雪に閉じ 10

「だが、正面からはまずいな」

「そうだろうか?」

「メリーなら、丘の下の家ごと、吹き飛ばすかもしれない」


 ラトスはいたって真面目に考えて発言したが、隣にいたメリーはぴくりと頬を引きつらせた。ラトスの横顔に目だけ向けて、にらみつける。


「そうだな」


 セウラザが即答する。メリーはセウラザに視線を移して、彼もじっとにらんだ。しかし二人ともメリーの視線には気づかず、腕を組んで考えこんだ。


「……端のほうから、斜めに少しずつ削りましょうか」


 考えこむ二人を見て、メリーが小さな声で言った。

 彼女は苛立った表情で、丘の端のほうを指差す。


「なるほど」


 セウラザが深くうなずく。遅れて、ラトスもうなずいた。

 メリーは腰に佩く銀色の細剣を抜きはなつ。丘の端に向かって、剣をかまえた。


「メリーさん。ちょっとだけだぞ。本当に。頼むぞ」

「分かってますよ!」


 叫びながら、メリーは剣に力をこめる。

 辺りの風が、粉雪を巻きこみながら剣身に集まりはじめた。銀色の細剣が光りだす。

 柄頭の赤い宝石に閉じ込められた光が、ちらりとゆれた。 


「はあああああ!!」


 気合の入った声をあげて、メリーは剣を大きくふった。

 瞬間、剣身の光はいきおいよく前方にはなたれた。周囲を舞う粉雪が消し飛んでいく。光は、丘の手前に降り積もった雪をえぐり取りながら進み、丘の端を大きく吹き飛ばした。 


「どうです!?」

「……いや。メリーさん。俺の話、聞いてたか?」

「聞いてましたよ」


 メリーは胸を張って応える。何が悪いのかと言わんばかりの表情だった。

 もしかしたら、本当にちょっとのつもりだったのかもしれない。もしくは、腹の虫の居所が悪かったのだろうか。


「気合入れなくていいんだ。メリーさん。軽く、軽く、振ってくれないか」

「じゃあ、今度は軽く振りますね」


 そう言ってメリーはにこりと笑い、再び剣をかまえた。

 じゃあ今度は、と言ったということは、わざとだったのだ。本当に虫の居所が悪くて、思い切りふったのだろう。剣をかまえるメリーの後姿を見て、ラトスは背筋が少し冷たくなった。しかし、彼女が怒っている理由はよく分からなかった。

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