分析装置を使ってみよう

 さて、お待ちかねの資源分析のお時間だ。

 現在手元にあるのは、現実で言えば昨夜、惑星カレドの時刻で言えば今日の日中に拾ってきた、この拠点の周囲に文字通り林立している「トウヒモドキ」の枝と葉。

 カノンの嗅覚に引っかかった、甘い香りのする茸。

 そしてその辺で引っこ抜いてきた雑草。


 これらを製造装置によるものづくりの資源として利用するためには、まずは分析装置にかけ、その成分などをデータバンクに蒐集させる必要がある。

 早速やってみよう。



 *────



 まずはトウヒモドキの葉っぱから

 針状の細かい葉っぱだな。

 一つ一つの葉は長さ4cm、幅5mm、厚さ1mm弱くらい。

 一つの枝からこそぎ落とすようにして拝借したものが、手のひら一杯分くらいある。


 葉を一つ摘まみ取り、爪先で潰して匂いを嗅いでみる。

 きつい匂いはしないが、じゃあどういう匂いかと言えば……

 ……駄目だな、さわやかな森の香り、という曖昧な表現しか出てこない。

 ちょっと酸味があるかな。鼻をスッと刺すような。


「えと、入れる、ね?」


 カノンが革袋に入ったそれを、分析装置にかける。

 ちなみに分析自体は十数秒ほど掛かる。

 ものによっては一分ほど。

 それが長いと感じるか、短いと感じるかはプレイヤーによるだろう。


 俺?

 俺は分析装置先生、ぱないなと思う。


 やがて、装置前面のランプが橙色から緑色に変化する。

 分析終了の合図だ。

 続けて装置上部のモニターに、質量や容積といった簡単な測量の結果と、

 成分の分析結果が表示される。


 ――――――――

 ■鑑定結果

 未登録|(草木類)

 ――――――――


 鑑定結果が「未登録|(草木類)」なのは、この植物が俺たちプレイヤーの母星アースで確認されていない草木類……ようは植物であるという意味だ。

 この星で見つかるもののうち、特に生命については、基本的には最初はすべて未登録だ。

 以後、このデータにプレイヤーが名前を与えることで、あとから同じものを分析したとき、その物体を既に分析したことがあるかどうかを判定してくれる。


 ――――――――

 ■計測結果

 質量:32.61 g

 容積:225.37 cm^3

 密度:――

 温度:――

 ――――――――


 計測結果は、見ての通り、分析装置に内蔵されている各種計測機器類による資源の計測値だ。

 密度や温度の計測は、鉱石類や液体など、ある程度計測に値するものでないと行われない。

 質量と容積がわかるのだから密度もわかるのでは、と思うかもしれないが、密度の値は分析した物質の各部分の密度がある程度均一じゃないと表示されないらしい。

 今回は細かい葉を無数乱雑に入れているから、分析物内の密度は当然均一じゃない。

 ゆえに密度は計算・表示されない。のだろう。たぶん。

 そもそも鉱石類や液体じゃないと密度を求めてもほとんど意味がないだろうしな。


 そして。

 続けてこちらが問題の、抽出可能成分の一覧になります。


 ――――――――――――――――――――

 ■抽出可能成分

 モノテルペン炭化水素類 α-ピネン

 モノテルペン炭化水素類 β-ピネン

 モノテルペン炭化水素類 リモネン

 モノテルペン炭化水素類 トリシクレン

 モノテルペン炭化水素類 フェランドレン

 モノテルペン炭化水素類 ミルセン

 モノテルペン炭化水素類 ジペンテン

 セスキテルペン炭化水素類 カジネン

 エステル 酢酸ボルニル

 ケトン ツヨン

 ……

 ……

 ……

 ……

 ……

 ……

 ――――――――――――――――――――


「つ、つよん……」

「な、なんか、いっぱい、でたね?」


 りんねるーッ!! はやく来てくれーッ!!

 思わず心の中で、植物ガチ勢の名を叫ぶ。

 いや、ここはマキノさんをたのむべきところかもしれんが。

 だが、昨日「困ったことがいつでも頼ってくれよな|(キリっ)」って言ったばかりなのに、昨日の今日でこちらからいきなり泣きつくのはちょっと恥ずかしい。

 別にそのあたりカッコつけたいわけではないが、いくらなんでも台無しすぎる。


 な、なに。慌てることはない。

 別に成分のことがわからなくても、製造装置先生はいいもん作ってくれるかもしれんし……?

