テレポバグ(3)

 さて、テレポバグについて、どこまで話したっけ。


 サービス開始から1年半ほど経った頃、検証勢たちがテレポバグの原理を解明した。

 その直後にちょっとだけ燃え上がって、「テレポバグ騒動」なんてのも起こったけど、それはすぐに鎮静化した。

 検証勢によるテレポバグの原理の解明の背後には、「人柱スレ」のワンダラーたちの活動や、ガチ攻略クランの手による「未開域調査隊」などの成果もあった。

 そして彼らの起こすムーブメントによって、テレポバグは徐々にでも有名になっていった。


 そういう話だったよな。

 じゃあ、次は「テレポバグ騒動」が起こった後の、テレポバグについて話そう。


 えっ、テレポバグは原理を解明されて、運営にバグ取りされたんだろう、って?

 その通りだ。だが言っただろ。

 『テレポバグ騒動は、意外な形でこのゲームのその後の方向性を左右することになった』って。


 そう、テレポバグはこれで終わりじゃなかった。

 それどころか、『犬』の神ゲーとしての真の歩みは、ここから始まったとさえ言えるんだ。



 *────



 さて、「テレポバグ騒動」時点での、プレイヤーたちの「テレポバグ」に対するスタンスを確認しよう。

 基本的に「テレポバグ」は、圧倒的なリアリティを擁するこのゲームにおいて、『犬』のさまざまな仕様が凶悪に牙を剥く、悪質な「原因不明のトラウマ製造機」だった。

 プレイヤーたちにで受け取られていたのは事実として間違いない。


 一方で、検証勢たちのはたらきによって、「テレポバグ騒動」が起きた時点でのテレポバグは、プレイヤーたちに新たな楽しみ方と通常のプレイでは得難い恩恵を齎しうる技術グリッチとして、で一部の『犬』のプレイヤーたちに受け入れられてもいた。


 そうした状況を受けて、運営開発が行ったことは。


 二度と「テレポバグ」が起こらないようにバグフィックスを行う旨を告知し、その後検証勢たちが報告したすべての発生経路を潰す形で実際にバグフィックスを行うことだった。



 *────



 ――まあ、当然だよな。

 たとえどれだけテレポバグがでプレイヤーに受け入れられていたとしても、不意のテレポバグが存在することで、どうしてもいやな思いをする人間が出る可能性を潰しきれなかったからな。

 運営の対応は大方のプレイヤーの予想通りであり、実際非常に適切だった。


 だが、驚くべきなのはそのあとだ。

 意図的に「テレポバグ」を利用したプレイヤーたちがゲームを大きく盛り上げているのを認めると、運営開発はこのバグによるランダムテレポートという事象に「ワンダリングトラベル」という新しい名前を与え、正式にゲームに実装し、このゲームの新しい遊び方として取り入れるという決断に踏み切った。

 プレイヤーに制御可能な形でテレポバグを残すという決断をしたんだ。

 これには検証に携わったプレイヤーたちだけではなく、テレポバグを本来触れるべきでない「不正利用」として遠まきにしていたプレイヤーたちも大層驚いたようだ。


 正式実装された仕様はこんな感じだ。

 リアル時間で一週間に一度、「未開域の切符」というアイテムがプレイヤー一人一人に配布される。

 古めかしく色褪せた、その薄緑色の唐草模様の切符を持った状態で任意のポータルを潜ると、これまでのテレポバグと同じように、完全にランダムな座標地点に飛ぶことができる。

 複数人対応の大型ポータルを使うことで、フレンドプレイヤーと一緒に飛ばされることもできる。


 なお「未開域の切符」の説明欄には、このアイテムの使用によるアイテムロストについては今後一切保証されない旨、気分が悪くなった場合はすぐにゲームを中断し脳を休める旨、その他ゲーム内での体験による心的外傷などついては通常プレイ時と同様責任を持たない旨等が滾々と書かれている。

 つまり、これまでに行われていたテレポバグを、「プレイヤーが任意で起こすことができる」システムとしてそっくりそのまま再現した、ということになる。


 そんな機能を実装して大丈夫なのかって?

