雪に閉じ 13
「この城のどこかに、王女がいるのか?」
「どうでしょう……。いてくれると信じたいですけど」
「とにかく、ここがエイスガラフ城に似ているなら、メリーさんが探したほうがいいな」
現の世界のエイスガラフ城は、貴族以上でなければ入城できない。どんな大金持ちでも、一般人はすべて、城外の屋敷にて対応されるのが常らしい。見取り図すら見たことがないラトスがこの城を探索することになれば、ほぼ全部の部屋を見ていくことになる。
「そうですね。殿下が普段いるところから、探してみましょうか」
「ああ。頼む」
ラトスがうなずくと、メリーは正面にある幅の広い階段に向かって歩きだした。
一階は、窓からわずかにこぼれる外の光がたたずんでいる。階段の上が極端に暗いので、光が沈んでいるかのようだった。
ある程度階段を上ってから、ラトスはふり返る。高い位置に取り付けられている窓の外は、真っ暗になっていた。家の外が雪で埋まっているからなのか、別の世界を映しだしているのかは分からない。ただ、このまま進めば暗闇の中を歩くことになるのは、間違いなさそうだった。
「どこかに、灯りになるものはあるか?」
足元が見えなくなるほど暗くなると、セウラザは辺りを見回しながらメリーにたずねた。
メリーはしばらくその場で立ち止まって考えていたが、やがて何かを思いついたように顔をあげた。腰から銀色の細剣をぬきはなつ。
「これで、どうです?」
メリーは剣をかまえながら自信にあふれた表情を見せて、手に力をこめはじめた。すると剣身はわずかに光を帯び、周囲を照らしだした。
「お前……、便利だな」
「でしょう?」
メリーは胸を張って見せると、どこかで灯りになるものを探しましょうと言って、また階段を上りはじめた。剣を光らせつづけるのは、「祓い」の力をずっと使っているようなものだ。確かにこのまま灯り代わりにするには、代償が大きすぎるかもしれない。
階段を上がりきると、長い廊下が前方と左右に延びていた。
いずれの道も真っ暗で、どこまでつづいているのか分からない。しかしメリーは、迷わず前方の廊下に向かって足を進めた。二人は黙って、彼女の後につづく。
城の中はこんなにも広いのだなと、ラトスはほそく長く静かに息を吐きだしながら辺りを見回した。
メリーの剣の光が届く範囲しか見えないが、同じような景色がずっとつづいている。廊下の左右には、いくつもの扉がならんでいた。どれだけとおりすぎても、同じように扉がならびつづける。景色も雰囲気も、変わる気配はなかった。
いくつかの分岐点を曲がり、また歩く。
どこまで行くのだとラトスがたずねようとしたとき、前を歩くメリーの足が止まった。彼女の前には、今までとおりすぎたものよりも一回り大きい扉があった。
「ここか?」
扉の前で立ち止まったメリーに、ラトスが声をかけた。
メリーはしばらく扉を見つめていたが、やがてラトスのほうに顔を向けて静かにうなずいた。
「よし。入るぞ」
「……はい」
ラトスは念のため、腰の短剣に手をかける。
空いた手で扉の取っ手をつかみ、ひねった。カチャリと音を鳴らし、取っ手が回る。
隣にいるメリーから、唾を飲みこむ音が聞こえた。
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