風が呼び

風が呼び 01

 背中に冷たい痛みを感じて、ラトスは目を覚ました。


 目がかすんでいる。視力がもどるまで待ち、最初に目に入ったものは石の天井だった。ドーム状に組みあげられていて、ずいぶんと高い。


 ラトスは目だけ動かし、辺りを見回してみた。右も左も、上も下も、同じように大きく切り出された石の壁で囲まれていた。その石室の広さは、大きな屋敷が丸ごと一つは入るほどだった。


「ラトスさん?」


 聞き覚えのある女性の声が聞こえた。


「良かった。気が付いて」


 声の主は、ラトスの横に座っていた。メリーだった。

 ラトスがそちらのほうに顔を向けると、彼女はほっとしたようで、笑顔を見せた。


「ここは、どこだ」


 ラトスは、石の床に手をついて上体を起こそうとした。その瞬間、背中ににぶい痛みが走って、彼は顔をゆがめた。ずいぶんと長い時間、石の上で倒れていたのだろう。身体は冷え切っていて、背中の筋肉と骨は、岩のようにかたくなっていた。


「わかりません。私も今、目が覚めたので」


 メリーは周りを見回しながら言うと、だらりと肩を落とした。


 どこかの地下室だろうか? ラトスは考えながら、冷たい石の床を手のひらでなでた。石の表面はざらざらしていたが、塵ひとつ落ちていなかった。


「閉じ込められているのでしょうか」

「どうだろうな」


 人を閉じ込めるにしては、広すぎる牢獄だ。

 ラトスは固くなった背中を伸ばしながら、ゆっくりと立ち上がった。メリーと同じように、辺りを見回してみる。牢獄ではないようだが、出口のようなものは無いように見えた。


「あの光ってるものは、何でしょう?」


 メリーが指差した先には、薄っすらと青白く光る、杭のようなものが石の床面に刺さっていた。杭の光は、光量を落とさず薄っすらと広がって、石室全体を照らしている。綺麗ですねと彼女は呆けた顔で見惚れていたが、その隣でラトスはぞくりとした。


「あれは、……テラズの宝石、か?」


 ラトスは目を見開いて言い、硬直した。


 光る杭は、青と赤の光が入り混じっていて、じわりとにじむように青白い光をはなっていた。その光にラトスは見覚えがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る