第44話


 思い返せば御劔達と対峙した日から蛍は少しずつ変わっていった。

 学校ではそんなに変化はないのだが、休日、俺の部屋に遊びに来るときは眼鏡をやめてコンタクトレンズにして薄くお化粧もするようになった。

 服装も短いスカートで遊びに来るので……中が見えてしまいそうになり目を背けることの葛藤が生じる。

 そしてゲームをやる時に俺の袖と蛍の袖が触れあうくらい近くに座るようになった。


 「蛍、青色のベルだ取れ」


 「せ、先輩……腕が取れてしまいました!」


 「救急車が出てきたらそれで治るから」


 そんな風に少しずつ変化していった二人の夏休みのある日……


 「……先輩、チカチカ点滅してて電球が切れそうです」


 「マジか……ちょっとコンビニで買ってくるからゲームでもやって待っててくれ」


 「……はい、いってらっしゃい」


 コンビニから帰ってきたら……蛍の顔が何故か赤い……


 「……どうした?」


 「なっ、なんでも……ないです……」


 「熱でもあるのか?」


 そう言って蛍の額に手を当てたら「……あぅぅ」とか言って更に顔を赤くした。


 「だ、大丈夫ですからっ……電球替えてしまいますねっ」


 そう言って俺から電球を奪い取り椅子の上に立つ


 「いいよ、蛍。俺がやるよ」


 小柄の蛍じゃ椅子の上でも少し背伸びしなくちゃ届かない。


 「だ、大丈夫ですからっ……もう少し……あっ!」


 ほら言わんこっちゃない……小柄な蛍が倒れる前に抱き抱える。


 「大丈夫か?」


 そう言って床に降ろしたのだが蛍は抱きついたまま俺から離れない。


 「……蛍?」


 「………………先輩、私は先輩から見て女の子に見れないですか?」


 「……普通に女の子だと思ってるぞ?どうした?一体……」


 「……先輩が本棚の裏に隠してある本の女の人は……皆、胸の大きな大人の女性ばかりでした……」


 ブフォと吹き出した。見たのか?


 「……いや、たまたまだ、たまたま……」


 「……先輩……」


 そう言って蛍は俺の身体を更にぎゅっと抱き締める。


 「おい、蛍、何をして……」


 「……先輩、私じゃ……駄目ですか?」


 上目遣いでこちらを見る蛍の目はどこか酔っているようなとろんとした目だった。蛍が強く抱き締めてくることで蛍の胸が俺の身体に触れる……「んっ」と蛍の小さな声と身体に感じる確かな女の子の柔らかさに理性がどんどん失われていった。


 「……先輩、最近はずっと……先輩に見られても困らない下着を着けるようにしてたんですよ……ご存知なかったでしょうけど……」


 蛍は真っ赤な顔をした涙目でそんな爆弾を落とした。蛍が俺のことをどういう目で見てるか……ただの先輩ってだけじゃないのは薄々気づいていた。腕時計を女性に贈ることの意味も気になって調べたら「共に時間を歩もう」や「独占欲」を意味すると書かれていて……でも蛍はそれを知ってて「何も問題ないです」って言ってくれた。それってつまり……そんな女の子がこんな風に誘ってきて……これが据え膳ってやつなのか?と蛍の腰に手を回そうとした時に


 Prrrr……


 電話が鳴った。蛍に「ちょっと待って」と電話に出る。俺に電話をしてくる人なんて一人しかいない……


 『……元気にしてたか?』


 「……はい、叔父さん……」


 叔父といつもの簡単な現状報告と今度会う約束をして電話を切る。


 「……先輩?」


 蛍は何かを期待するような声をしていたが……


 「……蛍、ごめんな」


 叔父からの電話でそういう気持ちは消え失せていた。


 

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