10 聖女さん、勧誘はしない。

「それで、二人はこれからどうするんだよ。話中途半端に聞いてた感じだと、追放されたのは昨日今日みたいな感じだろ?」


「一応私は冒険者をやる事にしたんだ」


「わ、私もそうですね……私なんかで大丈夫かなって思いますけど」


 ……いや、大丈夫も何も最強クラスでしょ既に。

 で、そのシルヴィと同じ位……ステラも凄く強い力を持っている。

 改めてそういう目でみれば、それはすぐに分かった。


「ふーん。じゃあ二人はパーティーって感じか?」


「いや違う違う、知り合ったばっか」


「そ、そうですね。お互い元聖女って分かって、それで一回お話しましょうかってなって……」


「なるほどね。でもまあこうやって境遇全く同じみたいな奇跡が起きてんだからよ、もう二人でパーティー組んじまっても良いんじゃねえの?」


「「……確かに」」


 ステラの提案に私達は思わず同時にそう口にする。

 そして同時にという事はつまりそういう事だった。


「えーっと……じゃあこれ、よろしくお願いしますって事で良いんですかね?」


「うん、良いんじゃないかな。よろしく」


 そんな風にあっさりと私とシルヴィはパーティーを組む事となった。

 そして奇跡は二度起きている訳で……だとすれば後一人はどうだろうか?

 ……というより、どうしてそんな凄い力があってウェイトレスさんなんてやっているのだろうか?


「おーなんかおめでとう」


 パーティーを結成した私達を祝福するようにそう言って手を叩くステラに私は疑問をそのまま問いかける。


「ところで私の見立てだとステラも無茶苦茶強いと思うんだけど、なんで冒険者とかじゃなくてウェイトレスなんてやってるの?」


「なんてっていうか、前職首になったから普通にどこか就職しないとって状況でウェイトレスっておかしいか? 冒険者より真っ当だと思うんだけどよ」


「……」


 ご、ごもっとも過ぎてぐうの音も出ない!

 なんか……人としてとっても立派な気がする!

 と、なんだかあっさり冒険者になる事を決めた自分は結構やベー奴なのでは? と不安になってきた所でステラは言う。


「まあ最初から冒険者って選択肢は浮かんでこなかったんだけどさ、実はこうしてウェイトレスやってるのは自分でこの仕事をしようって決めたからって訳じゃないんだ」


「というと?」


「……聖女クビになって割と真面目にどうすれば良いか分からなくなってさ……そしたら偶々入ったこの店で、店長と女将さんが色々と察して話聞いてくれて……住み込みで働かせてもらう事になったんだよ。その結果仕事がこれだったって感じで。そんな感じだから真っ当だとかどうとか言える立場じゃなかったな。自分で何も選んでない」


 そう言ってステラは笑みを浮かべる。


「まあとにかく……二人共冒険者頑張れよ。俺も同じくらい頑張ってこの店を今よりもっと繁盛させてみせるからさ……あ、そんな訳だから今後ともご贔屓に」


「は、はい! 勿論です!」


「そうだね。また顔を出すよ」


 言いながら、一つ諦めが付いた。

 シルヴィとパーティーを組んだ時、ステラも一緒にどうだろうかと考えた。

 私達と同格の強さもあって、悪い人ではなさそうで。

 だとすれば一緒に仕事をしていく仲間としては大歓迎だなと、そう思った。


「さて、小休憩終わり! 俺そろそろ仕事に戻るよ」


「うん、頑張って」


「じゃ、じゃあまた……」


「おう、またな!」


 だけどそう言って私達の席から去っていくステラは、どこか居場所に帰っていく様な感じがして。

 だから彼女を無理矢理勧誘するような。

 この場所から引きはがすような事はしてはいけないと思った。


 だから、勧誘はしなかった。


 ただこれから普通に友達として付き合っていければいいなと、そう思ったんだ。

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