作戦会議

「卵が孵化しモドラーが姿を確認後ある程度移動を開始したところを青ヶ島に設置された迎撃システムと自衛隊による総攻撃を行う。

 孵化してすぐに攻撃しないのは火口付近を破壊する事による今後のモドラー出現の座標が変わることを懸念しての処置であるので理解頂きたい」


 作戦会議室で今回の作戦の隊長が概要を説明している。今までの戦果から海を渡る前に討伐出来たのは最初の1体目を含め10体、本土に上陸したのも10体。結果を見れば半々だが20メートル級からは9体中1体しか上陸前の討伐は成功していない。

 これはモドラーの個体が巨大化したことにより耐久値が上がったからだとされている。


 つまり今回の卵の大きさ47メートルは40メートル級の出現が予測される大きさでありそれは上陸することがほぼ決定している事を意味する。


「──以上で現時点での作戦の概要説明を終了します。質問はありますでしょうか?」


 隊長への質問が飛び交う中瑠璃は寧音とアネットを見る。

 当たり前といえば当たり前なのだが2人とも大人しい。日頃があれだけ騒げる環境がおかしいだけなのだ。

 モドラーのに対抗出来る最終兵器という立場からなのか特別扱いされてる節がある。

 自ら志願して軍に入った訳でなく軍の方からお願いしてここにいるといった背景も関係しているのかもしれない。


 左隣の寧音と目が合うと にへぇ って擬音が後ろに見える感じで笑ってくる。1時間以上の会議にお疲れなのだろう眠そうな目をしている。

 日頃よく寝ている彼女のことを思えばかなり頑張っていると言えるだろう。

 瑠璃はとりあえず親指を立てて「お前は頑張ってる」と念を送ってみる。

 ちゃんと伝わったのか分からないが寧音は嬉しそうな表情を見せると前を向いて話を聞いている。


 視線を感じ右隣を見るとアネットと目が合う。口角をあげ微笑みを見せるがなんとなくトゲを感じる。

 ジーーーーと刺さるような視線を送ってくる。別に何も悪いことはしていないが攻められてる気分になる。

 とりあえず親指を立てて……アネットが頬を膨らませて不満を伝えてくる。

 訳が分からない瑠璃が混乱しているとタイミングよく話が瑠璃達に向けられる。


 いつのまにか諸星が話しをしていて瑠璃達が最終防衛の要であること、お披露目会の映像が流れそれに沿った説明と共に瑠璃達が紹介される。

 事前に紹介される事は聞かされていたので当たり障りのない、無難な自己紹介をして会議は続く。

 周りの視線から信用というよりは好奇心の目で見られているのを感じ正直居心地が悪い。

 それからも長い会議は続き早く終わって欲しいと瑠璃は願うがそれが叶うのは2時間先になる。



 ***



 MOFU KUMA管制室でオペレーターを担当するみなと 亜衣あい26歳(絶賛彼氏募集中)は仕事に生きてきた人生を思い返し後悔しながらも今現在進行形で仕事をしている矛盾にうんざりしていた。

 そんな彼女の背後に悪意が忍び寄ってるとも知らずに……


「みーなとさーーん!」


 突然後ろから抱きつかれ胸を鷲掴みにされる。


「ねーねー聞いてくださいよーー。会議めちゃくちゃ長くてぇ私疲れましたよ~」

「分かった聞く、聞くから揉むな! しかも力強く!」

「えーー揉み心地良いのにぃ。ふむ今日は淡い緑と」


 周囲の男性職員が視線は向けないが意識を向けているのが感じられる空間で寧音は港の感触を堪能し怒られるが割りといつもの光景だったりする。


「で? 愚痴を言いに来たの?」

「それもあるけどね。今日は港さんのこと知りたくて来たんだ」

「私?」


 不思議そうに首を傾げる港に対し寧音は話を続ける。


「私達って一般から軍に所収されてMOFU KUMAの操縦者としてここにいる訳じゃないですか。

 で、モドラー襲撃って初撃から大体5年で1周期。それを終えてそこから約5年間は出現しない休眠期に入る。

 それを考えると今回の初撃から10年、私は28歳。

 流石にMOFU KUMAの操縦はしてないと思うんだよね。おそらく普通に働いているかなと」


 港が納得したように頷き答える。


「ああ、就職援護ってこと?」

「そそ、流石港さんは話が早い。でどんな感じ? ここのオペレーターって」

「どうって言われてもねぇ……」


 答えをワクワクしながら待っている寧音を港は薄目でチラチラ見ながら悩んでいた。

 ほんの数分前に仕事に生きていたことを後悔してた訳なのだから。


「そうねぇ……寧音なら明るくて元気いいし良いのかなあ? あんまり動かなくてじっとしてる作業が多いから寧音どう? 動いてる方が好きじゃない?」

「なんか遠回しに「じっと出来ないだろお前」って聞こえるけどまあその通り。止まったら寝るね私」


 腕を組み自慢気にそう話す寧音を見て港はため息をつく。


「それじゃあ、あれです。諸星さん! 教官ってどう? ビシバシいくよ私は!」

「えぇ……」

「うわっ、あからさまに無理だって顔だねそれ。じゃあじゃあ、諸星さんはどうやって教官になったの? 前に聞いたときはなんか濁されて教えてもらえなかったんだ」


「諸星さんは昔MOFU KUMAの元になった戦闘用ロボの操縦者だったの。で、モドラー30メートル級の3体目と4体目の撃破経験者なのよ」

「3、4体目?その周期は 後1体いるよね? 次は出撃してないの?」


 港の表情が若干険しくなり前のめりになって寧音に近付くと声のトーンを落として話し始める。


「まあ噂なんだけど最後の出撃で大怪我したらしいの。それだけなら前線離れて教官にって話なんだけど。実はね戦闘用ロボって2人乗りで操作するの。で、もう一人の搭乗者は三滝司令なのよ」

「指令と諸星さんが同じロボットの操縦者だった……」

「そう。最後の出撃時、弓ケ浜でモドラーが初めて逃げる行動をとったの。それを追いかけて海に引きずり込まれ1ヶ月間行方不明、生存絶望と思われてからの奇跡の生還。そして謎の出世……って、ミステリアスだと思わない?」


 港の話を聞いて寧音が暫し考える。


「つまり海に沈んで帰ってきたら教官になれると」

「なに聞いてたのあんた」


 港の突っ込みに寧音が「にへへ」と笑い頭を掻く。


「でも色々参考になったよ。ありがとう港さん。私は瑠璃のお嫁さんになることにする」

「そう! あんたらさ、あの会話どうなの? こっちに丸聞こえよ。瑠璃くん引いてるわよ」

「えぇ、愛を伝えようとしてるだけなのにぃ」

「いやあれは引くは……もっと常識の範囲でね」


 額を押さえ呆れた表情の港に頬を膨らませた寧音が顔を近づけて不服そうに聞く。


「じゃあどうしたら良い? どうやってアプローチしたら瑠璃を落とせるの?」

「どうって……分かれば私だってこの年までこんなとこにいないわよ!」


 怒りだす港に地雷を踏んでしまった事に気付いた寧音は身の危険を感じ、管制室から逃げるように去っていくのだった。

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