風が呼び 16
「あの丘の上の転送塔はね。その上の、あの大きなのと繋がってるんだよ」
恥ずかしそうな顔をしたまま、ペルゥは少し上のほうに前足を向けた。その先は、空に浮き上がっている巨大な岩山だった。
「あれに!?」
「そうだよ!」
メリーが驚いて、浮き上がっている岩山を見た。確かにあそこまで行くには、転送石などというものを使わなければ、飛んでいく以外に方法が無さそうだった。
「とりあえず、まず最初は、あそこに行くほうがいいかな」
「あの上か」
「そう。あの上ね」
「あそこには、何があるんだ?」
「んー。それはねー。行ってからのお楽しみかな!」
ペルゥは、楽しそうに笑うと、跳ねるように飛びあがった。
宙でくるくると縦に回り、ふわりとメリーの肩の上に降りる。そして、少し残念そうな顔を作ってから、メリーの顔を覗きのぞき込んだ。
「でも、ここから先は、ボク、行けないんだ」
目をほそくして、ペルゥは言った。
メリーの肩の上で、がくりと肩を落とすような仕草をする。
それからまた、ラトスの前に、ゆっくりと飛んでいった。あまりに飛び回るので、忙しないなとラトスは眉をひそめた。しかしペルゥは、ラトスのにがい表情に気を留めない。彼の胸の前で、笑顔を作りながらフワフワと浮いた。
「この先にいる≪セウラザ≫という人と、会ってくるといいよ」
「セウラザ?」
「そう。必ず、君たちの力になってくれるはずだよ」
前足をパタパタと動かしながら言うと、また、いきおいよく飛びあがった。
今度は、メリーの肩の上に飛び乗る。動き回らないと、この獣は死ぬのだろうか。ラトスは、傷のある頬を引きつらせた。
「ごめんね。本当はボクも付いていきたいんだけど」
「ペルゥは、転送石っていうのが使えないの?」
「ううん。使えるよ。ただ、この先だけは立ち入り禁止みたいなものなんだ。ボクたちはね」
前足を大きく横に広げて、くるくると回りながら、ペルゥはがっかりした様子を見せた。
「だけど、すぐに会えるよ!」
「そうなの?」
「もちろん! メリーとボクは、友達だからね!」
「友達ですね!」
メリーは、ペルゥの小さな前足を指先でつつく。突いた足がパタパタと動く。それを見て、メリーは、嬉しそうに笑って飛び跳ねはじめた。彼女に合わせて、ペルゥも上下に飛び回る。
ラトスは一人と一匹がじゃれ合う様子を、少しはなれてしばらく見ていた。あの中には、入って行けそうにないと思ったのだ。
彼女たちのじゃれあいは、なかなか区切りがつきそうになかった。
仕方なく、ラトスは、なだらかな丘に目を向けた。丘の上の白い転送塔が、光に照らされている。その上空には、巨大な岩山がかすかに上下にゆれて、浮かびあがっていた。説明を受けた後だと、白い転送塔が、岩山を支えているようにも見える。
この先にペルゥは行けないと言っていた。
自分たちを監視したいなら、出来るかぎり目のとどく範囲にいたいはずだ。それでも行けないということは、この先が一種の特別な場所だということだろう。
そんな場所にいる「セウラザ」とは、何者で、何の力になるというのだろうか?
メリーと遊んでいる「ペルゥ」も、何者で、なぜ監視し、なぜ早くここから帰らせようとするのだろうか?
自分たちが知っている世界と、ここは違うと、ペルゥは言った。
それは、いったいどういう意味で、どんな危険があるのだろうか。
考えてもきりがないことをラトスはしばらく考え、思考がループしそうなところで、やめた。結局は行ってみたほうが早いのだし、どの道行くと決めているのだ。
出来るだけ、安全に進むように努めてきた。もちろん、これからも、そう努めるつもりだ。それでも、理解がおよばないことが多い。その場の機転で切り抜けなければならない多くの危険がありそうなのは、今更のことだった。
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