 そう、俺たちはこの成分について詳しく知っている必要はないのだ。

 分析装置先生がおっしゃるなら、この葉っぱからはこれらの成分が抽出できるということで。

 あとは製造装置先生がどうにかしてくれるだろう。


「あ、でも、リモネン、だって」


 俺と同じように目を丸くしていたカノンが、ふと気づいたように呟く。


「うん?どっかで聞いたことが――あ、もしかしてレモンのあれ?」

「柑橘系の皮に含まれてるやつ、だった気がする?

 洗剤とか芳香剤でも、見るかも」

「あーあー。わかるー」


 言われればそうだな、リモネン。

 なんだよ、意外と分かる成分入ってるじゃん。

 そうだな、畑違いのだからって、最初から倦厭する必要はない。

 わかるものだけ拾っていけばいいのだ。


「あと、ピネンも、聞いたこと、ある、気がする?」

「すいません、俺にはもう無理です」


 さっそく心を折られる。

 俺はトウヒすら以下略の男だ。


「ピネンは、たぶん、ぴー、あい、えぬ、いー、えぬ? いーつける?」

「pinenかpinene……」


 呟くようにそらんじるカノンの言葉を辿る。

 おっと、ここまでヒントを貰えればさすがの俺でもわかるぞ。


「パインで、松か?」

「……かも?」


 トウヒモドキ、お前実は松だったのか……。

 そもそもトウヒって名前はたまに聞くけど、その正体を俺は知らない。

 漢字で表記されればなんとなくはわかったのかもしれないが……。

 マツの仲間なのかな?

 あとでマキノさんに聞いてみようかな。


「でも、ピネン、松だけじゃなかった気がする?

 スギとか、ヒノキにも、ある、かも?」

「なんでカノンさんはそこまでお詳しいのですの?」


 もしかして、そのあたりも一般常識の範疇ですの?

 わたくし、もしかして教養が足りておりませんの?


「アロマオイルで、見たことある気がする、の」


 なるほど、日常の知恵ってやつだな。勉強になる。

 つまりトウヒモドキくんは結局トウヒモドキくんのままなんだな。

 トウヒではないかもしれないが、松とも限らないわけだ。

 そもそもリモネンも入ってるし正体不明だよ。


「アロマオイルってことは、この葉っぱ、香りづけとかにも使えそう?」

「うん、精油、かな?

 製造装置なら、抽出まで、やってくれる、かも?」

「すげぇ、一気に文化的になった」


 見よ、これが分析装置と製造装置の力だ。

 俺たちは石器時代からはじめるのではなく、文化的な生活を維持することができるのだ。


 なお俺がこのカタカナモジレツを見ても、トウヒモドキが松の仲間だとか、精油が抽出できそうだとか、そのような情報を引き出せはしない。

 使い手の問題だってのがはっきりわかりますね、これは……。


「でも、たぶん、けっこう、量、いる? 精油として、使いたい、なら」

「そりゃあそうだ」


 でも、このトウヒモドキ、そこら中に生えてるからな。

 樹を一本頂けば、この葉っぱもキロ単位で採れるだろう。

 枝打ちしてもいいけど、木材も使いたいし、最終的には一本切るのを目指したいところだ。


「じゃあ、次は枝の方を見てみようか」


 葉っぱの方はなかなか幸先のいい結果を返してくれた。

 本体の方も期待してるぜ?



 *────



 トウヒモドキの枝のなかでも、もっとも小さいものをさらに折り千切り、20cmほどの大きさにしたものを分析装置に放り込む。

 どんなに大きくても圧縮ストレージに入れて置けばそのまま資源として使ってくれる製造装置と違って、分析装置に入れられる大きさには限度がある。

 これについても、技術を進めて行けば大きな資源のままで分析にかけられたりもするのだが……今は素直に小さくして入れよう。

 そうして分析した結果がこちら。


 ――――――――――――――――――――

 ■鑑定結果

 未登録|(草木類)|(分析済)


 ■計測結果

 質量:216.15g

 容積:245.38cm^3

 密度:――

 温度:――


 ■抽出可能成分

 モノテルペン炭化水素類 α-ピネン

 モノテルペン炭化水素類 β-ピネン

 モノテルペン炭化水素類 リモネン

 ……

 ……

 ……

 ……


 天然樹脂 ロジン

 ロジン酸 アビエチン酸

 ロジン酸 パラストリン酸

 ロジン酸 イソピマール酸

 ……

 ……

 ――――――――――――――――――――


 抽出可能成分は葉っぱと似たものが多いな。

 樹の葉っぱと樹皮って似た成分が採れることが多いのかな?

