第17話『修学旅行・5・アキバ 初音ミク』


銀河太平記・005


『修学旅行・5・アキバ 初音ミク』    






 別名児玉戦争とも呼ばれる満州戦争(2194~2195 正治27~28)から四半世紀、戦時中に即位された今上陛下の御代も二十五年の一区切りということで、御即位二十五年の記念行事が目白押しである。未来(みく)たちの修学旅行もうまく御即位記念月に当っていたので、羽田宇宙港に着いてからは班ごとの自主スケジュールということになっている。大方の生徒は慣れない元宗主国での旅行は学校登録の旅行社に任せ、到着早々手配のパルス車に乗って、それぞれの目的地に飛んで行った。


 中には日本国内の出身地や宗家(火星移民組の古い者は、もう五代目になる者も居て、地球におけるルーツを大事にし、火星の者が来球する時には、宗家が何くれと面倒を看る習慣があって、特に日本出身者に、その傾向が強い)が面倒を見ることもあって未来たちのように全て自分たちでやってのける者は少ない。




「駐車場だけは頼らざるを頼らざるを得なかったのよさ」




 ちょっと不服顔のテルは、それでも器用に駐車を決めた。


「なんだったら旅行中、ずっと駐めていただいてもいいんですよ」


 応対に出てきた総務のニイチャンが嬉しいことを言ってくれる。


「ありがと、でも、あちこち周るかや、とりあえず今日だけでいいのよさ」


「そうですか、ま、なにか不便なことがありましたら連絡してと社長も申しています、どうぞ御遠慮なく」


「ありがと。それじゃ、社長さんにもよろしく、ゆっといて」


「みなさんが社会に出るころには、うちの火星進出も進むでしょうから、その節にはよろしく」


「うん、テルが開発したものは、まず万世橋商会に声をかけゆかや、テルの方こそよろしくなの」


「「よろしくおねがいします」」


「あんたも」


「あ、ああ、よろしくっす」


「痛み入ります、アキバは御即位関連でちょっと熱が入り過ぎていると言われています、どうぞお気をつけて行ってらっしゃいませ」


「ありがと、じゃ、行ってくゆ」


「「行ってきまーす」」


 万世橋商会の地下駐車場を出た四人は、万世橋を渡って右に折れる。


 昨年改築されたばかりの万世橋署の向かいにアキバ歴史的建造物群の中でも一番に重要文化財に指名されたラジオ会館が見えてくる。


「なんか涙出てきそうになるねえ!」


 オタクの聖地アキバの歴史は二百五十年を超え、満州戦争の後は歴史的建造物群にも指定され、日本では白川郷の合掌造りと並んで有名で、ラジオ会館やAKBシアターなど十幾つの建物が重文に指定され、そのうちの幾つかは国宝指定と世界遺産の指定のどっちが早いかと噂されている。


 ピッポピポ ピッポピポ ピッピッピピポ(^^♪


 突然、聞き覚えのある電子音が鳴り響いたかと思うと、空から棒状の何かが一杯降ってきた!


「あ、あれは!?」


「販促用のパルスオブジェか?」


 ※ パルスオブジェ:パルスエネルギーによって作られた3Dオブジェ、実際に手に触れることができるが、風船ほどの質量しかなく、一定時間が過ぎると消滅する。ゴミにならない販促グッズとして二十三世紀に入って一般化した。ニューヨークで拳銃のパルスオブジェを使って、街ぐるみで突発的シューティングゲームをやろうとしたマニアが居たが、実銃と区別がつかないので禁止になったことがある。


「あ、ネギだ!?」


 真っ先にジャンプして掴まえた未来が感動する。


 そうなのだ、聞き覚えのある電子音と言い、ネギと言い、もう、あれしかない!


 ボン!


 ポン菓子が出来あがったような音がして、ラジオ会館の屋上に身の丈三十メートルはあろうかという初音ミクが出現し『ミックミクにしてやんよ!』を歌い始めた!


 アキバのあちこちから地震のようなどよめきが沸き起こった!

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