ex 聖女くん達、合流
「シルヴィ後ろだ!」
叫びながらステラは手元に掌サイズの結界の球体を瞬時に作り出し、狙いを定め投擲。
それを男の手の甲に直撃させ、刀をその手から離させる。
だが刀を弾かれた左手が発光し始めた。
(瞬時に魔術攻撃に切り替えやがった……だけど!)
行動を切り替える為の一瞬のウェイトが攻撃の到達を一瞬遅らせる。
そしてシルヴィもあくまで比較的近接戦闘が得意ではないだけだ。
その一瞬の隙は突ける。
シルヴィの手が先に男の元へと到達し、激しく発光。
男の体がその場で激しく痙攣する。
そして急接近したステラが男の背後を取った。
「っらあ!」
感電するかどうかは分からないが、一応インパクトのポイントを覆うように結界を張り、男に蹴りを叩き込む。
そしてくの字に折れた男の体は弾き飛ばされ、先の拳での一撃のように壁に叩きつけられた。
「大丈夫かシルヴィ!」
「お、お陰様でなんとか……」
生きた心地がしないといった表情でシルヴィにステラは言う。
「なぁ、今の俺達の攻撃通ってると思うか?」
「ど、どうですかね……さっきの私の一撃を喰らっても普通に動いてましたからね」
「それどころか、俺アイツの腕圧し折った筈なんだけど」
「普通に動いてましたね」
「……まさかこの短期間で治療したのか?」
倒れているフリをしていた、この短い間で。
「まさか……って思いたいですけど、実際折ったのなら、そういう事になるんですよね?」
「……ああ。常識的に考えて滅茶苦茶な速度だけどな」
そもそも最初からおかしな所は有った。
男の衣服はまるで腹部を何かで貫かれたように大穴が空いていて、全身も血塗れという有様。
今の腕の再生を見る限り、目の前の男はそれだけの傷を負ったにも関わらず、服を着替える間も無く完治したという事になるのかもしれない。
「なんにしても厄介だな……もしお前の攻撃通って無かったら、勝ち筋が見えなくなってくるんだけど」
「……さっきはどうですかねとは言いましたが、多分大丈夫な筈です」
シルヴィがそう言うと同時に男は立ち上がるが、動きはぎこちない。
まともに動けているような様子ではない。
「効いてる……」
「最初の一撃は攻撃の余波で動けなくなる感じですけど、今打ったのは拘束する為の魔術ですから。体が回復しようと、術式を解除されなければ動け――」
「……いやシルヴィ下がれ!」
シルヴィが言いかけている間に前へと躍り出た。
男の動きが一瞬軽くなったのが見えたから。
そして次の瞬間には急接近してくる。
「ぜ、全然効いてない!?」
(いや、違う)
今度は徒手空拳で迫ってきた男の攻撃を捌きながら。ステラは考える。
(立ち上がった時点で間違いなくコイツにシルヴィの魔術は効いていた。効いていたけど解除しやがったんだ!)
そんな事が可能かどうかと言われれば、条件が揃えば可能と言えるだろう。
例えば既に同じ術式を解除した経験があるとか。
(……まあ解除されちまったものをこれ以上考えても仕方ねえか)
考えるべきなのは別のプラン。
(重い怪我を負わせてもすぐに傷が癒える。拘束魔術も実質的に効果無し。しかも回復云々以前にあれだけ攻撃喰らっても意識飛ばねえ位にタフと来た。だとしたら一体どうやって倒せばいい)
考えられる手段としては、回復されるよりも早く殴り続け蹴り続け意識を奪う事。
だがこの相手はそう簡単に一方的な展開にしてくれない。
(つーか暗器使うから武器メインかと思ったら、徒手空拳でも滅茶苦茶強いじゃねえかよコイツ!)