 あと植物細胞を構成しているはずのセルロースとかは抽出成分の扱いではないみたいだな。


 ……おっと、樹脂だってさ。

 ちゃんと樹脂だって銘記してくれるのはありがたい。

 ロジンだけ言われてもまるでわからない。

 しかし、ロジン? なんだそれは。『阿Q正伝』とかの人かな?

 いや、そもそも人名ではないか。

 いやいや、成分の発見者がロジンさんである可能性も……?


 そして、今回の分析はここで終わってはいない。

 分析装置先生の鑑定にはまだ続きがある。


 ――――――――――――――――――――

 ■適正評価


 【材木適正】優良


 等級:E70|(曲げ強度72|(10^3kgf/cm^2) )

 含水率:32%

 ――――――――――――――――――――


 ふえぇ……。

 建築ガチ勢の知り合いも欲しいよぉ。

 土木建築に自信があるガテン系兄貴でもいいよぉ。


 ま、こちらも別に恐れることはないんだがな。

 要は建材として優秀だってことさえわかればそれでいいんだ。

 たぶん曲げ……係数が意味しているのは、そこそこ硬いって意味だろう。

 含水率も、厳密な定義はともかく、意味合い自体はなんとなくわかる。


 こういうのは、他に比較する木材があるとわかりやすいんだがな。

 同じ含水率なのに片方は木材として優良で片方は木材として不適。

 その差は?不適の方が等級が小さい、じゃあこの値は高いほうが良いんだ、みたいな。

 逆に同じ等級なのに含水率の差で適不適が別れることもあるだろう。

 そのときは、だいたいこのくらいの含水率が材木として望ましいということが分かるはずだ。

 こういうのは対照実験でどんどん明らかにしていくことができるだろう。

 それもこれも分析装置先生が適正まで教えてくれるおかげだ。


「よしよし、とにかくこの樹は材木として使えそうってなわけだ」

「軽かったし、いいかも?」

「軽くて材木適正優良って最高じゃね?」


 いや、軽いから材木適正が優良なのか?

 どっちでもいい、要は資源として当たりの部類だ。

 俺がテレポバグしたときの森の樹なんて、何万本あろうが「材木適正:不可むーりー」だったろうしなぁ……。


「おっきく、採れたら、椅子とか、作るの、どうかな?」

「おっ、いいねいいね。

 ロッキングチェア作って外で日向ぼっことかすれば、気分は完全に避暑地だな」


 ちなみにロッキングチェアってのは、あれだ。

 暖炉の前でおばあちゃんが毛糸の編み物しながら身体揺らしてるあれ。


「それも、楽しそう、だけど。

 ……フーガくんが、ちゃんと座れる椅子、あったほうがいい、かも?」

「――んっ。ありがと、カノン。

 確かにこの脱出ポッドって、完全に一人用なんだよな。当然だけど」


 カノンの気遣いに、思わず声が詰まる。

 本来脱出ポッドはすべてのプレイヤーに与えられている。

 フレンドと拠点を行き交うにしても、それぞれの拠点は別個にあるはずなのだ。

 脱出ポッドのすべての機能を二人で共有しなければならないという状況はふつう起こりえない。

 一人用のものを二人で使っていくために、そういうのは自前で用意していかないとな。


「木の椅子と、あとテーブルもあれば、もっと快適になりそうじゃないか?」

「料理とか、食べるの、楽しそう?」

「おう、どんどん快適にしていこうぞ」


 二人で使うには、ちょっとだけ狭く感じるこの空間を広げていくためにも。

 トウヒモドキ。良い資源になってくれそうだ。

 あとで名前を与えてやってもいいな。

 このままだと俺の中でトウヒモドキで定着してしまいそうだ。



 *────



 続いてカノンが発見した、甘い香りを放つ、魅惑の光沢をもつ茸。

 手のひらほどの大きさの、蓮の葉のような形。

 表面のかすかな起伏は、まるで焼きたてのプリンのよう。

 中心部のメイプルシロップのような茶褐色から、周縁部の生クリームのような上品な白色へと移り変わるグラデーションも相まって、非常に美味しそうに見える。

 まるでパティシエが作った飴細工の洋菓子を目にしているかのようだ。


 だが――


 ――――――――――――――――――――

 ■鑑定結果

 未登録|(菌類)