 ……まあ、テレポバグなしでもヤバい生き物や自然現象には行き当たるからなこのゲーム。

 チュートリアルでも散々警告されたし、いまさらという感じがしなくもない。

 逆に言えば、そういう感覚的衝撃を含むゲームであることについて事前に了承を得ているからこそ、テレポバグを「ワンダリングトラベル」というシステムとして実装することに踏み切れたのかもしれない。


 このシステムは、これまでテレポバグというものに馴染みがなかった――それを利用してガチ勢が一部地域を開拓したのは知っていたが、まさか自分がやるとは思わなかった――ライト層にも大きな衝撃を与えた。

 なにせ圧倒的なリアリティ。

 なにせアイテムロスト。

 なにせトラウマ死に戻りである。


 アイテムロストがほぼ確定している以上、装備は置いていくのが賢明だ。

 しかしステータスが存在しないこのゲームで、十全な装備なしで、存在する戦力不明の、帰還手段のない未開地に放り出されたらどうなる?

 死ぬ。一個の矮小な人間として自然の摂理に従って世界に殺される。

 ましてや十全な装備と潤沢な資源をつぎ込んでも、第1調査隊のように「ひたすら理不尽に死ぬ」こともありうるのだ。


 だが。

 そんな「常識的な恐怖」を「未知への好奇心」で塗りつぶし、その手に唐草模様の切符を握り締めてポータルを潜る『犬』プレイヤーは決して少なくなかった。

 いつ来るか分からない死は脅威だが、覚悟して迎える死はそれほど怖くない、ということだろう。


 余談だが、当時人柱スレの誰かが、未開域の切符によるワンダリングトラベルシステムについて、「昔あったローグライクゲームの超難易度チャレンジみたい」だと評していたな。

 レベル1から、初期装備無しで、最初から敵がクソ強いダンジョンを、経験と工夫でどこまで潜れるか……みたいなゲームだったらしい。

 一応最深部が存在し、しかもクリア者もいるらしいが……。

 なるほど、確かに言いえて妙かもしれない。


 まあ、そんなこんなで。

 こうして悪名高く、一時炎上したテレポバグは、その身にたしかな闇を内包したままその装いだけを反転させ、『犬』の魅力の一つとしてゲーム内外のプレイヤーたちを魅了するに至ったのだ。



 そして、ワンダリングトラベル機能が実装されてから、サービス終了までの2年以上の間。

 時にゲーム自体が「テレポゲー」「テレポ」なんて揶揄されながら。

 その刺激的なスパイスも合わさって、『犬』はプレイヤーたちを楽しませ続けたんだ。



 *────



 ……ふぅ。

 これで、『犬』の話はおしまいだ。


 ここまでいっきに話したせいで、少し疲れさせてしまったかもな。

 ここまで聞いてくれてありがとう。

 やっぱり好きなゲームを語るのって、楽しいよな。


 え、まだ余裕がある。まだ舞える?

 それじゃあ、少しだけ脱線してもいいかな。


 「未開域の切符」実装当初、この切符を用いないで、バグを用いた「天然テレポ」または「脱法テレポ」という行為が、人柱スレの跡地でひそかに横行しはじめた。

 元々の「行き先がまったく保証されないテレポ」に麻薬めいた中毒性を覚えていたワンダラー――ワンダリングトラベル機能実装前からテレポバグに夢中だった人柱スレの常駐プレイヤー――たちは、公式アイテムである「未開域の切符」によるテレポは「完全なランダム転移ではないのでは?」というなんの根拠もない疑いを抱いていたんだ。

 また日々常態的にテレポバグで死に戻っていたワンダラーたちは、一週間に一度しか切符が配布されない以上、一週間に一度しかのがあまりにも退屈だった。


 え、頭がおかしい?

 気が狂っとる?