接近してきた男との攻防。
その攻防は直感的に自分が押しているとステラは思う。
事実一発も有効打は貰っていない。
全ての攻撃を、捌きカウンターを叩き込む事に何度も成功している。
だけどそれでも一方的な展開には持ち込めない。
そして暗器に徒手空拳に空間転移に物体への術式付与。
それらを見せてきた男の底はまだ見えない。
おそらくまだ男は手の内を出し切っていない。
状況が好転する未来が見えない。
それどころか良くない未来ばかりが見えてくる。
(……参ったな。最悪だ)
未だにステラは無傷だ。
一度も有効打を貰っていない。
だけどそれでも、強敵との激しい戦闘は想像以上に体力を削られる。
(……これ以上長引くと持たねえぞ)
そう遠くない未来に状況が悪い方向に動く。
そういう予感が湧き上がってくる。
(……どうする、マジでこのままだとジリ貧だ)
そう考えながら攻撃を裁いていくが、打開策は浮かんでこない。
まともな手段では勝ち筋が見えてこない。
まともな手段では。
自分がまともだと思っている事の先にある戦い方ならば、まだいくらでも思いつく。
早い話、回復される前に命を絶ってしまえば良い。
広いと言ってもいくらでも距離を詰められる室内での戦いでなら、まだ切れるカードは山のようにある。
だがそんなものは思いついた瞬間に破棄していく。
目の前の男からはやはり意思のような物を感じられなくて、まるで操られているように思えて。
その素性はただの善良な人間かもしれない。
そして例えそうじゃなかったとしても……あの山でそういう行動を取るという選択肢を捨てている時点で同じ事だ。
何か最もらしい理由があれば人を殺せるような、ストイックなメンタリティを持ち合わせていない。
どこにでもいる普通の少女と同じく、当たり前のようにそんなものは持ち合わせていない。
だから必死に思考を回す。
目の前の相手を殺さず倒し、尚且つ自分も死なずにシルヴィも殺させない方法を見付ける為に。
そしてそれが浮かんでこないまま、再び男の頭上に落雷が落ちる。
「……」
男はそれをバックステップで無言で回避。
スティック状の結界を残して。
「……ッ!」
ステラは瞬時にスティック状の結界を蹴り飛ばして自分達から遠ざけるが、次の瞬間部屋中を覆う様にその結界から強烈な光が放たれる。
「ぐ……ッ」
その強烈な光はステラの視界を奪うに至る。
(……まずい!)
例え視界を奪われても、敵の動きはほぼ把握できる。
別に目に見える情報だけで戦っている訳ではないから。
それでも対応力は僅かに劣る。
この相手に。
今の大幅に体力を削られた状況で。
それは致命的なダメージとなる。
(こっちの体力削れるまで手の内隠してやがった!)
そして次の瞬間、多方向から同一の足音が聞こえてくる。
脳にノイズとして届けられる。
「……ッ!」
それでも相手の動きを見極めようとしていた最中、おそらくシルヴィに突然担ぐように抱き抱えられた。
そして急速に動き出したのが分かる。
「シルヴィ!?」
「一旦下がりましょう! このまま戦い続けてもどうやったら勝てるのか分かんないんで! 戦略的撤退って奴です! 下がりながら勝ち方考えましょう!」
「それがいいか……お前、ちゃんと前見えてるか?」
「防ぎました!」
「流石。ほんと優秀だよシルヴィは」
「そう言ってくれるのは嬉しいんですけど、できれば打開策をすぐ思いつける位には優秀で居たかったんですけどね! って凄いスピードで追ってきてます!」
「シルヴィは走るのに集中してくれ! 俺が足止めする!」
「見えますか!?」
「大体分かる!」
言いながら炎属性の術式を構築。
走っている通路を塞ぐように火柱を作り出す。
だがそれは当然のように空間転移で潜り抜けてくる。
だけどおそらく連続使用はできない筈。
ステラは間髪空けずに火の玉を作り出し、男に向けて打ち込んだ。
それを男は軽々と回避するが、それでも僅かに速度は落ちる。
その間に少しでも距離を稼ぐ。
そして僅かに距離を稼ぎながら、先程素通りしてきた近くの別の開けた空間へと戻ってきた時だった。
部屋の中に、別の誰かが居るのが感覚で分かった。
(誰だ!? まさかこんな状況で新手か!?)
と、内心焦るステラを抱えるシルヴィが声を上げる。
「え、な、なんでこんな所にいるんですか!?」
そしてその問いに答えるように、そこに居た誰かは言った。
「あー予想通りシルヴィさんも巻き込まれてたっすね! 二人共、怪我無いっすか!?」
自分達の仲間であり友達でもある、シズクはそう言った。
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