 ■計測結果

 質量:26.37g

 容積:176.79cm^3

 密度:――

 温度:――


 ■抽出可能成分

 グルカン β-Dグルカン

 トリテルペン炭化水素 ガノデリン酸

 トリテルペン炭化水素 ペプチドグリカン

 トリテルペン炭化水素 フコフルクトグリカン

 ……

 ……


【未発見の成分が*四件*検出されました】


 トリプタミン類

 トリプタミン類

 トリプタミン類

 ヒドラジン類


 ■適正評価


【食材適正】不適|(不明)

 ――――――――――――――――――――


 うわでた。

 でやがりました。

 なにかしら毒っぽい成分――なんたらトキシンとかそんな感じの――が出てくるんじゃないかとは思っていたが、もっとおぞましいものが出やがった。

 遂に出やがったな「未発見成分」。


 前にも述べた通り、分析装置先生は万能の図鑑ではない。

 我らが母星アースで発見されていない成分については検出できないのだ。

 いや、この言い方は正確じゃないな。

 検出自体は可能だが、その成分がどのような性質を持ち、生物にどのような影響を与えるのかがわからない。

 分子構造自体は判明しているようで、ある程度のカテゴライズはしてくれるようだが……。


「……カノン、これ、わかる?」

「……やば、そう。たぶん……毒」

「……茸、だしな」

「……こわい、ね」


 茸。それは恐ろしい世界。

 知名度の高い茸として、食料品店で普通に売られていた茸で食中毒が起こったり。

 昔からその地方で食べられていた茸だから安全だと思ったら食中毒が起こったり。

 ちょっと調理方法を変えたら毒抜きが成されずに死に至ったり。

 ちょっと食べ合わせを変えたら毒性が発現して死に至ったり。

 触れるだけで爛れたり。

 吸い込むだけで神経系を侵されたり。

 もうなんというか、ここまでくると、人類が、その内包する神秘に触れること自体が烏滸がましいのではと思いたくなるくらい謎に満ちた生命。

 それが茸である。


 みんなは迷信を信じたりしないよな?

 縦に裂けるからって安全とは限らんぞ。

 色柄が地味だから安全とは限らんぞ。

 虫に食われてるから安全とは限らんぞ。

 茄子と煮ても安全にはならんぞ。

 塩漬けしても安全にはならんぞ。

 見た目が同じだからって、知ってる茸とは限らんぞ。

 知ってる茸だからって、毒性がないとは限らんぞ。

 一般的に毒性がないからといって、採取したその茸に毒性がないとは限らんぞ。

 特定の地形環境でのみ毒性が発現することがあるぞ。

 特定の気候の後にのみ毒性が発現することもあるぞ。


 え、そんなこと気にしてたら茸食えない?

 人工栽培の奴だけ食べていれば概ね安全だ。

 なにが言いたいかって自然の、山の茸はやばい。

 山の茸は、いたずらに採らずに、写真撮影に留めるのがマナー。

 茸が織りなす生態系は一つの小宇宙なのだと。

 とあるキノコスキーな有名人が言っていた。

 すごいなキノコスキー。


 でも、山の茸って美味しいんだ。

 だから茸狩り、なんていう文化がある。

 それが幾千の屍の上に成り立ち、

 これからも幾万の屍を築いていくのだとわかっていても。

 それでも山の茸を取る人は居続けるだろう。

 そうして年に絶え間なく死亡者を出し続けながら、

 茸図鑑の「食」の記述は今日も更新されていくんだ。

 人間の食への飽くなき探究心の成せる業ってやつだな。


 で、なんだっけ。

 未開の惑星の、茸を、食べる?

