第10話
放課後、蛍と一緒に歩く帰り道に珍しく蛍の方から話しかけてきた。
「……先輩」
「……どうした?」
「……明日も一緒にお出かけして先輩がお友達って見られるようにしますか?」
そんなことを上目遣いで聞いてくる。
……明日って、明日は学校休みじゃないか?そういえば以前、死に戻る前もこんな事を聞かれてその時は
『休みの時までそんなポーズを見せることはないだろう?』
そんな事を言って拒絶した気がする。でも以前より会話もするし、距離も近づいている気がする……せっかく上手くやり直せてるなら……
「……蛍はどうしたい?休みの日まで俺に付き合わされるのは嫌じゃないか?」
蛍は俺の顔をじっと見て……
「……嫌じゃないです」
そう答えたので
「……そうか、じゃどこか出かけてみるか?」
「……はい」
そういうことになった。
翌日の午後、とりあえず駅前で待ち合わせをして、それから適当に街をぶらつくことに決めたので、待ち合わせ場所でぼんやり待っている時にふと「これってひょっとしたらデートでは?」なんて考えもしたが「いやいや向こうもそんな気はないだろう」と結論づけていたら……蛍がテクテク急ぎ足でやってきた。
「……先輩、ごめんなさいお待たせしましたか?」
「いや、今来た所だ」
そう言って見た蛍は制服姿と違って、春に相応しいふわふわと可愛らしい洋服を着てきちんと女の子だった。そういえば私服姿は初めて見たな。
「なかなか可愛らしい格好じゃないか、似合ってるぞ」
俺は若い頃には言えなかった恥ずかしい台詞も死に戻った年の功で言えるようになっていたので言ってみたら、蛍は肩からさげた長い紐のポーチをぎゅっと握りしめ
「……あっ、ありがとうございます……」
顔を真っ赤にして小さな声で答えた。
さてこれからどうしたい?と聞いたら「……先輩にお任せします」と答えられた。はてさて……どうするかな……?
この時代に戻る前の成人していた頃ならアルコールのあるとこ行っていただろうが……
「……映画でも観るか?」
デートなら無難か?いや、デートじゃないけど。蛍が上目遣いで
「……はい」
と頷くので行くことにした、さて今はどんな映画がやってるのかなとラインナップを見たがぴんとこない。
「……蛍、好きなの選びな」
蛍は少し迷って、「……これはどうですか?」とアクション映画を選んだので
「……本当はこのアニメが観たいんだろ?」
と返したら蛍は驚いた顔をして「……どうしてわかったんですか?」と答える。わからないわけないだろう……目はアニメのポスターに釘付けじゃないか。
「……でも、先輩はきっと楽しくないと思います……」
そう言って俯く蛍に
「今日は蛍の好きな映画でいいじゃないか、次は俺の好みの映画にしよう」
そう言ったら、蛍は目を丸くした後に笑って「……はい」と答えた。
アニメの映画を観たが俺はあまり内容を覚えていない、隣で夢中になっている蛍が声こそ出さないが喜怒哀楽の表情豊かに映画を楽しんでいるのを見て、この子はこんなにも表情豊かなんだなと知った。
映画を観て、その後は喫茶店で俺はコーヒー、蛍は紅茶とケーキを食べた。美味しそうに食べる様子をみたら甘いものが好きなんだなって明らかだった。
夕方、暗くなる前に帰ることにする、「家まで送ろうか?」と言ったのだが「……まだ明るいから大丈夫です」って途中で別れた。
学校の奴等に出くわすこともなくただ二人で出掛けただけになってしまったが何故か無駄な一日だったなんて気持ちはなかった。
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