 うん。そうかもしれん。否定はできない。

 まあ俺は「死にたかった」わけじゃないから、まだマシな方だったと思う。

 たぶんね。


 で、ワンダラーたちはどうしたかというと、運営開発が行ったバグフィックスを避けた、新たなるテレポバグの再現に躍起になった。

 幸いというかなんというか、原理自体は検証勢によって解明されており、運営が行ったバグフィックスはその処理を発生させる手段を潰すという対症療法的なバグ取りだった。

 だから、代替の経路を新たに開発してその処理を呼び出すという形で早々にテレポバグは再現できてしまったんだ。

 それに「未開域の切符」を解析し、その処理を「未開域の切符」を使わずに再現するなんて手法(バグ)も編み出されたが……それは果たして「天然テレポ」と言っていいのか謎だ。

 なんだろう、いっそジェネリックテレポとでも呼ぶべきかもしれない。


 この頃の「人柱スレ」跡地のワンダラーたちは、もはや「テレポバグ検証の人柱」という大義名分を持たない、「テレポバグ」という麻薬を求めて放浪ワンダリングする破落戸ごろつき同然の存在だったと言わざるを得ない。


 そういうわけで、「なにがあっても自己責任」「運営に迷惑を掛けない」「予想外のバグは運営開発に報告し、検証勢の間で共有を」という標語たてまえのもとに、脱法テレポは「人柱スレ」跡地を巣窟に脈々と受け継がれた。


 一応、外部から見ればデバッグ的な意味合いを持つ作業だったと言えなくもない。

 検証勢の中には、運営開発への脱法テレポ検証の返信として、要約して「その穴は通常プレイでは絶対起きないから塞がないけどほどほどにしてね」というお返事を頂いたプレイヤーもいた。

 だから、まぁ――脱法テレポは、事実上の公認であったと言えなくもない。

 というか各々が独自のバグを見つけては報告していたため、検証勢はみな報告窓口の担当さんとはもはや顔なじみレベルだったと言っていい。

 ただし文面に限る。

 その節は誠にご迷惑をお掛けしました。


 そうしてテレポバグが公式に実装され、通常のプレイヤーもランダムテレポートを楽しめるようになった『犬』において。

 いつしか「ワンダラー」という呼び名は、こうした脱法テレポを受け継ぐごく少数のプレイヤーを指す、閉じられたコミュニティ――「人柱スレ」跡地を代表とする検証勢の巣窟――における隠語となった。

 「ワンダリングトラベル」が実装されたあとでも、わざわざ重箱の隅にあるバグを探し出して好き好んで脱法テレポをやっていたような連中だ。

 不思議ちゃんワンダラーの蔑称に相応しい存在だったと言えるだろう。


 あー……気持ちは分かるが、そんな呆れたような目をしないでくれ。

 仲間とパーティを組んでやる、ゲームのシステムとして認められた「切符」による合法テレポも楽しかったが、あの「バグで異界に飛ばされる」感は脱法テレポじゃないとどうしても味わえなかったんだよ。

 どちらにせよ死に戻り前提の地獄体験ツアーであることには変わりなかったがな。

 なんというかこう……純度がちがう?みたいな?


 いやいや。

 俺は麻薬テレポ中毒者じゃないから。違うから。

 キメるのはカフェインだけだから。



 *────



 さて、最後に『犬』のサービス終了と、その後の展開の話をして、

 俺と『犬』にまつわる、長い物語りストーリーテリングの総括と行こう。


 バグと栄光の歴史からなる『犬』は、今から4年前に突如としてサービス終了した。

 絶対にもっと長生きするゲームだと思っていたから、そりゃあ当時は愕然とした。

 大学時代に送ることができたかもしれない青春をすべて『犬』に突っ込んだ元ワンダラーである俺は、莫大な喪失感に押し潰されそうになりながらも、次にのめり込めるようなゲームに巡り合うことなく就職し、ごく普通の社会人になった。


 それからの日々については、特に語るようなこともない。

 心の中になにかを燻ぶらせたまま、だらだらと日々を生きてきた。

 いろいろとやってみたけれど、結局テレポバグに勝る愉悦を得ることはできなかった。

 ……とっとと最近まで飛ぼう。


 さて、今から3か月前、突如としてとあるVRゲームのテザーサイトが登場した。

 そこには夢にまで見た『ワンダリング・ワンダラーズ!!つー』の文字があった。

 『犬』のかつてのファンたちは「ついにきたのか!」「はやい!」「きた!犬きた!」「メイン犬きた!」「これで勝つる!」と大歓迎状態だった。

 廃墟と化していた『犬』の公式掲示板には「いったいなにがはじまるんです?」「第三次犬戦だ」などと囃し立てる書き込みが連日書き込まれ、さながら祭りの様相を呈していた。

 どうでもいいがそのネタは『犬』の略称が『WW II』だった海外でしか通じない。


 かくいう俺も、そうして騒ぎ立てていたファンたちとなんら変わらない。

 またあのテレポバグが味わえるかもしれないと思うと脳が震えたものだ。

 俺でなくとも、元ワンダラーはみな俺と同じような心地を味わったことだろう。


 テレポバグには中毒性がある。

 見知らぬ景色が、それも自分の命を奪いうる景色が、足を踏み出した一歩先に広がっているという非現実感。

 ゲームだからこそ、自らの存在の連続性だけは保証されている――死に戻りという形で――中で、その身一つで異郷を旅する頼りなさ。

 震える視界、耳鳴り、不規則に脈打つリアルの鼓動の音、背筋を這う冷たい汗の幻覚、忍び寄るなにものかの視線、恐怖、幻聴、それらを気合で捻じ伏せ、自らが培ってきた知識と経験で、できるだけ長く生き延びてやるという反骨心。

 そして――最後に待つ、逃れえぬ死に戻り。


 『犬2』の発売を知った当時の俺は、4年間テレポしなかったことで忘れかけていたテレポ欲が沸々と心の底で燻ぶるのを感じた。

 そうだ。

 俺はまたあの感覚を味わいたい。

 あの感覚、あの非現実バーチャル現実リアルを俺に与えてくれるのは『犬』しかないに違いない。

 少なくともこの4年間、俺は俺を満足させてくれる体験にはついぞ出逢えなかったのだ。



 そんな俺含む前作ファンたちの期待の一方で、3か月前に現れた『犬2』のテザーサイトはタイトルを発表して以降、一向に情報が更新されなかった。

 発売日はもちろん、多くのテザーサイトが載せる開発中のスクリーンショットやゲームシステムの説明なども一切なく。


 界隈でも、


「とりあえず商標だけ取った感じかな」

「まだ情報出せるような段階じゃないってことか」

「神ゲーの次回作ってさあ」

「おいばかやめろ」

「これエタる(※エターナる。延々と開発を続けた結果最終的に未完成で終わる)やつでは」

「ウッ 古傷が」


 などと不安の声が上がり始めた。


 俺?

 俺はテレポ切れの禁断症状に苦しんでたよ。



 *────



 そんな期待と不安のムードは、今から1か月前に更新されたテザーサイトによって一瞬で払拭された。

 幻想的な世界を映す美麗なムービー、圧倒的なグラフィック、『犬』の頃からほぼ引き継がれたステータス無し・装備と技能によるカスタム要素。生産や戦闘、探索。

 それに加え、実績・二つ名といった新要素。

 極めつけは、『犬』のときにも使われていた煽り文句をオマージュした「90分ナインティ・ミニッツ心の旅をワンダリング・トラベル今 再びリ・ダイブ」。


 間違いない、これは『犬』だ。

 それも、いま最も熱いジャンルであるフルダイブ型VRMMOで『犬』ができる。

 あの瞬間の俺の脳汁は1カップは出た。

 きっと『犬』を知らないゲーマーたちの心もがっちりと掴まれたことだろう。

 もとより玉石混淆、優れたVRゲームが出れば、既存タイトルでなくとも評価されるご時世だ。

 きっと多くの人が手に取るだろうことは予想に難くない。



 *────



 そんな興奮と熱狂のなかで、俺には世間様と恐らくは共有できないであろう、一つ懸念を抱き続けていた。

 その懸念とは他でもない、『犬』の一大文化であった「ランダムテレポートバグ」についてである。


 フルダイブ式のバーチャルリアリティ、仮想現実体験ということはつまり、あたかも自分自身がその世界のなかにいるかのように感じられるということだ。

 ヘッドマウントディスプレイ・デバイスを使用する視覚聴覚型VRゲームであった『犬』から更に進んで、フルダイブシステム・デバイスを使用する全感覚同調型のVRゲームに移行した『犬2』。

 『犬』に引き続き、今回の年齢制限もなかなかにお高い。


 果たして、漏れなくトラウマ死に戻り体験の「テレポ」は存在を許されるのか?