 ハハッ|(乾いた笑い)。

 余命タイマー押しといたほうが良いよ。

 いや、既に自分で押してるようなもんだけど。


 でも、逆に言えば、この世界では食って確かめられるんだよな……。

 この世界では命は無限。

 身を呈して罠を探す「漢探知」ならぬ、「漢試食」でこの茸の可能性を探究することはできる。


 でも茸の毒ってえげつなさすぎるんだよなぁ。

 嘔吐し続けてそのまま死ぬとか、

 激痛に苛まれて死ぬとか、

 内臓が壊死して死ぬとか、

 そういう極大の苦痛のオンパレードだ。

 このフルダイブ世界でそれを試すのは、ぶっちゃけ怖い。

 俺には無理だ。

 そっちは俺の分野ではない。


 だが――


「カノン、これ食うのはやめとこうぜ。

 食不適だし、たぶん古いゴム革みたいな食感だぞ」

「……。そうだ、ね。ちょっと、怖い、し」


 よかった。

 俺も食後症状の分からない茸でそれをやって欲しくはない。

 仮にやるにしても、もっと美味しいのでやって欲しい。

 それは単に、俺がもがき苦しむカノンを見たくないという、

 ただの俺の、わがままなんだけれど。



 *────



 さて、最後に雑草類だ。

 広い葉っぱのやつとか、細剣状の葉が地面からぼうぼうと生えているやつとか、3、4種類ほどを少量ずつ適当に引っこ抜いてきただけだ。

 引っこ抜いてしまった時点で、既にそれぞれの区別がつかない。

 それらを分析装置に放り込む。

 抽出可能成分については、俺もカノンも思い当たるものなしとして見流してしまったが――


「おっと?」

「ん、たべ、られる?」


 そのうちの一つについて、分析装置がこんな反応を返した。


 ――――――――――――――――――――

 ■適正評価


 【食材適正】可|(生食不適)

 ――――――――――――――――――――


 どうやらこの広い葉っぱの……なんだ、名前が分からないからただの葉っぱとしか言いようがない、とにかくこの葉っぱは食材として食べられんことはないらしい。

 だがトウヒモドキの枝が木材として「優良」であったのに対して、こちらは「可」。

 茸図鑑の食の項もそうだが、大抵こういう記述は「食えんことはないけど不味いよ」の意だ。


「……そのまま、たべてみる?」

「生食不適ってのがひっかかるし、やめておこう」


 これで「生食不適」の記述がなかったら躊躇いなく生で食うんだけどな……。

 とはいえたぶん、毒ではないんだ。

 もしも毒だったら生食「不可」とか書いてありそうだし。

 つまりひたすらに不味いだけだと思う。

 それこそ、道端の雑草を食うような青臭さを味わうことになりそうだ。

 実際、匂いも青臭いしな……。


「これは製造装置に任せてみるか」

「下処理してくれる、のかな?」

「茹でてアク抜きして……それで、そこから?」

「その時点で食べられる判定、かも」

「醤油が欲しいな」

「おひたし、できそう」


 言われてみれば、野草なんて毒性さえなければ、茹でてアク抜けばなんでもお浸しか。

 あとは味という名のクセとか舌ざわりとかエグみだけか。

 野草なんて、食物繊維の塊みたいなもんだしな。


 ともあれ、生食しない以上、今はこいつらも製造装置の資源行きだ。

 あとは製造装置先生にお任せしよう。



 *────



 さて、あらかた分析装置にかけてしまった。

 可食判定が出た葉っぱ以外の雑草類についても、目ぼしい成分はなし。

 まぁこの目ぼしい成分って言うのは、文字通り「俺が目で見てわかる成分」。

 だから俺たちにはわからないなにか有用な成分があって、製造装置先生がなにか活用してくれるかもしれんけどな。

 それについては分析装置にかけた段階ではわからない。


 さて、今回俺たちが拾ってきたすべての資源についての分析結果は、既にこの拠点のデータバンクに保存されている。

 以後、製造装置は、俺たちが今回蒐集してきた資源を「利用可能な資源」として扱ってくれる。

 あとは製造装置で、作りたいものを選ぶだけだ。

 そうすると製造装置は、今回で言えばトウヒモドキの葉や枝、謎の茸や雑草類がこれこれこれくらいあればこれこれは作れるよ、と言ってくれる。

 それを見て、足りないものを集めてきたり、もっとよさそうな資源を拾ってきて分析してみたりして、製造のための材料が足りたならば、製造装置はそれを作ってくれる。


 それじゃ、一回やってみますか。

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