「用事を済ます」
「いーやーだーーー!!!」
「わがまま言ってじゃねぇ!! 手を離せ糞餓鬼!!」
「ガキじゃないもん!! あきとだもん!!」
「うるせぇ!!」
次の日の朝、明人はご飯を3人分作り、出した。
朝ご飯はたまごサンドなため、照史は手をしっかりと洗いサンドイッチに手を伸ばし食べ始め、昨日の晩ご飯のように急いで食べている。
ご飯を食べ終わったあと、今日こそ明人は外に出そうと抱っこをしてドアを開けた。
そこまでは良かったのだが、それから照史は外に出たくないと叫び、ドアにしがみついてしまい離れなくなってしまった。
それを明人は引っ張り離そうとするが、無理やり剥がすと怪我をしてしまう可能性があるため、思いっきり引っ張ることが出来ない。
「くそっ、おいカクリ。どうにかしろ!!」
「手が届かん」
今は明人が抱っこしているため、ドアの上の方を掴んでいる。カクリの身長では届かない場所なので、手伝うことが出来ないでいた。
「役立たずが」
「むっ。うるさいぞ」
「やーーーーーだーーーーー!!!」
照史の、悲鳴に泣き近い声がいつも静かな小屋に響き渡る。
その声で耳が痛いのかカクリは両手で冷静に耳を押え嵐が去るのを待っているが、明人は両手で抱っこしているため耳を塞ぐことが出来ない。
照史の悲鳴に近い泣き声を近くで響き、顔を思いっきり顰めてしまう。
「もう、ぜってぇ子供なんぞ保護しねぇ!」
片手に照史を持ち替え、空いた方の手で無理やりドアを掴んでいる手を離させる。すると、先程より大暴れし声が大きくなった。
腕を広げ、足をバタバタと動かす。
「いやーーーー!! いがないぃぃいい!! いがなぁぁぁぃぃぃいい!!!」
「うっ、るせぇ……」
「〜〜!! 明人よ!! 子供を私の手の届く範囲に!!」
鼓膜が破れそうなほど甲高い声に、明人だけではなく耳を塞いでいるカクリでさえ我慢の限界になったのか、必死に彼にそう伝え降ろさせようとする。
明人はとりあえず言われた通りカクリの近くに照史を寄せると、右手を照史の頭に乗せた。
「いーー…………すぅ……すぅ」
先程まで泣きわめいていた照史だったが、カクリが頭に手を置くと、すぐに泣きやみ眠ってしまった。
「何をしたんだ」
「催眠をかけただけだ。直ぐに起きるやもしれぬが、今はこれしかない」
「それを使えるんだったら最初から使えや」
「近づくと噛まれるのでな」
そう言うと、カクリは狐の姿になり明人の肩に飛び乗った。
「結局着いてくるのかよ」
「起きてまた泣かれては、困るのは明人だと思うのだがね」
「けっ」
その後は、ドアをしっかりと閉め林の外へと進んで行った。
今は警察署とは別の商店街を歩いていた。
「警察に行くのではなかったのかい?」
「ついでに用事を済ます」
「用事?」
小さな声で話しているが、周りの視線が明人達へと集中している。
「ねぇ、あの人イケメンじゃない?」
「しかも肩に子狐乗っけてるよ。ぬいぐるみかな? あ、今動いたよ」
「やば、可愛い。お願いしたら触らせてくれるかな。でも、子供を抱っこしてるから奥さんがいるのかな」
このような会話が明人の耳に入り、眉をピクピクと動かしていた。しかし、外面の良い彼なため、表情は優男をしっかりと演じていた。
「大丈夫か明人よ」
「問題ねぇわ」
そのような会話をし、前へと歩いていると照史が目を覚ましてしまった。
「ん……んんんん……ふぇ……」
「っ?! やべっ──」
今にも泣き出しそうになる照史に、顔を青くし慌てる明人。カクリが咄嗟に前足を照史の頭に乗せ、再度催眠をかけた。すると、また目を閉じ眠ってしまった。
「………時間が無いようだな」
「ちっ」
また起きられると困るため足早に商店街を抜け、ある保育園へと辿り着いた。
「ここは?」
「忙しいと嘘をつき、自分が楽をしたいがために自分の餓鬼を押し付けるのに最適な場所だ。母親の味方ってやつだな」
「絶対に違うだろう」
そんな会話をしていると、1人の保育士が彼を見つけ近付いてくる。そして、照史を目にすると驚きに目を開かせ名前を叫んだ。
「照史君!!! 今までどこに──」
近づいてきた保育士は明人と照史を交互に見て、困惑の表情を浮かべながら手をおろおろとさせている。
「申し遅れました。私は筺鍵明人と言います。照史さんを偶然見つけましたので、1番近かったこちらの保育園に失礼させて頂きました」
保育士の胸元にあるプレートには『はな しずえ』と書かれていた。おそらく、この人の名前だろう。
文字が書いてある周りには、桜の絵がデザインされている。
「あ、そうだったのですね。すいません。私は
彼女の方も明人に釣られるように丁寧に自己紹介した。
少しゆるふわのウェーブがかかった黒髪を後ろで1つにまとめ、白いTシャツに下はジーパン。ピンクのエプロンを付けていた。見た目はすごく優しそうな女性だ。
「あの、照史君は──」
「今は眠っています。ところで、保育園にしては静かにおもえるのですが、もう閉園されたのですか?」
「いえ、今はお昼寝の時間なんです」
明人の質問に、静江は笑みを浮かべながらそう返す。
「へぇ、お昼寝の時間──ですか」
「は、はい。あの、とりあえず照史君を届けてくださりありがとうございます」
静江は照史を受け取ろうと手を伸ばした。その時、ちょうど目を覚ました照史は、伸ばされた手を見た瞬間、顔を青くし怯えた表情を浮かべ、声を上げずに涙を流し出してしまう。そして、明人の服を強く握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます