ムカシノムサシノ

作者 愛宕平九郎

独歩的な筆づかい

  • ★★★ Excellent!!!

【ネタバレ的に内容に踏み込みます。未読の方ご注意ください】

長く親、または大人の庇護下に育つうちに思春期とか青春期に突入した者が、世の中とか社会とかとの適切な距離をはかりかねて多少けったいな言動をするのは自然なことと思われます。
言動がけったいなことになるのは、ひとえに客観性に乏しいからで、人と関わったり人との関わりを断ったり、とにかく色んな体験をするうちにそれを持って、節度とかマナーとか常識を身につけるのだと思います。

本作の視点人物・林原君は内向的で年齢の割に客観性を持っていて、でもその友だちの林君は神経太く、けったいな言動ひんぱん。
そんな二人は、実にどうも冴えないけれども、なんだか愛おしくて。
作者によるユーモアでコーテイングされたふたりの軽妙なやり取りの中には、実は切ないものが底に流れていることが徐々に判明し、キラキラしていたり恋愛に喜び悲しんだり、闇の中でもがくばかりが青春ではなく、ふたりの一見平凡な時間もまた掛けがえのない青春と感じて、そこが切ないのかと思います。

プラス、本作に奥行きを与えているのは国木田独歩という作家が扱われていることで、文豪ストレイドッグスでお馴染みの独歩といえば『牛肉と馬鈴薯』で理想と現実のせめぎ合いを思考し、時代に先駆けたスケール大きい作品を物する一方、『忘れえぬ人々』のように人が生きる姿に深い洞察を示した作家であります。

林君と林原君、ふたりのユーモラスでありながら切ないものを描いた物語はラストで一変し、冴えないふたりの青春模様というミニマムな物語が時にまつわる変化という大きな物語へと展開される筆づかいが、実に独歩的でとても感激した次第です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

その他のおすすめレビュー

読み専スプラッシュさんの他のおすすめレビュー 4