 そもそも本来バグの出自である「ワンダリングトラベル」システムは残っているのか?

 情報が更新されたテザーサイトのどこを見ても、「テレポート」「ランダムテレポート」「テレポバグ」「未開域の切符」「切符」といった文字は見当たらない。

 別の名前でそのようなシステムが実装されているというようなことも書かれていない。

 テレポバグ自体が開発の想定外であった以上、それを拾い上げる形で実装された「ワンダリングトラベル」が今作でオミットされている可能性は十二分にある。

 そう考えると俺は居ても立ってもいられなくなってきた。


 だめか?

 やはりテレポバグは忌み子なのか?

 バグの不正利用は許されないのか?


 期待は一転して裏返り、発売までの1か月間、俺はまるでクリスマスプレゼントの箱を開ける前の子供のようにそわそわし続けた。

 テレポしたい。

 いや、あの神ゲーが昨今のクオリティの仮想現実でできるというだけで十分じゃないか。

 でもテレポしたい。

 味覚や嗅覚と言った部分はどの程度再現されているのだろう。

 ああテレポしたい。

 これまで情報を出さなかったのはなぜだ。

 全感覚型のVRMMOになってどんな風に変わるんだろう。

 あの技能はそのまま残ってるのかな。

 ああ、テレポ。

 テレポがしたい。

 テレポ……



 旧友との再会の予感と、溢れ出るテレポ欲を胸に、

 果たして。『犬2』は無事に発売された。

 発売日、俺はいよいよ『犬2』の世界に飛び込み。

 いろいろ驚きながらもキャラメイクを終え、

 その最後、これから『犬2』の世界へ飛び込もうという、

 まさにその境界線上で。俺は。






 ――再び「それ」を起こすことに、成功したわけだ。






 *────



 さて……と。

 ようやく、ここまで話すことができた。

 あんたが買ってきてくれた『ディープブルー』も空になってしまった。

 聞いてくれてありがとな。

 これで準備は整った。


 ……そっちも飲み終わったっぽいな。

 俺と同じペースで飲み切るとは。

 さてはあんた、なかなかの豪の者だな?


 まだまだ『犬』について、語りたいこと、語るべきことはある。

 だけど……それらはこれから、いくらでも話す機会があるだろう。

 機を見て、おいおい差し挟んでいこう。



 ――さて、最終確認だ。


 『犬』の知識はだいたい身についた?

 装備とアイテムは全部置いてきた?

 わけがわからないまま死ぬ覚悟はできた?


 いいねぇ。いい目だ。

 じゃあ、まずは気軽に1回、気負わずサクッといってみよう。


 今回の素敵な旅ワンダリング・トラベルのために用意したのはこちら。

 【装備換装】『100MBの白紙の本』『異世界への招待状』


 必要なものはたったこれだけ。

 あとは身軽なこの身一つと、理不尽に殺されることへの覚悟。

 俺はそこに、最期まで生き足掻いてやるという、泥臭いスパイスも足してある。

 だってそっちの方が、愉しいだろ?




 じゃあ、目をつむって。


 無作為転移ランダムテレポートの衝撃に備えるとしよう。


 ここから始まるのは、死に戻りまで止まらない命のカウントダウン。


 それは、死が生を追う追複曲カノン


 それは、何も残らない遁走曲フーガ


 だが、だから、だからこそ――


 まだ俺たち以外はだれも目にしたことのない、幻想の色彩の中へ。


 さあ、行こうかッ!

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