風が呼び 18

「すごいですね」

「ああ」


 頂上まで登りきると、二人は、頭上に浮かびあがっている巨大な岩山を見た。その存在は強烈で、畏怖を感じるものだった。どのような力で浮かび上がっているのかなど、考えても意味はないだろう。しかし、あまりにも現実的ではないその光景に、二人はただ、目と口を大きく開くしかなかった。


 真下から見上げてみても、巨大な岩山がゆっくりと上下しているのが分かった。時々、風がうなり声をあげて乱れる。白いタイルの隙間をぬうように生えでた草をかきむしり、その上に立つ二人に、力強く打ち付けた。


 巨大な岩山の真下にある白い塔に、ラトスは目を向けた。

 塔の周辺は白いタイルが敷き詰められていて、草は一本も生えていなかった。丘の下から見たときは少し小さく見えていたが、近付いてみると、白い塔は思いの外大きく、高かった。


 塔には、縦に細長い小さな入口があった。それは、人が一人やっと通れるほどの隙間だった。二人は細長い入り口の前に立つと、首を伸ばして塔の中を見た。


 中には、あの石室の中や草原の洞窟にあったものと同じ、白い柱が立っていた。それを見て、二人は互いに目を合わせる。少し間を置いて、もう一度白い柱を見た。


「これが、ペルゥが言っていた転送石か」

「たぶん、そうですね」


 メリーがうなずくと、ラトスが先に細長い入口に身体を入れた。

 衣服をすらせながら、隙間をとおりぬける。中は、少し広い円形の空間になっていた。中心には、白い柱が立っている。


 少し遅れて、ラトスの後ろから、メリーも隙間をとおりぬけてきた。腰に佩いている剣が塔の入り口に何度もカチカチと当たって、その音が塔の中の空間に鋭くこだました。


「行ってみよう」


 隙間をとおりぬけてきたメリーに、ラトスはうなずきながら言う。

 彼女も表情を引き締めて、小さくうなずいた。



 白い転送石に手をかざすと、手のひらにかすかな振動が伝わってきた。他の白い柱と同じもののようで、ラトスはメリーにも手をふれるようにうながした。彼女は、おそるおそるといった感じで手を伸ばす。柱に指先を付けると、少しだけ手と肩をふるわせた。


「これ。大丈夫ですよね」

「大丈夫だ。たぶん。お友達のペルゥを信じよう」

「そうですね……って、今、ちょっと馬鹿にしましたよね?」

「いいや。さあ、行こう」


 そう言うと、ラトスは白い転送塔に手のひらを付けた。

 風のようなささやき声が手のひらから伝わってきて、全身を這うようにおおっていく。


 頭の中に、ぼんやりと見たことがあるような、ないような光景が浮かんできた。それは、街のようだった。転送先は、ここなのだな。不思議な光景に、ラトスは心の中でうなずくのだった。

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