げ道も塞がれ、相手と向き合うしかなくなった俺は一か八かの直接対決に向かい……


 真っ向から刺されて終わった。


 偶々、酒を飲んだ後を狙われたわけではないだろう。俺の行動を観察して、俺を倒すのに有利な場所を選び、準備をして現れたのだろう。


 ……神宮寺と立合いをしたからこんな夢を見たのだろうか。恨みがあるかと言われたら複雑な気持ちだ。あのときの俺は恨まれて仕方ない立場だったし、そのお陰で鳴海蛍を救え、恋人になれた。


 あのときの敵対者は恐らく神宮寺だろう、神宮寺の母親と妹とは体格が違った。神宮寺の父親は婿養子らしく武術とは無縁らしい。

 だが、未来の神宮寺はどうして裏の仕事をすることになったのだろう?それはわからない……が、そんなことは金か女か騙されたか……そんな所だろう。そして一度でも裏の仕事で手を汚した者はそこから抜けさせてもらえない、何度も脅され利用されるのだ。そんな堕落した奴等は死に戻る前に何人も見てきた。

 友人と思っている神宮寺が出来れば間違った道を歩まないよう……俺にできることがあれば……と思う。


 


 

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