風が呼び 15

「なんだい?」

「あの丘の上にある、白い塔なんだが」

「ああー。転送塔のことかい?」

「転送塔……?」


 ラトスは小さく首をかしげて、白い塔のほうに向きなおった。

 ペルゥは、ラトスの後ろからフワフワと飛んできて、彼と同じ方向をみた。小さな前足で、塔を指しながら、あれでしょ? と言う。


「そうだ」

「うん。あれは、転送塔といって、中に転送石っていう、うーんと、ながーい石があるんだよ」

「石?」

「そうだよ。君たちも、ここに来るときに使ったでしょ?」

「白い、柱みたいなもののことか」

「そう。それ!」


 ペルゥは、満足そうな顔をしてうなずいた。そして、ゆっくりとラトスとメリーの間にもどり、大きく前足を動かしてみせた。どうやら、転送石の説明がしたいらしい。

 ペルゥの動きは、ラトスからすれば、わずらわしいものだった。だが、メリーは、そうではないらしい。目を輝かせて、その獣の仕草をじっと見ていた。もしかしたら、ペットのような感覚で見ているのかもしれないと、ラトスは思った。


「転送石は、ふたつでひとつなんだ」

「ほう?」

「ふたつでひとつなんだ」

「……つまり?」


 説明をするが、下手なのだろうか。

 ペルゥはそのあと、長い時間をかけて、転送塔の説明をした。


 メリーは、ペルゥの話に付いていけないらしい。途中から頭をかかえて、ラトスの顔を何度も見てきた。お手上げなので任せたと言いたいようだ。メリーは申し訳なさそうな顔をして、ラトスに何度も小さく頭を下げてきた。


 仕方なく、ラトスは、ペルゥの説明を延々と聞いた。

 つまり転送石とは、元々ひとつであったものを、ふたつに分けたものらしい。

 ふたつに分かれても、密接な関係を保ったまま、強く惹かれあいつづけているのだという。その惹かれあう力を利用しているというのだ。ふたつの石がどんなにはなれていても、片割れの場所へ移動することができるようにしているらしい。


「なるほど」

「分かってもらえた?」

「いや。まあ、本当のことを言えば理解不能だが、そういうものなのだと……思うことにはしたよ」

「それは良かったー!」


 ペルゥは、また満足そうに笑顔を見せた。

 メリーは、まだ頭をかかえていた。察して、ペルゥは彼女の前に飛んでいく。ラトスはペルゥを追いかけて、彼女の隣に腰を下ろした。突然近くに寄ってきたラトスに、メリーは驚いた。しかし、ラトスは気にせず、指先で絵をかきながら説明しはじめた。


「つまり、隧道(トンネル)だ」

「隧道、ですか?」

「そうだ。隧道はひとつだが、出口はふたつある」


 入口から入ると、道を通って、反対側の出口に出られる。

 逆から行っても、同じことだ。転送石は、その道を歩くための時間と労力を短縮してくれるということだろうと、ラトスは説明した。


 その説明に、メリーは口を大きく開いて何度もうなずいた。

 彼女の隣で、ペルゥも目と口を大きく開いて、何度もうなずいていた。


「分かりやすいね!」


 ペルゥは、喜びながら言う。小さな前足をぱたぱたとふったあと、ラトスのほうに力強く伸ばしてみせた。ラトスはその小さな前足を、指先で軽くはじいてやった。ペルゥは、後ろにころりと回って倒れる。起き上がろうとするときに舌をぺろりと出すと、恥ずかしそうに笑った。

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