「お前が決めろ」
「それはカクリにも効くのか? 妖と悪魔は別だぞ分かってんのか?」
「そんなに大きな違いあるのか? 人外と言うだけでもう同じ部類だろう」
真陽留がなんともないように明人の言葉に返すが、明人はその言葉に呆れ顔を浮かべ、ため息を吐く。
「ここまでのアホか……。なるほど、赤点ギリギリ常習犯だっただけの事はあるな。さすがだ、俺には真似出来ない行ないだ。褒めてやるよ」
「いちいちムカつくなお前」
拳を震わせ、怒りを抑え込む真陽留を横目に、カクリは魔法陣に手をかざした。すると、カクリの力に反応するように、魔法陣が発光する。
「なにが──」
カクリは驚きのあまり咄嗟に後ろへ下がってしまった。すると、魔法陣は光を失い、暗くなる。確認するようにまた再度カクリが手をかざすと光だし、離れると光を失う。効果は十分だ。
「問題なさそうだな」
明人はその様子を見てボソッと呟き、カクリの肩に手を置く。
「その魔法陣、効果がどれだけかは知らんが少しは使えるらしい。時間が無い、やるかやらないかはお前が決めろ」
鋭く光る瞳をカクリに向け、明人は圧のある言葉を言い放つ。
「…………決めろと言う割には、やれと言っているようなものでは無いか。選びようがない」
「俺は強制した覚えはないが、そう言うという事はやるという事だな。魔蛭、黒い匣は上にある。取れ」
「へいへい」
最早強制的にやらせようと、明人は真陽留に指示を出した。
もうツッコム気力も無く、呆れ気味に小瓶を何個か手に取る。中にはしっかりと黒く染った液体が入っていた。
カクリはまだ真陽留を警戒しており、小瓶を差し出してくる彼の手から受け取ろうとしない。それだけではなく、鋭い目を向け睨んでいる。
「…………はぁ。おら、これなら良いだろ」
真陽留は床に小瓶を四つ置き、少し距離置いた。離れた事を確認すると、警戒しながらもカクリは小瓶に手を伸ばし、おそるおそる触れる。
何も無い事がわかり、小瓶を四つ手に取ってすぐ明人の元に駆け寄った。
「明人、これは問題ないか。何か細工をされてないか、すり替えられてないか。確認してくれ」
「俺より疑ってんじゃねぇかお前」
「当たり前だ」
カクリは真陽留の前で堂々と明人に確認して欲しいと口にしている。それを、苦笑いを浮かべながら彼は見ていた。
疑われるような事を今まで散々やってきたため、これに対しては何も言えなかった。
明人も苦笑いを浮かべながら四つの小瓶を受け取り、まじまじと見て、中を確認している。
「なんもしてねぇーぞ」
「分かっとるわ。だが、しっかり確認しねぇとこいつがうるせぇーんだよ。餓鬼は変に疑い深い時があるからな。菓子を途中で取り上げると泣き出し、自分の物だと主張するように自身に引き寄せるだろ。あれと一緒だ」
「違う」
そんな会話をしながら明人は確認していると、大丈夫だとわかり「問題ねぇよ」とカクリに返した。
それでも、疑いが完全に晴れた訳では無いらしく、真陽留を睨みながらカクリは小瓶をぎゅっと抱きしめた。
「時間が無いんじゃねぇの? さっさとやれよ」
「命令するな。話すな口を開くな菌が飛ぶ」
「…………子供は親に似るというものを目の前で見た気がするわ」
カクリの言葉に真陽留は言い返事はせず、呆れたように明人を見る。その奥では、呆れたような目線を向けられている明人が、口元に手を当て笑いを堪えていた。
「それじゃ、やる」
「あぁ。菌を飲み込まないように気をつけろよ」
「分かっておる」
「分かるな」
カクリの返答に真陽留がすかさずツッコムが、それを気にせず小瓶をゆっくりと開けた。
開けた小瓶を床に置き、カクリは魔法陣の上に立った。すると、魔法陣は赤く光り、そこから光の壁が現れカクリを包み込む。
その事に驚き動こうとした時、明人が「問題ない」と口にしたため足を止めた。
「あ、明人よ。大丈夫、なのだな」
「問題ない。早くやれ」
カクリは横目で明人に確認し、固唾を飲む。そして、床に置いた小瓶を一つ手に取る。
大丈夫と言われたとしてもまだ恐怖があり、またちらっと明人に目を向けた。だが、明人はカクリを見るだけでなんの反応もしてくれない。
小瓶に再度目を向け、不安げに眉を下げる。だが、明人の言葉を信じると心に決め、蓋を開けた。顔を上にあげ、小瓶を傾け一気に黒い匣を飲み干した。そのままの勢いでもう一つ、もう一つと飲み、床には空の小瓶が四つ転がった。
最初は何も異変がなかったため、三人は不思議に思いカクリを見ていたが、いきなりカクリが胸元を強く掴み徐々に苦しみ出した。
「ぐっ……」
息が荒くなり、目は血走っていた。
その様子を明人は険しい表情で見て、真陽留も心配そうに眉を下げる。
見続けていると、カクリの姿が徐々に変化していく。髪は伸び、耳は狐のように尖り。お尻からは九本の尾が生える。力の制御が効かなく暴走した時の姿になった。
もし、今までと変わらないのであれば、誰彼構わず襲ってしまうただの化け狐。明人が何を言おうと聞く耳を持たず、襲ってしまう。
苦しみから開放されたカクリは、ゆっくりと顔を上げ赤い瞳を二人に向ける。口元には笑みが浮かんでおり、牙が見え隠れしていた。そして、今にも襲い掛かりそうな雰囲気に、真陽留は思わず動き明人の前に立つ。
「俺はヒロインか何かか?」
「お前みたいなヒロインが存在したら、その世界は破滅的に面白くないだろうな」
今は何とか抑えているようだが、それも時間の問題。カクリは唸りながら魔蛭と明人を睨み、今にも飛びつかんとしていた。
「力を抑えているはずだろ。なんで──」
真陽留が不安を口にした時、カクリは咆哮を上げながら二人に飛びついた──
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