第60話


 夏休み最後の週末……蛍との約束の地元の小さな夏祭りに向かう。履き慣れない下駄の音が響く。


 「……先輩、こんばんは」


 「……蛍、こんばんは、とても良く似合っているよ」


 迎えに行った蛍は藍色に朝顔の柄の浴衣を着ていて……可愛いは可愛いのだがいつも以上に今日は少し大人びて見える。浴衣にはそんな魔力があるのだろうか?


 「……先輩も格好良いです……」


 「はは、まぁ馬子にも衣装ってやつさ」


 「……後で写真撮らせてくださいね」


 そんなことを言うので俺も蛍の浴衣姿を撮らせてもらおうと決めた。


 「……花火まで時間がある、少し屋台を見て回ろうか」


 「……はい」


 手を繋いで屋台を見て物色する。二人なので一つの食べ物を半分こしたりした。そんな最中に蛍が一大事だとでもいうように声を上げた。


 「……先輩、失敗しました」


 なにか不味いことが起こったのかと聞いたら


 「……たこ焼きを食べてしまったので……今日はキスできません」


 お口の中が大変なことになっているはずなので本日のキスは販売中止ですと蛍店員が仰る。


 「……仕方ないな。後日、倍の数いただくから」


 「……はい」


 蛍が恥ずかしそうに笑う。


 蛍と夏祭りの雰囲気を楽しんで歩いていると


 「……すみません、ちょっと……」


 どうやら履き慣れない下駄で蛍は足の指先を痛めたしまった様で


 「……絆創膏持ってますからちょっと貼っちゃいますね」


 浴衣では難しいだろうと「俺が貼るから貸してごらん」と蛍を座らせ下駄を脱がし、蛍の小さな足の傷を確認してから絆創膏を貼る。

 

 「……先輩、ありがとうございます」


 そう言う蛍の足に下駄を履かそうとすると


 「……先輩に履き物を履かせてもらうとシンデレラになったみたいです」


 「……ふふ、それじゃ行きましょうお姫様」


 祭りの最後は花火が打ち上げる。二人並んで見れる場所を確保して花火を楽しむ。


 「……綺麗ですね」


 「……あぁ、綺麗だ」


 俺が綺麗だと言った言葉の半分は蛍の横顔の事だと伝わっただろうか?蛍は花火に夢中だから伝わらなかったかな。

 人を好きになるとこんなにも世界が輝いて見えるなんて……知らなかった、すべては蛍のお陰だな。

 


 


 


 

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