風が呼び 02
「テラズの宝石?」
メリーは首をかしげる。おとぎ話のテラズですか? とラトスにたずねた。彼女の言葉に、ラトスは小さくうなずいた。
テラズとは、はるか昔にいたとされる魔法使いの名前だ。
おとぎ話として多くの人に知られていたが、テラズに関わる物は、意外にも数多く発見されていた。そのうちの一つが、テラズの宝石だった。
一般には、その宝石を持つと魔法が使えるようになるとされていた。真偽はともかく、世の好事家が血なまこになって探し回っているという。
「ラトスさんは、あの宝石を他で見たことがあるのですか?」
「ある」
「うそ?」
「いや、本当だ。むしろ、持っていた」
そう言うと、ラトスは自分の手のひらを見つめ、しばらく考えた。
ラトスが持っていたテラズの宝石は、一年ほど前に偶然手に入れたものだ。それは、手の中に納まるほどの小さなものだった。今二人のいる、石室の中心に刺さっているものは、人の身体ほどの大きさがある。
「これを持って帰ったら、国一つ買えるぞ」
「うそ!?」
「いや、本当だ」
ラトスの言葉に、メリーは目を輝かせて光る杭を見る。もちろん、それは持って歩ける大きさではない。持って歩けたにしても、今はそれどころではないのだが。
ただ、ラトスが持っていた小さなテラズの宝石でさえ、売り払えば何十人もの人が一生遊んで暮らせる金になると聞いたことがある。
その小さなテラズの宝石は、今はもう無かった。
妹のシャーニの命と共に、奪われたのだ。
そのため最初は、強盗に妹が殺されたのだとラトスは思っていた。最近羽振りが良くなった人間がいないかと、エイスの城下街を散々探し回ったが、結局そんな人間はいなかった。
そこまで思い返していたところで、ラトスは頭の中と身体の奥に、黒い靄のようなものがかかり、渦巻きはじめるのを感じた。
またかと、突然のことにラトスは頭をかかえる。
直後、今度は息苦しくなり、うずくまった。
メリーはラトスの様子に気付き、隣にしゃがみ込んで彼の顔をのぞき込んだ。何か言っているようだが、ラトスには何も聞こえなかった。
森の中で、妹の夢を見た後のようだと、ラトスは思い出した。
あの時は、妹の夢を見た後の息苦しさが残っていた。その後に、黒い靄のようなものが、身体の奥底に渦巻きはじめていることに気付いた。しかし今回は、黒い靄と息苦しさが同時におそってきている。
今までとは、どうも違うようだった。
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