「つまらなくはなかったぞ」

 ベルゼと真陽留は、お互い全く引かない攻防を繰り広げていた。だが、真陽留は必死に食らいついているといった感じだが、ベルゼはまだ嘲笑うような余裕の笑みを浮かべている。


 大鎌を振り上げ、真陽留はそれを見て先の動きを読み避け、拳を繰り出す。しかし、それを綺麗に受け流されたり、避けられたりしているため、どんどん真陽留の体力が削れる一方だった。


 息が上がってきており、真陽留も体力の限界が近い。


「やはり、人間はこの程度か。このまま死んでもらおう」


 最後だと言わんばかりにベルゼは大鎌とは別に、複数の槍を自身の前に作りだした。

 その槍の刃先は真陽留に向けられ、一斉に襲いかかってきそうな雰囲気に、彼は少したじろぐ。


「これで終わりだ」


 ベルゼは複数の槍を先に放ち、追撃のように彼自身走り出す。

 先に放たれた槍を避け、真陽留はそれと同時に振り上げられている大鎌の手持ちの部分を掴み、動きを封じる。

 お互いの近い距離の中見合い、次の攻撃にどう移ろうか考える。真陽留は必死に受け止め、ベルゼは口元に笑みを零しながら。

 

「視野が狭いな魔蛭」

「なっ、がっ!!」

 

 大鎌に気を取られていた真陽留は、ベルゼからの蹴りを避ける事が出来ず、溝内に食らってしまった。その隙、彼が避けた槍をベルゼが操作し、狙いを定める。

 溝内をやられた事によりすぐに動けない真陽留は、目線だけを槍に向け、力の抜けた足で何とか動こうとお腹を支える。それでもすぐに動く事が出来ず、風を切る音と共に彼に襲いかかった。


 ――――――――バシャン


「ヘマやってんじゃねぇわ。一つ無駄にしただろ」

「うるせぇよ……」


 真陽留に当たるはずだった槍は、横から放たれた液体により溶けるように地面へと落ちた。横には明人が空の小瓶を持って立っている。


「人間が小賢しい真似を。だが、その小瓶も数に限りがあるはず。あと、何回──防げるか」


 わざとらしく笑い、大鎌ではなく再度槍を作り出し、後ろへ下がり二人に向けて放った。


「後ろに下がった?」


 今の行動に明人は疑問を抱き眉を顰めたが、それより攻撃を避ける事を優先。真陽留も同じく避けているが、槍が地面に刺さるとすぐさま抜き取り同じ槍を操作してしまうため意味はない。その際、ベルゼは一切槍から目を離さない。


 真陽留と明人の周りを槍が駆け巡り、避ける隙間が徐々に無くなっていく。まるで鳥籠のように囲まれ、明人達は身動きが取れなくなっていった。


「もしかすっとあの悪魔──」


 明人は何かわかり、したり顔を浮かべポケットからペンライトを取り出し前方に向けて光を出した。すると、槍が薄くなり、光が向けられた所だけ消えた。その隙間を走り抜け、槍の檻から抜け出す事に成功。


「なっ、おい!!!」


 真陽留は彼の行動に着いていけず取り残されてしまったが、何故か槍は真陽留を狙う事はせず明人に向かって行く。ベルゼも彼の方を向き何をするか見ていた。


「──くそっ!!」


 槍が明人の左手を掠めてしまいペンライトを落としてしまった。その衝撃でライト部分が割れてしまい使えない状態になる。それでも彼は走り続け、真陽留が壊した壁まで行く。


「何を──」


 真陽留は明人がやろうとしている事が分からず、困惑していた。そんな真陽留を気にせず、彼は地面にばらまかれている石や固まった土を手に取りベルゼに向かって投げた。


「こんなもの」


 ベルゼは手で弾いたが、固まった土は、弾かれた瞬間粉砕し彼の顔へとかかり、思わず目を閉じた。すると、なぜか明人に向かって放っていた槍は動きを止め、その場にカランと落ちる。


「槍が、動きを止めた?」


 真陽留はなんの事か分からず、動かなくなった槍を見る。


「簡単な話だ。この槍は手で操ってんじゃねぇ。視線で操っていた。それなら色々辻褄が合う」

「辻褄?」

「あぁ。あいつはいつも槍は前方に投げていた。そして、死角からの攻撃に弱い。それは、槍を操るため視野が狭まっていたんだろう。まぁ、元々視野は狭そうだが」


 地面に降りたベルゼは顔の土を払い、顔を真っ赤にし怒りの表情を明人に向けた。


「貴様!!」


 怒りで身体を震わせ、明人を血走った目で見る。そんな目を向けられている彼は涼しい顔で、地面から固まった土を拾い蔑むように笑った。


「どうした悪魔。たかが人間にそんな怒って。何かあったか?」

「っ貴様!!!!」


 ベルゼはまた槍を操り始め明人に向けて放った。それと同時に明人も彼に向けて固まった土を投げる。二度も同じ事をするはずもなく、今回は弾かず顔を逸らし避けたのだが、避けたと同時に目前まで石が投げられていた。


 それをベルゼは咄嗟に弾いたが、その一瞬、槍から視線が外れてしまいコントロールを失う。

 明人はその隙を逃さぬようナイフを彼の投げた。


「っ!? ははっ、残念だったな人間。コントロールを見誤ったか」

「いや、バッチリだぞ」

「何っ──」


 明人の言葉と同時に突然、ベルゼの左腕が吹き飛んだ。そこからは大量の鮮血が舞い、周りを赤く染めていく。

 鉄分の含んだ匂いがこの洞窟に充満した。


 ベルゼは目を大きく見開きながら後ろを確認すると、真陽留がナイフを片手に持ち立っていた。右手辺りが赤く染っている。


 真陽留が明人の投げたカッターナイフを受け取り、ベルゼの腕を切り落とした。

 先程同様ナイフの輝きは異常。光に反射してでは無く、ナイフ自体が輝いている。よく見ると、彼の左手には空になっている小瓶が握られていた。


「なるほどな人間。カッターナイフに記憶の欠片をかけたのだろう。そうすれば、我の体は簡単に引き裂ける」

「そういう事だ」


 明人は何時でも投げれるように石を片手に持ち、弄んでいた。


「許さぬ。許さぬぞ人間風情が。我を二度も傷付けるなど!!! 絶対に許さぬぞ!!!」


 ベルゼの怒り狂った声が洞窟を震わせる。それと同時に飛び散った鮮血を集め、大鎌を三つ作る。今度は腕を再生させる訳でなく、武器を作る事に力を使った。


「これは視線で操るものでは無い。残念だったな人間。我を完全に怒らせた。もう、終わりだ」


 自身の切り取られた腕など気にせず、大鎌を作り出し明人に向けて放とうとした。それを真陽留は防ごうとナイフをベルゼに向けて突き刺そうとしたが、一瞬で蹴り飛ばされる。


「がっ──」

「まひっ──」


 気が逸れてしまった明人に、大鎌を三つ一気に投げた。


「終わりだ、つまらなくはなかったぞ」

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